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「週刊プラグインレビュー」MAKE BELIEVE STUDIOS / MixHead

真夏真っ盛りの中、皆さん楽しめておりますでしょうか?
僕はと言えば、気圧で体調が左右されてしまったり、兎に角暑さに弱い・・といった典型的な運動不足のツケを払い続けている状況でして、はやく夏が過ぎ去ってくれるのをただ心待ちにする毎日であります。

開発している厄介な部屋の低音に作用する音響調整用のルムアコグッズの商品化も佳境に差し掛かり、引っ越しが落ち着いたタイミングで、燃え尽きたジョーのようになっております笑

さて、今回はMAKE BELIEVE STUDIOSからMixHeadをご紹介できればと。
色々と不思議な経緯があるプラグインなので試すのが遅れてしまいましたが、ヴィンテージデジタルならではの質感と聞いたことある感が素晴らしかったのでご紹介していけたらと思います。

それでは今回も、やっていきます!
プラグインレビュー!!

MIXHEADとは?

MixHeadはMake Believe StudiosさんがMetric Haloと共同で開発をした、「デジタルテープシミュレーターのプラグイン」だ。
話がややこしいので、どういうことか?を説明すると・・・。

まず最初に、プラグイン黎明期のテープシミュレーターとして、Steinberg社の「Magneto」というプラグインがあった。

この仕上がりが大変すばらしいということで、SPLがMagnetoを開発者と共同開発をしたデジタルアウトボードがMachineHeadだ。


Machine Head

で、このデジタルアウトボードは、Weissと同様、当時であっても超絶高価であったため、そもそも一部の人しか持つことができなかった。
それに+αで、やはりMachineHeadでしか出ない持ち味というものがあり、レアリティーとその効果から伝説の一つとなったアウトボードのひとつでもある。

で、これをスーパースターエンジニアで、手の内を明かさない(明かしている暇がない)サーバンゲネアが自分のシグネイチャーサウンドとして使っているらしい・・・といった噂がずーっとある状況で、皆が「気になるけど、すげぇ高いよな・・・」となっていたのが実情であるように思う。

そこで、今回、Make Believe Studiosさんが、なんと、ゲネアご本人の必殺セッティングをプリセットに引っ提げてリリースをしたのが、本作、Mixheadである。

正直、色々とツッコミどころがある話であるように思う。
Magneto自体は、現在もMagneto2として現行品はあって、WavelabやCubase、Nuendoを使っている人は標準で搭載されている。
(僕もWavelab自体は持っているが、他のDAWからは開けなかった。独占ライセンスとしてSteinberg社製でしか使えないように出来ている様子。)

なので、意義としては、Magneto、そしてSPLの調整が入り名機とされているMachineHeadをデジタルビンテージの質感として使っていく・・というところになる。
ただ、Wavelab上でMagneto2とMachineHeadを立ち上げて比べてみると、重心の下がり方や歪感がまるで違うので、やはりMagneto2のアルゴリズムそのままではなく、あえてMachineHeadをモデリングすることに意義があるということのようだ。

Youtuber vs メーカー

そういう複雑な経緯があるこの作品。
当然疑いの目を持つ人もいるわけで、エンジニア系YoutuberのPaulさんから、カーヴを測定して、「Meldaのフリープラグインでそのカーヴを再現したら逆相で完全にではないが、ほとんど消えたぞ~~!!」とツッコミが入る。

ただのWaveShaper風情に、この金額はあり得ないと。
そういうよくわからんマーケティングばっかしてるからダメなんだと。

正直いって、無関係なのにサムネ絵にされているサーバンゲネア氏が可哀そうである。

しかし、メーカーも黙っていない。
そんな単純な仕組みなわけねーだろ!と主張を露わにする。
もう「沈黙が金」とかいってられる時代ではないのかもしれない。

ただのWaveShaper説に対して明確に違うとの答えを示す。

主張を要約するとこうだ。
MixHeadは周波数によって歪方が違うので、単一の周波数で計測したカーヴを真似ても同じ音にはならない。
それにそもそもNull(逆相で消えること)していない。
さらに音量でハーモニクスの分布も変わるダイナミックディストーションなので、一時的にNullをしても、音楽に実際に適用すると音は変わるとの反論。

この辺の議論は、もうプラグインドクターの悲劇でしかない。
動的パラメーターが二つあると計測は、一気に難しくなる。
周波数ごとの応答、音量ごとの応答。
これらが動的だと、測定はあくまでただの目安にすぎない。なので、これまでの僕のレビューもあくまで目安として考えていただきたい。

実際には音を試してみるまではプラグインの評価はできないが、ついついそこが置いてきぼりになってる話をしばしば見かける。

とはいえ、そう言っている僕も、MixHeadの処理があまりにも軽すぎるために、「ぶっちゃけ、ただの設定が巧いWaveShaperでしょ?」と最初に思ったのは事実。なので、このうんざりするサムネの応酬の割りには勉強になったやり取りではあった。

こういうやりとりが発生するのも、サーバンゲネア氏の有名税だと個人的には理解している。

なおマニュアルの導入文が非常に共感できる内容だったのでここでご紹介しておく。

長年にわたり、私は古典的および現代的なレコーディングセッションの写真を見つめ、お気に入りのプロデューサー、ミキサー、エンジニアについて学べることを常に探っていました。おそらく何百時間も写真を凝視し、ラックを研究し、ユニークな機材を探し求めてきました。そして偶然、マイケル・ブラウアーの引用に出会いました。ある人物が唯一のハードウェアを除いて100%「イン・ザ・ボックス」だという内容で、これが私が誇りを持ってご紹介する発見につながりました。それがMixHeadです。

デジタル録音の初期を懐かしむ人は少ないですが、90年代後半から2000年代初頭の過渡期には、デジタルオーディオ処理がまだ若かった頃、ゼロとイチを自ら処理し、当時のDAWを動かすのに必要な複雑な処理からCPUを解放する数々のハードウェアデバイスがありました。これらの「デジタルイン/デジタルアウト」デバイスの有名な例には、今日でもプロのエンジニアが使用している高価なイコライザーやリミッターがあります。そして、現代のコンピューティングパワーが格段に優れているため、多くがプラグインとしても移植されています。ここで紹介するプロセッサーはこれらのデバイスの一つでしたが、当時としてはかなりユニークなことを行っていました:デジタル録音にアナログテープサチュレーションの特徴的な音色による温かみと知覚される音量の増加を加えることを目指しましたが、デジタルクリッピングに関連する過酷さはありませんでした。

これは内部デジタル処理機能とAES入出力を備えた専用の1Uラックユニットを使用して行われました。この「箱の中のプラグイン」は、実際のテープマシンの面倒さ、ワウフラッター、ノイズ、メンテナンス、またはその時代に関連していたもう一つのA/D-D/A変換パスによる音質劣化なしに、エンジニアが失われたと感じていた結束力をデジタル録音に与えるように設計されました。

今日の複雑なモデリングと、デジタルの再現、エミュレーション、変異で溢れる市場を考えると、オリジナルデバイスの時代を振り返ることは興味深い回顧を提供します:それは非常に特定の目標を念頭に置いて作られ、その目標はテープが実際に何をしたかについての多くの理論(と仮定)をもって達成されました。奇妙なことに、そのすべての努力の結果、実際に製造されていた年よりも現在の方がさらに効果的で関連性のあるプロセッサーが生まれたかもしれません。

Make Believe Studios MixHeadは、このユニークなボックスが提供した奇跡を捉えています。現在の知識と、私たちが自由に使える無数のテーププラグインを考えると、オリジナルユニットで採用されたいくつかの設計アプローチは今日では後退的または直感に反するように見えるかもしれませんが、それらは依然として機能するアプローチであり、実験するのはとても楽しいものです。我々は even 0.1デシベル単位のHF調整や新しい3.75ips lo-fiモードなど、要望のあったいくつかの機能を追加しました。

実際に使用してみると、30ipsの設定が15ipsの設定よりも歪みが多いように聞こえるかもしれません。それで問題ありません。通常テープとは関連付けないような高周波数帯域で興味深い位相の相互作用が聞こえるかもしれません。それも大丈夫です。また、入力とドライブのコントロールが高度に相互作用することや、HF調整が自然に聞こえる方法でトップエンドを調整するのに優れていることもわかるでしょう。

MixHeadは他のテーププラグインが行うことを行うために作られたのではありません。それは、かつて恐れられていたデジタルの墓場に追いやられていた外部ハードウェアDSPボックスを復活させ、現代化したものです。

MixHeadは録音プロセスのどの段階でも使用できる不可欠なプラグインであり、コードの効率性によりCPUに負担をかけることを心配せずに複数のインスタンスを使用できます。

それは良い音を出すために作られ、今でも素晴らしい音を奏でます。

マニュアルより

そう、だからビンテージデジタルは面白いのである。

機能面

前置きが長くなったが、機能面についてみていこう。


操作は至ってシンプル。

INPUT GAIN
テープデッキのラインイン調整と同様に、処理前の入力レベルの調整をするノブ。
0.1dB単位で調整できるようになっていて、-12dBから+12dBの幅を持っている。この入力ゲインはドライヴステージと出力レベルに大きく影響をするように出来ている。

※Control-Shiftでインプットとアウトプットを逆リンクして、簡易的にゲインマッチングができるとのこと。

Drive
ハーモニックディストーションとサチュレーションの効果の量を調整する。
サチュレーション効果は非線型であるため、アウトプットでゲイン量を補ってあげる必要がある。

デフォルトのドライブ設定である0.0は、テープに+7dBの録音レベルをエミュレートすることを意図しているため、0であったとしても効果はかなり強く働いていることに注意。より微妙な調整をしていくためには、0以下のドライヴ運用をしていくことがオススメであるらしい。

※高いドライヴ設定をしていると、特に現代の低い周波数に関しては深刻な信号の崩壊をきたすことがある。ただ、MixHeadはハイパスをかけたパラレルプロセッサーとして、ベースをつぶすことなく、中音域に大規模なクランチとシルキーな高音域の演出をすることが出来る。

HF Adjust
ドライヴ設定とは独立した高周波のブーストとカットをコントロールするノブ。範囲は-6dBから+6dB。
実際のテープではサチュレーションが高くなるほど高域の減衰が起こるが、MixHeadでは、減衰する高周波と逆のエネルギーを調整できるようになっているとのこと。
これを応用して、テープのバイアスの違いやテープの違いを演出している。

※このパラメーターはオートメーションをかけることが可能で、楽器をMIXの後ろに戻したり、前面に出したりするのに適している。サチュレーションをかけなければ、ビンテージエキサイターのような挙動をさせることも出来る。

Output
これは単純にアウトプットノブであるようだ。

TapeSpeed
3つのアルゴリズムを切り替えることが出来る。

・15ips
一般的なテープのサチュレーションをエミュレートし、微妙なステレオ幅をエンハンスする効果もある。

・30ips
より低い歪とより高いヘッドルームを再現する。
実際のテープで録音するときのように、ベースが減衰しないのが特徴。

・3.75ips
MixHeadの独自機能。
1950年代のWebcorテープマシンのモデリングにインスピレーションを受けているとのこと。

基本的にはこれが調整できる機能になる。

メーターに関しては上から2番目のセグメントが0dBFSを示しているので、それを超えないように使うのが正しい使い方であるとのこと。

他、ヘッダーでAB機能とそれをブレンドする機能がつかえたり・・。
サーバンプリセットにすると、驚きの変化があったりする笑
これについては、メーカーのサプライズなので、皆でどうなるかを試していただきたい。


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検証してみる。

プラグインドクターの功罪をご紹介した後なので、気が引けるのだが、ざっくりとした特徴をかいつまんでみてみようと思う。

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