はじめに

学生時代の話

その当時、私の通学定期券は東大前・本郷三丁目、御茶ノ水・淡路町を通っておりました。このあたりの地理に不案内な方にはわかってもらえないと思いますが(これはあなた方の無知を責めるつもりではありません)、帝国大学前のステイションで降りて、赤門前の古書店街を冷やかすことは私の日常でした。真ッ直ぐに歩き、ちょうど古書店街のつきる本郷三丁目で再び電車に乗り、御茶ノ水まで向かいました。後楽園で乗り換える必要がありませんから、私には実際に便だったのです。神田川を渡り、ハイカラなアテネフランセなる学校の前を通り、水道橋までくだってゆきます。白山通り沿いにはまた古書店がありますから、ここにも立ち寄るべき書店は多かったのです。神保町交差点で靖国通りに左折し、通りの南側にある古書店を見て歩きます、そうすると東大前から淡路町まで、ずっと古書店街ばかりを歩いてきた勘定になります。私はその時分から書物を買うことが好きでしたから、これはなんとも恵まれた境遇でした。さらに言えば私は、落成したばかりの東京駅も利用していましたので、丸の内の丸善で、まだ手あかにまみれていない横文字の書物を買うことも、八重洲ブックセンターで津々浦々から蒐集された本を買うこともできたのです。そんな学生時代を過ごした私ですから、すぐに新宿のようなところで飲みたがる同窓生たちをたぶんに冷ややかな目で見ていたことも、あなた方ならきっと容易に了解されるでしょう。帰途、帝都の中央停車場から電車に乗る私の懐は薄くなり、荷物ばかりが重い日々でした。この余裕ある学生生活が、私をさらなる苦境に陥れることになったのです。

南は秋葉原・万世橋、神保町、九段下から、北は谷根千地区、本駒込、白山、茗荷谷を練り歩いた学生時代に、見つけた本や、本をきっかけに考えたことを中心に、記事をまとめていく予定。

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