"和製Tom Waits" SION
前回のTom Waitsからの流れで、SIONである。
SION(シオン、本名:藤野秀樹、1960年9月13日生まれ )は、山口県下関市豊北町出身のシンガーソングライター。1979年10月、19歳で上京。1985年9月1日、自主制作盤『新宿の片隅で』を発表。1986年6月21日メジャー・デビュー。大河ドラマ出演歴のある俳優でもある。枯れた声で語りかけるような独特のボーカルが特徴的で「和製Tom Waits」だと勝手に思っている。下記インタビューによると、実際彼はTom Waitsのファンのようだ。
春夏秋冬 / SION (1987)
本作の概要
本作は、メジャー・デビュー・アルバム『SION』から僅か7ヶ月で発売された2ndアルバム。デビュー前の1986年2月には既にベーシックの録音がなされており、当初は本作がメジャー・デビュー・アルバムとなる予定だったとされる。レコーディングは東京とニューヨークで行われた。もちろん表題曲は、泉谷しげるの名曲をカバーしたもの。
収録曲 (アナログ盤)
※CDや配信などでは6曲目「ハード・レイン」11曲目「レストレス・ナイト」が追加され計12曲
A-1. 抱いてくれ
A-2. 楽しみといえば
A-3. ダーリン
A-4. ハングリー・ナイト
A-5. 12月
B-1. 春夏秋冬
B-2. バック・ストリート
B-3. このままが
B-4. やるせない夜
B-5. クロージング・タイム
参加ミュージシャン
Marc Ribot (Guitar, Cornet)
John Lurie (Harmonica)
Evan Lurie (Piano, Organ)
Roy Nathanson (Saxophones, Clalinet)
Curtis Fowlkes (Trombone)
Erik Sanko (E-Bass, A-Bass)
Douglas Bowne (Drums)
Anton Fier (Drums)
Tony Machine (Drums)
Arto Lindsey (Guitar)
Charles Giordano (Keyboards)
Michal Blair (Percussion)
Bill Schimmel (Accordion)
このメンバーを見ればわかるように、ノーウェーブの一派でフェイク・ジャズともいわれた”The Lounge Lizards”が事実上バックバンド状態。バブル期の日本とはいえ、新人のレコーディングとしては、破格の待遇である。
ミュージックビデオ他
本作のハイライトは、やはり表題曲のB-1でしょう。このミュージックビデオも、時代的な映像の古さは仕方ないとして、とても格好いいですね。撮影時のエピソードなんかは、下記のインタビュー参照。
A面最後の曲です。この時期になると毎年脳内再生されます。「何かやり残したよな やわらかな後悔をする」その通りです。この曲を福山雅治のカバーで知った方も多いようです。彼のカバーを耳にして「おぉ SIONだ!」と独りで盛り上がり、福山ファンの女性陣から冷たい視線を浴びた、遠い日の思い出(笑)
掉尾を飾るB-5は、タイトルでもわかるようにTom Waitsをリスペクトした曲だと思われます。歌詞にも「酔いどれトム」や「トロピカーナ・モーテルのベッド」が出てきます。(トロピカーナ・モーテルは1970年代にTom Waitsが暮らしていた場所)デビュー前の自主制作盤にアコースティックバージョンで収録されていた SIONの原点のひとつ。
ごく私的な思い出と感想
私がSIONを知ったのは、かなり遅い。メジャー・デビュー・アルバム『SION』をレンタルCD(古い話だ)で借りたときは、もう1988年になっていたと思う。当然、自主制作盤『新宿の片隅で』を聞いたこともなく、なぜCDを借りたのかも今では覚えていない。理由を記憶していないということは、あまり期待してなかったのだろうが、これがとても良かったのだ。じゃあ、そっちについて書けばいいのに… 実は、1st アルバムは持っていない。当時、ダビングしたカセットテープ(古い話だ)を聞き続け、脳内再生できるぐらい知悉したアルバムへ限られた資金を投じる余裕はなかった。今ではサブスクで聴けちゃうし。
というわけで、私が初めてちゃんと購入したSIONのアルバムが、本作である。前作よりサウンドがやや重厚となった感はある。しかし私は、前作と本作の2枚のアルバムを連続した一つの作品として捉えている。そして、この2作を聴くと、あの頃の鬱屈した気分が蘇り、古傷の瘡蓋が剥がされたような痛みを感じてしまう。
「春夏秋冬」のカバーはオリジナルよりヘビーでSION独特のボーカルと相まって、こういうアプローチもありだなぁと、とても感銘を受けました。翌年、本家の泉谷による、U2ばりのショート・ディレイなギターと野太いドラムをバックにしたセルフカバー(アルバム「Izumiya・Self Covers」)は、SIONへの対抗心もあったのでは?と、邪推している。実際、この泉谷のアルバムに、SIONもコーラスで参加しているしね。
90年代以降、SIONのアルバムを追いかけなくなってしまった。特に東芝EMI移籍後はほとんど聴いていない。せっかくのサブスク時代。この機会に少しずつ聴いていこうと思う。今の年齢になってわかる、新しい発見があるかもしれないから。