風が吹く日

秋がきた。風がほどよく、湿度もちょうどいい。
外に出かける気力はないものの、なんとなく何かしたいと思った。風に当たるだけでもいいか、とベランダに出て少しぼーっとした後に思いついた。

使わなくなったけど気に入っていたキルト生地のラグを引っ張り出し、予備の枕に使わなくなったカーテンを巻いた。好きな本と、お茶をいれた水筒と、PC、ワイヤレスイヤホン、スマホ。全部持ってベランダに出た。

ラグを敷いて、枕を窓に立てかけて、座ってみる。悪くない。イヤホンをしてノイズキャンセリングをすると、ほどよく車や近隣の音を遠ざけ、かすかに近くへ来た鳥の声と風の音。ベランダだからWifiも届く。アウトドアとインドアの中間。ベランダが少し広くてよかった。そして階数が少し高めなのもあって人の目も気にならない。(隣からはギリギリ見えるかもしれないけど、突っ張り棒を使ってもう一枚のカーテンをつければ問題ないだろう)

なんて心地いいんだろうか。風が肌を撫でてすり抜けていく。
人と会わなくなって、一人暮らしも長くなると、本当に触れ合うということがなくなる。(人とぶつかったり満員電車で衣類越しに触れ合うこともあるけど。)自分の肌に直接触れるものと言ったら、衣類、水(お湯)、風。このくらいだろう。風があってよかった、と思う。

雲が少しずつ形を変えていくのを久しぶりに見た。木が風で揺れる。時折金木犀の香りを纏って撫でてくれる風にキスしたい。

本格的に寒くなる前に、楽しみたい趣味ができた。

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