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人は変われるのか

「人は、変わらないよ。変われない」

パソコンのスピーカーから無慈悲に鳴り響く声の色やトーン、画面に映るあの人の蔑むような、哀れみにも似た表情を今でも鮮明に覚えている。私の信念とは真逆の言葉。でも私はその言葉を否定することができなかった。何も言えなかった。

「自分が変われたように人は変われると思う。そして社会も同じように変容できるはずだし、自分はそれを巻き起こせる人になりたい」

新卒で就職活動をする際、何枚もノートに手書きで自己分析をした末に辿り着いた大事にしたい価値観がこれだ。今の会社の最終面接でもこの話をしたのを覚えている。

私は、人は変われると思っている。もちろん本人の努力や、周囲の環境、他にも影響を与えるものは沢山あるし、困難な状況が故に変わることができない人もいるとは思う。ただ、だからこそ、人は、変われると思っている、思っていたいだけなのかもしれない。でもその可能性を信じている。信じているし、自分は、今の立場にいて、それができるだけの環境があるならば、その変化を巻き起こす人間にならなきゃいけないと思っている。

だからなのかもしれない。私が最も傷ついているタイミングで発された自分の信念を否定する言葉にひどく傷ついてしまった。その時は傷ついていることにさえ気が付かなかった。一年を通して気が付いた。あの言葉に一番苦しめられているんだと。本当に人は変われるのか。私は変われているんだろうか。そう取り繕っても本質的にお前は弱い人間だとずっと誰かに言われているような気がしてしまう。

毎日押し寄せる応募書類とにらめっこして、誰かの希望と眼を合わせながら、君は変われるか、と問う。その質問は同じように私にも跳ね返ってくる。面接後暗くなった画面を見て「人は変わらない」と言われたあの人の言葉を思い出す。


この悩みを恋人に話したら、それは私を傷付けるために言った可能性もあるんじゃないか、と言ってくれた。憶測に過ぎないけど深くは考えていないだろうし、そういうコミュニケーションを取る人も存在するから、そんなに気にしなくていいよと言われて少し心が軽くなった。

確かに夜中に酔っ払って泣き喚いてしまうことも無くなったし、自分が我慢すればいいやと全てを飲み込むのではなく、たとえ結果そうなるとしても、その過程で今自分が思っていることをきちんと対話するようになった。お互いの感情をしっかりぶつけ合って、着地点を見つけるようなコミュニケーションは少なくとも今までの恋人とはしてなくて、もちろん相手もそうしてくれていたのだろうけれど、まあこれぐらい我慢すればいいやと終わらせてしまうことが多かった。

そういうコミュニケーションが結果的にお互いを苦しめてしまうのだということを強く学んだから、たとえぶつかり合っても都度最適解を見つけていくような関係性を今は努めて行おうとしているし、前よりはできるようになっていると思う。そういう意味では、変わった部分もあるんだろうか。

一般的には人材育成理論の中で、知識や価値観、スキルや行動は比較的育成が容易だが、性格や資質の部分は育成が困難、変わりづらい部分とされている。恋愛というのはどこでするんだろうな。性格や資質でするようなイメージが強いけど、相手とのコミュニケーションをある種のスキルとして捉えるならば、それは変わり得るものなのかもしれない。大事なのは自分の性格や資質を否定せず、ありのまま受け入れて、それを愛してあげること、そしてその上で相手とのコミュニケーションにおける最適解を見つけに行く、という行為をちゃんと繰り返していくことなのかもしれない。

あの人の「人は変われない」という言葉を今ちゃんと整理して捉えるなら、変われないのではなく、自分が変わる努力をすることや、相手が変わるのを期待するだけの愛情がもう尽きてしまったということだったのかもしれない。自己変革のためには強い動機が必要だと言っていた面接官の言葉を思い出す。強い動機があの人の中にはもうなかったんだろう。でもそう捉えることで、この言葉は私にとってそんなに悪い意味を持たなくなった。愛が尽きてしまったのであればしょうがないよね。


今年のクリスマスは去年最悪な思いをしたから、暖かいところでひとりでゆっくりしようかなと思ってプランを練っていたけど、なんだかフラッシュバックして悲しくなりそうだったから、やっぱり一緒に過ごさない?と恋人に言ったら、快諾してくれた。惰性でどこかいいところがないかと航空券を探していたところから、途端に楽しみなイベントへと変わった。

塗り替えるらしい


置かれる環境や、悩みながらも捻り出した意思決定によって人生が大きく変わる人を今までも何人も見てきた。自分が信じていることや、見てきたもの、それは決して間違いではないし、自分の未熟さゆえに傷つけてしまった人もいるけど、そういう人たちへの申し訳なささえも全部糧にして、自分はもっと変わっていかなきゃいけないんだなと思う。どんどん新しい自分に塗り替えていきたいね。

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