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一人ひとりの人間への対応の優しさ

とある先進的なデジタル化のサポートを担う会社が主催する“デジタル化の説明会”において貴重なお話を伺うことができた。
その中でも興味深かったのは、“クラウドを活用した窓口”という、クラウド上(クラウドを介してお互いの映像が映ったPC画面上)で市民と市職員が相対して、市職員が相談を受けるだけでなく、その画面上で申請書の文字入力までサポートしてしまおうとするものだ。
現状としては、双方の本人認証や申請書の署名の受け方、使用する機器や使い勝手の汎用化等々課題もあるが、そもそもこれは“リモート区役所”そのものなので、現状の、市民に身近なところで市民による各種手続きを受け付けるという区役所の存在意義を問うものとなり、それはつまり政令指定都市制度をも問うこととなる。
リモートは特定の“場所”という概念を不要のものとする。
リモート当たり前の世界になると、もう時代はネットの世界で人生を送る“セカンドライフ”、もしくは“デジタルツイン”というものが現実味を帯びてくる。
ただ、この“クラウドを活用した窓口”においては、市職員と市民はリアルでアナログのままでコミュニケーションを取って、申請書の文字入力やその受付がデジタルの世界ということになるんだろう。
もちろん区役所というものには、“各種手続きを行う場所”という性格以外にも、他に期待される機能もたくさんあるんだけれども、区役所というと“手続きをするところ”というイメージがまず思い浮かぶんだろうと思う。
かつて私が区役所に籍を置いていたときは、このような“リアルな人間同士がクラウドを介してコミュニケーションを取る”、そういったことは考えもしなかった。・・・ということは、つまり、今区役所が抱える課題の大きな部分は人手が足りない、残業を減らしたいということだからだろう。いや区役所だけでなく、今後は各産業の全てにこのままでは人手が足らない。
だからこそ、“クラウドを活用した窓口”のように、市民の方が区役所に来るという手間を無くす(それはバリアフリー化も意味する)、もしくはその手間を軽減するものであっても、職員が画面上でとはいえ、対面という作業のためにリアルな人手が必要となるならば、なかなかこのような人手が足りないという課題には対応していかない。
区役所に私が勤務していた当時は、人がリモートで相対するということではなく、人手を要することなく案内業務をこなすAIを活用したチャットボット(ロボット)の方に興味は傾いていた。
このようなチャットボット(ロボット)の例にあるような、人手を不要とする業務の効率化、作業の削減といった観点からならば、オンライン申請も予約システムも、人手を不要とするために必要なものとして容易に受け入れられる。
区役所時代に実証実験を行ったAI-OCRやRPAについてもそうだ。
今回先進的な会社から提案をいただいたものは、PC画面(クラウド)を間に挟んで人間と人間がコミュニケーションを図ろうとするものなので、人工(にんく)的な削減はできるものではない。
これは、人間が他の“機械やシステム”で代替されていないということで、ほぼ通信手段の改善に留まっているのではないかと感じてしまう。また、その一方で、ウイルスが蔓延することにより、非接触・非対面化が推奨さる世の中になってくると、人間のおしゃべり自体が画面を介したものとなり、それが新しい日常になるのかもしれないとも感じる。
ただ、“クラウドを活用した窓口”は、飲み屋でテーブルの真ん中にプラスティックのボードを立てるのと同様な、やっぱり通信(コミュニケーション)手段の変形(工夫)なんだろうと思う。
これから否応なく少子化(人口減)が進んでいく日本においては、もはや人工(にんく)がかからないという前提において優しい窓口対応を行う技術が必要とされているのではないか。
そういう意味では自動運転自動車はいい。これは、人手を使わずに全て自動のままで実現が可能であるからだ。そして自動運手自動車に残された課題は、どこまで人間に優しくなれるか、その優しさをどう人手抜きで確保するかということだろう。
今各自治体で導入が進む、家族の死を迎えた方々に、必要な手続きを案内して申請書をそこで受理する“おくやみコーナー”も、対面の対応・相談から、必要な手続きの割り出しまで、その全てを人手で対応するなら、厳しい労働者人口の減少がありながら、高齢の方の手続きのためにその労働力をこれまで以上に振り向けることになるという風に思えば、これは将来に向けて長続きする市民対応の在り方であるとも思えないのである。
“一人ひとりの人間への対応の優しさ”を確保しながら、それに要する人手をどう削減していくのか。それがDXに望まれているものなんだろうと思っている

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