最初

小学校を転校してやろうじゃないですか。見送る側も、出迎える側も、一番気まずい時期に転校してやりましょう。一番気まずいタイミングは小5です。小4以下ならまだ全然なじめる余裕ありますし、小6ならただもんじゃないと思わせられる。小6で転校する奴が一番イカしてるんですよ。

小5が一番気まずいわけです。迎え入れる側にはもうある程度コミュニティが形成されていますし、こっちももう、ぐいぐいいけない自分に気づき始めてる段階なわけですから。

それでも、一応遊びには誘ってくれるわけです。彼らにとって私は半分人間で、もう半分はコンテンツでできている。自分もそれには答えます。口元を緩めて、でも目線は相手に屈さない意思だけは、あくまで対等でありたいという意志だけは示して。自分は、遊びに誘われて、それに「いいよ」という返事する過程でも、いろいろなことを考えているんだなあと思われたいです。

小学校あるあるはどこでも同じですが、遊びの種類に関しては学校ごとに変わります。ここの学校は今、キックベースがきてるらしいです。



ああ。だめだ。もうだめかもしれない。せめてドッジボールが流行っていてほしかった。転校生は、みんな肩が強いのに。



いや、キックベースには守備があるじゃないですか、



と一度は思うのですけれども、すぐに思いなおすわけです。キックベースの守備なんて誰も見てないんですよ。もうこの地では輝けない


私の打順がやってきました。小学校のボールは、ちょうどそのクラスの人間たちの、そこでの立ち位置の中央値と同じ重さで、自分がそれを上回れば外野に球は飛びますし、下回ればピッチャーゴロ。

私は三塁にゴロを打つわけです。


すんません。これナシです。他全部あってるんですけど、これだけは違います。

まだやれる。自分はまだこんなもんじゃない。

向こうも接待という概念は知っているのでしょうか。転校先で初めてキックベースやるやつの最初の打席がサードゴロでいいわけがないと思ってくれていたのでしょうか。気がつけば、私は一塁で生き残っていたわけです。



ひっかかりましたね。私を一塁に存在させましたね。

その瞬間、私はマウンドの上の、もう自分のことなんて気にも留めてないピッチャーを睨みながら、


「リー、リー」


こう叫ぶわけです。


私は、転校先で、まだ自分の性格とか何も理解されてない状況で、立ち位置とかもまだ何も手付かずの状態で、初めてのキックベースでも、勝ち負けとか関係ない、ただ楽しむためだけのキックベースでも、声出してリードをとってみせる


ほれ見たことか


ああ、キックベース


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