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鉄道の民営化は終わってない -2023年5月22日(月)

ニュース概要

・JR四国値上げ。値上げしても赤字。
・100円稼ぐために、1761円かかるのは、JR四国の予土線。(愛媛と高知を結ぶ路線)

・少し気になったので、JR四国が出している資料や、国土交通省が出している資料を読んでみた。
・国鉄の民営化を知らない世代の私でも、なんとなーくわかった気になれるくらいには調べてまとめました。
・情報が多すぎて全てをまとめることはできなかったので、全てを信頼しないでください。

JR四国の経常損益の推移

・まずは、JR四国の経営状態を見てみる。
・2022年9月に国土交通省鉄道局が出した資料が以下となる。

https://www.mlit.go.jp/common/001574121.pdfより引用
・一番下の赤い線が営業損益なので、ずっと赤字なのがわかる。
・JR四国の本業として代表的なものに運輸業、ホテル業、物品販売業があるが、これらが赤字ということだ。
・経常損益も、最近は赤字が続いていたが、先日発表された2022年度の決算資料を見ると、3800万円の黒字となっている。
https://www.jr-shikoku.co.jp/03_news/press/2023%2005%2010%2001.pdf

JR四国の歴史

・JRは国鉄の民営化によって誕生した。
・従来の鉄道事業を行っていた国鉄は、ずっと赤字経営を続けていた。
・そこで、市場原理を働かせて、業務の効率化や事業の質を上げながらも黒字経営されることを目指し、国鉄の民営化が行われた。
・国鉄は1つの会社だが、それを地方ごとに分割して民営化したのが、国鉄分割民営化と呼ばれる施策だ。

・民営化と宣言したはいいが、市場原理をより働かせるためには、株式を市場に出す必要がある。
・株式を市場に出すためには、安定経営されている必要がある。
・しかし赤字状態だった国鉄を民営化したからと言って、いきなり黒字になるわけではない。
・そのため、民営化に伴い、いきなり市場へ株式を出すのではなく、株式を全て政府が保有する形態となった。

・しかし、政府が株式を全て保有しては、国営なので国鉄と変わらない。
・そのため、まず特殊会社という形態でJRは作られた。
・特殊会社とは、目的や営業内容が法律で決められた会社のことで、JRの場合は、公的性質を持つ業務(=鉄道インフラ)を国に代わって運用することが目的となる。
・これにより民営化の恩恵を受けながら、経営の立て直しが見込める。

・この時に作られた法律が、通称JR会社法である。(正式名称は、「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」という。)
・つまり鉄道インフラは国家事業であるが、赤字を垂れ流し続けるわけにはいかないので民営化したい→いきなり市場にほっぽりだすのは無理→法律作って特殊会社として扱おう→ゆくゆくは完全に民営化しよう。という流れだ。

・この時、民営化に伴って地方ごとに作られた全てのJRグループが特殊会社となった。
・しかし、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州は経営の立て直しに成功し、一部株式上場した際に、特殊会社の枠から外された。
・その後、上記の4社は全ての株式を市場に出し、国の手を離れ、完全に民営化することに成功した。
・まだ特殊会社であるJR貨物も営業利益が黒字で推移しているので、特殊法人でなくなる可能性がある。
・一方で、JR北海道、JR四国は、まだ黒字化できておらず、民営化が完了したとは言えない状況にある。
・ここまでが民営化から、現代までの状況だ。

JR四国の経常損益の仕組み

・この画像は最初に貼った資料と同じ。
・この資料のとおり、JR四国はずっと営業損益が赤字である。
・それにも関わらず、経常損益は黒字の年が3分の2を占めている。
・この時に、緑の線である「経営安定基金運用益等」というのが出てくる。
・この基金から出るお金が、営業外収益として計上され、経常損益が黒字に転じている。
・つまり普通にやったら赤字なわけだが、それを打ち消すお金を基金が出してくれているということだ。

・この基金は民営化時に、国が用意したもので、民営化で誕生したJRの安定経営のために使われると法律で決められている。
・JR四国は、まだ特殊会社の形態なので、この法律の対象となり、基金からお金を出してもらえるというわけである。

・また、JR四国は基金による資金調達以外にも、税制上の優遇も受けている。
・以下資料の第5章に記載されている。
https://www.jr-shikoku.co.jp/04_company/information/shikoku_trainnetwork/4-2.pdf

・JR東日本など、完全に民営化された会社は、もう特殊会社ではないので、基金からお金をもらえず、自らの力で経営を行っている。
・JRグループと聞くと、JR四国もJR東日本も同じ会社だと思いがちだが、実際は別会社で、経営も独立している。
・JRをまとめる親会社のようなものも存在しないので、決算もそれぞれが行い、連結されたりしない。
・そのため、JR東日本の経常利益黒字と、JR四国の経常利益黒字では意味合いが全く異なる。
・JR四国は国からの援助によって、赤字を打ち消して黒字になっている状態だからだ。

今後のJR四国

・現状の分析、ミッション、KPIについては以下の資料が詳しい。
https://www.mlit.go.jp/common/001574121.pdf
https://www.jr-shikoku.co.jp/03_news/press/2022%2008%2026%2003.pdf
・2031年の経営自立を目指すとあり、連結売上高を489億円(2019年度)→600億(2031年)にし、鉄道運輸収入を224億円(2019年度)→235億円(2031年)と具体的な数値が記載されている。
・合計で、売上+122億となる。※売上であり売上利益ではない。
・売上+122億円で、コロナ前に基金から受け取っている金額約100億円を賄うためには、利益率を80%にしないといけないので不可能だろう。
・基金を使わないということが、経営自立の定義ではないのかもしれない。(経営自立の定義が見つからなかった。)

各トップの言葉

・ニュースに戻り、どうやったらJR四国の営業利益を黒字にできるかと考えると、廃線の話は出てきそうだ。
・冒頭に貼ったリンクの中で、JR四国の社長が以下のように言っている。

「鉄道を残すんだったら、私どもの単独じゃできませんよっていう線区が多分出ると思う。そういう議論のもとになるのは、要するに、維持するためには費用をだれがどういう形で負担するかということになろうかと思う」

・これは、当然の話で手っ取り早く黒字化を目指すのであれば、赤字路線を廃止してしまえばいい。
・残さないといけないなら、赤字をJR四国以外も負担してほしいという趣旨だ。
・一方で、愛媛県知事は以下のように言っている。

経営状況などをすべてオープンにして、まだできることがないのか探るのが先ではないか

・これもわからない話ではなく、民営化なのだから、基金(=国)からの補助金ではなく、企業努力による健全経営を求めるという姿勢だ。
・鉄道を残すならお金出してよねという社長と、鉄道残した上で黒字にしようよという知事と言った感じ。
・私鉄であれば、廃線にする際に国の許可は不要で、1年前に届けを提出すればよいが、特殊会社の場合はそうではないのか?
・事業計画の制定、認可に大臣の許可が必要で、廃線はこの事業計画に含まれる気もするが、法律自体には廃線について具体的に言及された箇所はなかった。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=361AC0000000088_20220617_504AC0000000068

感想

・ニュースを最初に見たときは、少子化とコロナ禍の影響で値上げか、くらいの認識だったが調べてみると、そうでもないことが分かった。
・民営化される前もされた後も、ずっと赤字で基金のお金で補填している。

・値上げの直接的な要因は、コロナ禍によるグループ全体の売上減少だが、その背景に30年以上前に行われた鉄道の民営化が、まだ終わっていないことがあると知れた。
・こういったことが、値上げの原因が解消された後も、値下げが行われないことに繋がっているんだなあと思いました。終わり。

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