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②タイムリープ

タイムリープは慣れが必要である事をご存知だろうか。
リープ先での感情の揺れを客観的に捉えていなければ、すっかり取り込まれてしまって、相手の思う壺なのだ。

追跡しようにも、慣れていない新人タイムリーパーのわたしは、事の発端であろう切れ端近くに着地出来ないので、出来る限り最初から順繰りに遡ろうと思っている。

写真館で、こちらを向くように言われ、「笑ってごらん!ほら!ニコッて!」「こっち向いてて!」「泣かない!ちゃんとして!」
疲れて、何故こんなことをしているのか分からず、分厚く着飾っている事にも窮屈で、腹立たしい。

特注で作られた毛皮のケープと、同系色のワンピースに、短くぷよぷよした足に合うように作られた編み上げブーツを着せられたわたしは、その窮屈な服を今すぐ脱ぎたいと思いながら、笑うことを、動かない事を求められていた。
笑えば周りが喜ぶと思えば思うほど不愉快で、絶対に笑うものか!と、なんてまぁ可愛げのない幼児だこと。

とはいえ、仕上がった写真館の写真は、2歳児とは思えない程の冷めた目付きのブスッ面だとしても、『ほら、わたし可愛いかった』と、夫に自慢げに見せるくらいに、結局はよろこんでいるわたしなのだ。

しかし、写真を残しておかなかったら、どうなっていただろうか?

ある夜、ふとハサミで切る事を思いついて、気持ちよく切り刻んだ。
翌朝、気がついた母親に、顔の形が変わるんじゃないかと思うほど頬を打たれ、壁に頭を打ち付けられた。
何故そんな事をしたのか!って怒鳴り散らされても、切っている最中はとてもすっきりした気分になって、切った事をむしろ誇らしく思っていたわたしは、よく切った!と褒めて欲しかった。

『まあまあ切っちまった物は仕方がない』
父親が薄ら笑いを浮かべて部屋に入ってきた。
ぷりぷりと怒りが収まらない母親が部屋を去ると、父親は「お母さんが大切にしていた物だから怒ってるんだ」と言ったけれど、可愛げの無いわたしは、『お母さんは、私が大切にしている折り紙を全部捨てるのに』と、不満げに言い返していた。

それでも、少しやり過ぎたかもしれないって思い始めて、切り刻んだ毛皮の中から、丸いふわふわとしたボンボンを拾い上げて、宝物入れにしているクッキーの缶にぎゅっと突っ込んだ。

2歳〜3歳になる辺りの時間軸には書き換えられた痕跡はあったのだろうか?


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