CRM:エマージェンシーコール
NHKテレビで、エマージェンシーコール<緊急通報指令室>「埼玉」を見た。
https://www.nhk.jp/p/emergencycall/ts/M67V8QZ8LQ/
埼玉県警とさいたま市消防が市民からの緊急通報を受けて、
各々の状況に応じて、危機への対応や人名救助、救急搬送の手配を進めるドキュメントは、
緊迫感があり、また個々の様態や要望に迅速・適切に対応する職員の様には大きな感銘を受ける。
この番組を見ながらふと映画“ボストン市庁舎”を思い出した。
https://cityhall-movie.com/
この映画はボストン市役所のコールセンター“BOSTON311”に市民からかかってきた電話を起点として
ボストン市の職員が市民サービスのために地域で活躍するドキュメントを中心に描いたドキュメンタリー映画だ。
“BOSTON311”のホームページには英語で、「緊急以外の市民サービスへのリクエストについては、電話番号311番で24時間365日お受けします。」とある。
つまり、市民のリクエストに緊急性が有るか無いかという違いはあるが、“BOSTON311”で市民の要望を受ける様は、警察や消防の緊急通報の対応ととてもよく似ている。
“BOSTON311”は、個々に生じた市民ニーズ(リクエスト)に対して、個々に解決しようとするone to oneの役所の姿勢が具現化したものだろう。
政令指定都市の幾つかは、もう20年も前に行政CRMを謳い、コールセンターを導入した。
しかし、このような個々の市民への適切、迅速な対応は実現していないようだ。
いったいどうしてなのか。
行政CRMとはいったい何だったのか。
2003年に政令市の先駆けとしてコールセンターを導入した札幌市は、当時の意図をこう位置付けていた。
=国内で初めての市民向け総合案内コールセンターを本格稼働
=市民第一主義、市民思考の経営に向けてITを活用していく
そして、市民サービス向上のための最重要施策として、市民は、週7日8時から21時の間、電話、FAX、電子メールで問い合わせができる。
WebからのFAQにも対応する。
問い合わせを受けたコールセンターの職員がFAQデータベースを参照しながら回答し、市民対応状況を蓄積。
市役所がそれをサービスの改善に役立て、さらにナレッジとしてFAQに蓄積するという流れ。
また、「顧客志向の経営を定着させることによって、行政への信頼感を取り戻し、市民と行政の関係 性を変化させていくこと」と定義した。
このように、札幌市の先例も、その先例に倣った他市のコールセンターも、
どちらかと言えば、整理したFAQに沿って適切に市民の質問に答えようとすることがその主な趣旨となり、
個々の状況に応じた問題の解決や個々に必要な申請等の受理までは目が届いていなかった。
もちろん札幌市の職員の方はアメリカのCRMを勉強され、コールセンター導入後から電子申請の実現まで見えていたはずではあるけれど、
我々は、多少なりコールセンターの導入により、たらいまわしが少なくなったり、蓄えられた事象のデータベースにおける“市民の声”から
各施策改善のヒントが得られるのではないか・・・・、そんなことで満足していたというか、安堵していたというか、
電話を受けたその場で市民が抱える課題を解決しようとする態度が足りていなかったと、今思えば恥じ入る部分がある。
一人一人に寄り添おうと言いつつも、札幌市が導入したスイーツにデフォルトであった、今でいうマイナポータルのような
個々に設けられた行政サービスに係るポータル窓口も封印されていたし、我々もそのような機能を実装するには至らなかった。
しかも、今となっても、自治体のコールセンターは、なかなかその質の高まりが見えず、市民から電話を受けると各所管に電話を回してしまうという
“電話交換手化”が著しいと思う。
そもそも“コールセンター”という名称が良くないなあと思って。
もっとコールセンターの役割を明確にするために名称を市民ヘルプデスクとでも変えたらどうだろう。
これならコールセンターを設けた本来の意義が明確になる。
当然ながら現状の役所の窓口においては、個々の状況に応じて必要なサービスを積極的にレコメンドしてくれる分けでもなく、
市民に寄り添うようなアウトリーチ機能さえほぼ無い。
それにも関わらず、今日のDXの取組は、ソフトの取組においても、DX後の役所の物理的な構築においても、
とりあえず形から入るとか、ただ現状をデジタル化をしてみるとか、そんなことばかりで、この機にICTの力を借りて
one to oneを実現しようとする“優しさ”も見えない。
DXの目的の在り処の程度が低すぎる。
BOSTON市に代表されるアメリカの行政のやる気を見倣いたいし、
日本においては、まずは警察や消防の個々への対応手法やその気持ちを見倣いたい。
映画“ボストン市庁舎”では、“BOSTON311”におけるやり取りのみで、いわゆる”窓口”は一切描かれていない。
そもそも、個々のニーズとサービスを介するのは“窓口”であるという前提も間違っているのではないか。
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