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国際商事仲裁 Day5

0 本稿のポイント

・国際商事仲裁手続きを利用するには、仲裁合意はマスト。

・仲裁合意は私的解決が可能な紛争のみを対象。

・仲裁合意は書面によらなけれならない。

・仲裁合意の有効性と契約全体の有効性は別問題(分離可能性)。

・仲裁合意の範囲は、仲裁条項の記載に従う。

1 はじめに

今回は仲裁合意について、お話したいと思います。仲裁条項例に関する記載は別の回に譲るとして、仲裁合意はどのような場合に締結することができ、どのような場合に有効になり、はたまた無効になるか等について論じます。

なお、裁判による紛争解決ではなく、国際商事仲裁による紛争解決を目指す上で、当事者間で仲裁合意を締結することはマストです。

2 仲裁合意の効力

まず、仲裁合意は、私的解決が可能な紛争を対象とする場合のみ、認められます。

仲裁合意は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者が和解をすることができる民事上の紛争(離婚又は離縁の紛争を除く。)を対象とする場合に限り、その効力を有する。(仲裁法13条1項)

そして、かかる仲裁合意は、書面によらなければならないとされています。

仲裁合意は、当事者の全部が署名した文書、当事者が交換した書簡又は電報(ファクシミリ装置その他の隔地者間の通信手段で文字による通信内容の記録が受信者に提供されるものを用いて送信されたものを含む。)その他の書面によってしなければならない。(仲裁法13条2項)

3 仲裁合意の有効性

仲裁合意は前述したとおり、私的解決が可能な紛争を対象とする場合のみ認められるので、公法上の紛争に関する仲裁合意は無効です。また、離婚・離縁の紛争も、日本の仲裁法上は無効になります。さらに、仲裁合意時に心神喪失状態だった場合等、合意の意思に瑕疵がある場合も、仲裁合意は有効にはなりません。

なお、仲裁合意には、分離可能性があるので、契約自体が無効ないし取り消されたとしても、仲裁合意の有効性は別個に判断される点は、留意したいところです。

仲裁合意を含む一の契約において、仲裁合意以外の契約条項が無効、取消しその他の事由により効力を有しないものとされる場合においても、仲裁合意は、当然には、その効力を妨げられない。(仲裁法13条6項)

4 仲裁合意の範囲

仲裁合意の範囲は基本的には、仲裁条項の記載に従うことになります。

例えば、契約上の責任のみならず不法行為責任も問えるようにしたい場合は、以下のような記載方法が参考になります(注・JCAA規則を利用するケースを想定)。

この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の 商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は(国名及び都市名)とする。
All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this contract shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be [city and country]. (http://www.jcaa.or.jp/arbitration/clause.html)

5 仲裁合意の準拠法

仲裁合意の準拠法はややこしい問題で、法廷地手続法自体説や国際私法説など諸説あるところです。

ただ、実務的なアプローチとしては、①契約全体の準拠法に従ったとしても、また、②仲裁地の準拠法に従ったとしても、結論が異ならないと考えられる場合には、この準拠法の論点に深入りすることなく手続を進める、というアプローチをとることが無難でしょう。

以上、関戸麦 著 「わかりやすい国際仲裁の実務」商事法務 2019年73頁ー75頁参照。

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