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DXとは、日本語で言えば“デジタル技術による変革”(Digital Transformation)となるが、一般的には各事業体が、各々のサービスやプロダクトを生み出す経営プロセスについてデジタル技術を用いて効果・効率性を高めようとするものだと思う。

結構ビジネスライクな用語の用い方で、“能率重視な組織体の運営”的なイメージがある。

しかし、三菱総研は、DXの定義を“国民本位のサービス提供による受益者利益を最大化するためのプロセス”として、さらに受益者を国民・企業・行政機関を含む関係者全体であると捉えている。

2018年5月に発表されたGサイエンス学術会議の“ デジタル・フューチャー ~デジタル化による社会変革の実現と情報・知識、産業、労働・雇用への影響の展望について~においては、”デジタルテクノロジーは、オープンデータや信用できる情報が民主的に統治され、倫理感を持って包摂されるデジタル・フューチャーを築くためには安全性、利便性、規制のような重要な分野での国際的協力が不可欠である“として、

・恩恵の平等な分配と情報格差の解消に向けてデジタル・トランスフォーメーションに参画・受益し平等な機会を得るための、包摂的な情報アクセス。

・一般の人々がデジタル基盤の中で流通する情報の質を批判的に解釈し読み解き、検証し、有効化を判断することが可能になることを目的とした全年齢向けの教育計画に基づく情報リテラシー。 

• 信頼性と安全性の強化、改ざんの防止、データの加工と私的利用の防止及び機械学習の演算方式が非専門家によって理解できるオープンデータ、情報及び機械学習の生産、正当性、アクセスと拡散の頑強なメカニズムを通した情報ツールや規制基準の質 

• インターネットサービスのプロバイダー、メディアや他の情報媒体の監視体制の設置やデジタル経済における寡占または独占の防止、開放された中立的なネット空間とデジタルデータの保護、個人情報の尊重のための規制体制としての民主的な統治体制 

• 新しい経済活動や技術分野の新興を促進し、新たな技術から生じる利益が労働者側にも分配され、職業訓練や再雇用のための制度の利用が奨励されるための雇用・就労支援政策の実行 

• デジタルテクノロジー、人工知能、ビッグ・データ解析の発展の方向性を決め、全ての技術革新の段階で自由、民主性、正義、信頼の価値観を保全に介入する倫理と人間的価値 ・・・等々を行動原則として掲げている。

現在進みつつあるDXの流れの中では、このような高みに言わば成果指標を設定すること、そして、改革を実現するに足る環境整備の必要性がなかなか耳に聞こえてこないように思う。

会社や自治体、政府等の業務効率化を目指すDXも必要だが、それらを進める考え方の基礎としては、三菱総研やGサイエンス学術会議が言うように、受益者の一人としての市民にとって、上記に掲げられるようなデジタル技術の社会への浸透、そしてそれによって実現するであろう“受益者利益の最大化”“信用できる情報が民主的に統治されること”“倫理観をもって包摂させるデジタルフューチャーの形成”“恩恵の平等な分配”“情報格差の解消”等々、もう少しウエットで理想を追うような環境整備の必要性を目標の視座にいれこむ必要がある。

このような環境整備を目指していかないと、なかなかデジタル化の価値が認識されないし、それが無いと“紙メディア”が持つ絶対的な信頼感に“デジタル”を武器にして切り込んでいくことがたいへん難しいと考える。

近年、紙媒体の需要は低迷していると言われるが、一般市民からリアルな存在としての書籍や雑誌に向けられた信頼感や憧れ感は、デジタルメディアと比べてもまだまだ大きく、それらが持つ社会的影響力などのいわゆる“メディア権力”はまだまだ蔓延っており、それがデジタル化による次代の到来を阻んでいるようにも思える。

50年前,社会学者の清水幾太郎は,テレビの出現によって活字の独裁が終わり始めているとしたが、活字というアナログの世界はまだまだ続いている。

10本の器用な指を持つ人間というものは、モノとして存在する紙媒体を扱うことの容易性に快適さを感じやすいものなのだろうか。

權 純鎬氏は、“制御欲求が高い消費者は現物を提示された場合が電子媒体を通して提示された場合よりも対象を制御できるという感覚になりやすい。そして,対象を制御しているという制御感(perceived control)を知覚でき、それにより対象に対する評価も高まる“とする。

我々はいったいどうすればこのデジタル世界において、もっと人間の感性への訴求力を高めることができるのだろうか。

目や耳だけでなく、モノを指で触った時の手触り感の良さというものは、たしかに人間にとって心地よいものではあると感じる。

モノに触った時の“確からしさ”、触ることができた“安心感”。
そういった部分がデジタル世界、そしてDXに今後求められるキーワードになるような気がする。

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