国際商事仲裁 Day4

0 本稿のポイント

・国際商事仲裁の秘密保護には三つのレベルがあり、それは①非公開性、②守秘義務、③秘匿特権である。

・①非公開性は、仲裁手続が第三者に公開されないこと、つまり、傍聴したり記録閲覧等ができないこと。

・②守秘義務は、当事者が第三者に仲裁手続の存在・内容について第三者に漏らしてはならないというものであり、法やJCAAなどの仲裁規則において定められる他、仲裁廷の命令や当事者の合意により、課すことができる。

・③秘匿特権は、ディスカヴァリーが採用されても、証拠として提出しなくてよいとするものであり、秘密特権を取り扱うか否かは仲裁廷の裁量によることになる。

1 国際商事仲裁の非公開性(Privacy)

Day1でも、述べましたが国際商事仲裁の手続は原則非公開です。したがって、国際商事仲裁手続きにおいて、第三者が手続に参加することはありませんし、また傍聴することもできませんし、さらには手続資料を第三者が閲覧することもありません。

仲裁手続及びその記録は、非公開とする。(JCAA規則42条1項)

2 当事者間の守秘義務(Confidentiality)

他方、国際商事仲裁手続において、常に守秘義務が当事者に課されているわけではありません。守秘義務が課されてない場合は、当事者が紛争の存在や、仲裁手続きにおいて知りえた事実を第三者に公開することもできます。

守秘義務は、次の場合に課されるものとされています。

① 各国の仲裁法規が守秘義務を規定→香港、ニュージーランド、スペインの仲裁法規は明示的に当事者間の守秘義務を規定。英国、シンガポールでは判例上、守秘義務があるとされています。

② 仲裁規則が守秘義務を規定→SIAC、HKIAC及びJCAAでは、規則上当事者間に守秘義務が課されている。

仲裁人、JCAAの役職員、当事者、その代理人及び補佐人その他の仲裁手続に関係する者は、仲裁事件に関する事実又は仲裁手続を通じて知り得た事実を他に漏らしてはならず、これらに関する見解を述べてはならない。ただし、その開示が法律に基づき又は訴訟手続で要求されている場合その他の正当な理由に基づき行われる場合には、この限りでない。(JCAA規則42条2項 )

③ 仲裁廷の命令→仲裁廷の命令であれば、例えば守秘義務を課すことを明示していないICC規則においても、当事者間に守秘義務が課される(ICC規則22条)。

④ 当事者間の合意→当事者が仲裁合意を締結する際、守秘義務を互いに課すことに合意したり、仲裁申立てが係属した際に、互いに守秘義務を課すことに合意したりするなど場合が考えられる。

仮に、紛争になった場合に、紛争の存在をなるべく明らかにしたくないと考える場合は、④のケースのように、仲裁合意の段階で守秘義務を課すのが最善だと考えます。

以上、関戸麦 著 「わかりやすい国際仲裁の実務」商事法務 2019年113頁参照。

3 証拠開示と秘匿特権(Privilege)

秘密特権という言葉は聞きなれないかたも多いと思いますが、秘密特権とは、以下のように定義づけられます。

秘密特権とは、典型的には弁護士と依頼者の間の法的助言に関するの内容を秘密とすることができる権利で、これを理由に訴訟手続等において証拠開示や証言を拒絶できるものです。(シティユーワ法律事務所 編 「Q&A法務担当者のための国際商事時仲裁の基礎知識」中央経済社 2018年 161頁)

秘密特権についてに何らかの規程を定める法や規則は国内外をみても多くありません。日本の仲裁法やJCAA規則にも秘密特権の規定はありませんし、UNCITRALモデル法にもその定めはありません。

したがって、秘密特権を取り扱うか否か、取り扱うとしてどのように取り扱うか、すなわちどの準拠法に依拠して判断するかは仲裁廷の裁量によることになります。

仲裁人が秘密特権の範囲について判断する際、以下の考え方が考えられるとされています。

① 実体準拠法に依拠するアプローチ

② 仲裁地の法制度に依拠するアプロ―t

③ 当事者の意向を尊重するアプローチ

④ 最密接関連地法に依拠するアプローチ

⑤ 最恵国待遇アプローチ

このうち、問題となっている文書やコミュニケーションがどの法域で行われたか、当該文書等に関与した弁護士の資格等が総合的に考慮される④のアプローチが一般的とされています。(シティユーワ法律事務所 編 「Q&A法務担当者のための国際商事時仲裁の基礎知識」中央経済社 2018年 162頁、谷口安平、鈴木五十三 編著 『国際商事仲裁 法と実務』丸善雄松堂 2016年 242頁-243頁)

上記④のアプローチが一般的とされている以上、企業の法務部内で企業内弁護士と社員とのやり取りは秘密特権にあたることはありえますが、法曹資格を有しない法務部員と社員とのやり取りは秘密特権にあたらない可能性が高いものと考えられます。したがって、紛争の元になりそうな事案に関しては、秘密特権にあたらず、仮にディスカヴァリーを利用された場合は、更新文書等は証拠にされてしまうというリスクを常に念頭に置いたほうがよいといえるでしょう。

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