本当の、一人きり

次から次へと景色が流れる車の中、私は助手席で窓の外を眺めていた。運転している人の存在を感じまいと外と自分の思考に潜り込んでいたかった。まだしばらくは目的地に着かないだろう。

高校卒業して留学から帰ってきたのに、新たな場所を探さないといけなかった。自分でやりたいと言った事が「逃げ」だったと認めざるを得ない。数年滞在するはずが数ヶ月で帰国して、もう何もしたくなかった。それでもどこかへ行かなければ。親の傍にいることが何よりも耐え難くて、離れる必要がある。

一人になりたい。

誰の近くでもなく、一人になりたい。誰とも関らずに一人きりになりたい。誰かのことを考えず、自分を自分としていられる場所に行きたい。人がいる限り、自分のことを最優先になんて出来ないだろうな。

この世で一人になるためには、全員いなくならなければならない。
そしたらこの世界で残るものは何だろうか。私が一人きりになる世界はどんな風景だろう。

そう思いついたとき、車窓から電信柱が上から消えていった。電線が消え、空が白んでいく。建っていた家もビルも、木も消えて、道路もない。自分が乗っている車すら、全てが消えて世界が真っ白になった。

ああそうか。
本当に一人きりになんて、なれないんだ。

私が着ている服は、誰かが作った服だ。私が乗っている車も、住んでいる家も、この街にある全てのもの、全部誰かが作ったもので、その人たちを失うとしたら、この世界には何も残らなくなるんだ。このコンクリートの地面も、歩く道も。もう人が関らない場所はない。無人島だって、そこにあることを人は知っている。宇宙だって、どこに何があるかもうわかっている。

一人になりたいと言いながら、私は音楽を手放すことは出来ない。一人になりたいのに、誰かの作った音を聞いて、誰かの言葉を聞いていたいとさえ思うなら、それはもはや一人なんかじゃない。

本当の一人になんて、どうあがいたってなれないんだ。

「ご飯何しようか」
突然の質問に思考が途切れ、一度瞼を閉じて開き直す。適当に質問に答えながら、気付いた事実を心の中で何度も撫でていた。心を宥めながら、ゆっくり包み込んだ。

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