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介護保険サービスに係るDXについては、個々の業務や情報共有に係る負担軽減と、医療・ケアの視点から具体的にサービス受給者の個々の健康状態を指標化するということが語られてきたように思う。

厚生労働省老健局長が令和2年3月6日に出した“社会保障審議会介護保険部会「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」中間取りまとめを踏まえた対応について”を見ると、その3、介護分野の文書に係る負担軽減策の方向性として、負担軽減を進めるにあたり念頭におく観点の一つとして、“共通してさらなる効率化に繋がる可能性のあるICT等の活用”が記され、令和元年度内目途の取組としては、申請様式のHPにおけるダウンロード<指定申請・報酬請求>と、様式掲載と編集可能なファイル様式の選択が掲げられ、また、実施指導のペーパーレス化・画面上での文書確認<指導監査>も掲げられている。

また、3年以内の取組としては、ウエブ入力・電子申請<指定申請・報酬請求>、データの共有化・文書保管の電子化<指定申請・報酬請求・指導監査>が掲げられ、さらに、取組を徹底する方策の一つとしては、“今後検討されるウエブ入力や電子申請の取組とケア記録等のICT化が両輪で進むことにより、ケア記録作成業務と報酬請求業務を一気通貫で行うことがさらに促進される”とある。

以上のように、“社会保障審議会介護保険部会「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」中間取りまとめ”においては、負担軽減をあくまで個別作業の簡素化と標準化に求めている。

この資料の取りまとめの中で、作業の横断的な連携、横断的なデータの活用にあまり触れられていないのは、事業者団体からのヒアリングを元にして取りまとめたという事情と、専門委員の中に総合的にDXの在り方を考えることができる方が不在であったからであろうと思われる。

また、“デジタル行財政改革中間とりまとめ 2023年12月20日デジタル行財政改革会議決定”では、デジタル行財政改革の目的を、業務やネットワーク、システムを改善し、業務の効率化と質の向上とし、そのための介護分野の課題については“2040年には69万人が新たに必要となる介護人材の不足”“記録に係る重い業務負担”“デジタル技術への投資コストの不足”が挙げられている。

具体的な方向性としては、介護ロボットやICT技術の活用に係る新たな加算や人員配置基準の柔軟化等を記載する。

これらも課題に縦割りで対応するところの業務の生産性の向上や負担軽減を目指すものであり、作業の横断的な連携や横断的なデータの活用が視野に入れられているものではない。

また、従来も個々のケアの質を向上させるという意味では、個々のKPIを明確にして、効果のあるケアの成果(アウトカム)を目指すということで、LIFE(科学的介護情報システム)の導入・活用に加算があった。

以上に記した取組は、あくまで個々に提供する総合的なサービスに係る業務において、その部分部分の業務の効率化等を図ろうとしたものだ。

介護サービスの運営指導や監査においては、厚生労働省総務課介護保険指導室の作る“介護保険施設等運営指導マニュアル”にあるように、介護保険事業は給付の適正化のみならず、その先にはサービスの質の確保という命題がある。

そのためには、DXを語るときに、個々の事業の効率化や省力だけを語るだけでは足りない。

介護サービスの運営指導には、三つの実施方法があるが、そのうちの一つである“介護サービスの実施状況指導”は、サービスが適正に行われ、その結果利用者の尊厳が守られ、自立支援に資することができているか否かについて指導するものだが、それは単に施設の設えが良ければ良いというものではなく、確実な人員体制の確保を含んで、ケアの質が確保されながら、上手く様々な課題を法人や施設として検討し、その結果を改善や新たな方策に繋げるPDCAの確保が必要であり、その上手く適切なPDCAの流れこそが個々人におけるケアの充実に繋がっていくものだ。

介護保険サービスで言うところのケアマネジメントプロセスとは、介護支援専門員等のアセスメントに端を発する個々人レベルのマネジメントプロセスとして語られるが、実は、施設や法人レベルの検討や意思決定を含んだ、各々のケアを高見から総合的にチェックするプロセスを確保することが非常に重要になる。

それは個々に発生した課題を総合的又は帰納的に分析して、その成果を個々のケアの改善に生かしていく重要な流れになる。

そのためには、個々のケアに関するデータを全て集約して総合的又は帰納的に分析するための集積(データ共有)機能及び分析機能の存在が大前提になる。

まさに事業運営総合システムとも言うべきこのような機能の確保こそが、ケアの質を効率的に実現する手段である。

このような視点が今現在、介護保険サービスのDX化の議論には欠如している。

介護保険事業の運営指導を行う自治体も、縦割りで、適正な人員の確保と運営の適正さ、個々におけるケアの適切さを個別縦割りでチェックする場合も多いとは思うが、これらは全て関連性があるわけで、つまり、人員の欠如や運営の適正さの欠缺が個々の不適切なケアを呼ぶものであり、個々のケアの部分の改善を指摘し、是正させたところで、施設や法人レベルの運営状況が変わらないならば、また同じような不適切な個々のケアが発現するであろうと思うのだ。

令和6年4月からは、虐待の防止、感染症の予防及び蔓延の防止が義務化される。

この機会に、虐待や感染症に関する対策を検討する委員会が個々のケアの状況を拾いつつ、その検討の結果を、施設や法人としての新たな認識や意思決定を含んだ“事業の改善”に確実につなげることが必要だ。

そして、それを実現するためのDXが望まれる。

ただ“虐待防止対策委員会”や“感染症の予防及び蔓延の防止対策委員会”等を形だけ開催すればよいというものではない。
実際に各々の委員会がしっかりと動くか否か、これこそが重要な運営指導のポイントではあるまいか。

高齢化率は40%に向けて右上がりの状況が続く。
早めにこのようなDXを整えながら、次代を迎えたい。

介護保険サービスの運営指導や監査というと、いわゆる行政指導として、作為または不作為を求める指導、勧告、助言等(行政手続き法第二条六号)を行うものであるとされるが、DXを伴うこのような事業総合運営システムの確立に向けては、もっとおだやかな方法で構わないので、DXつまりアーキテクチャーデザインを社会統制の一つとして実現を図るということも考えたい。

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