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2/8 愛するということ

別れた直後、今まで見たことがない彼の姿に衝撃を受けて、彼のどこが好きだったのかも思い出せなくなってしまった。別れてしまったことよりもその事実の方が辛くて苦しかった。「この人以上にいい人はいない」そう信じていたのに、いざ崩れてしまうとその想いが何に立脚していたのかが自分でもよくわからなくなってしまった。ずっと混乱していた。

この一年半、私は誰かと一緒に生きていくことの喜びを知り、その未来に幻想を抱いていた。でもそんなものはどこにもないのだという現実をただ突きつけられた。私はひとりで生きていかなきゃいけないのだ。

シンガポールから追い出された翌日にこんな言葉をnoteに書いていた。愛する人と共に生きられないということ、ひとりで生きていかなければならないということ、それらの事実を目の前に突きつけられ、悲しみと孤独がずっと私を支配していた。人生に絶望していた。もう人を愛したり、愛されたり、そういうことから遠ざかる人生を歩みたいと思っていた。何を信じたらいいのかもう分からなくなっていた。


彼がシンガポールに行ってからよく通うようになったバーがある。常連さんの名前をちょっとずつ覚えるようになった頃にちょうど彼と別れた。別れ話をした30秒後にそこに飲みにいき朝まで話をずっと聞いてもらった。それからは特に足繁く通うことが増え、そこで出会った人たちと今は週に何度もお店やそれ以外の場所でも顔を合わせてたわいもない話をしている。

そのお店伝いで仲良くなった人たちを家に招いてホームパーティーをした。14時ぐらいから始まって深夜2時過ぎぐらいまでみんなでずっとお酒を飲んで色々な話をしたりゲームをしたりシーシャを吸ったりパスタを食べたりしていた。その場は本当に心理的安全性が保たれていて、誰がどんな話をしても誰も馬鹿にしないし、それでいてとても楽しくて、少なくとも別れてからあんなに大笑いした日は初めてで、この人たちとも別れてなかったらここまで仲良くなることがなかったのかなと思うと、もちろんそうでないかもしれないけれど、とても不思議な気持ちになった。

みんなが帰ってからひとりで色々なことを考えていた。彼と過ごす中で自分がもらって嬉しかった言葉や幸せだった瞬間を思い出す。初詣の時に何をお願いしたの?と聞いたら、私と私の家族の健康を祈ったと彼は言っていた。彼はその時足を骨折していて、それよりも先に自分の健康では…と思いつつも、そんな風に愛する人のことだけでなくその家族のことまで考えられるのはとても素敵だと思った。素直に彼からの愛を感じて嬉しかった。私はその時彼の足が早く治るようにお祈りしていた。

「愛されていた」その事実とやっと自分が向き合うことができた。結末や彼の無責任さに怒りを覚える部分はあったし、それが故に大事な事実と私は向き合えなくなっていた。思い出せなかったのではなく、私自身がその事実から逃げていた。最初から愛されていなかったと思う方が楽だから。でも確かに私は彼にたくさんの愛情を注がれ、共に生きていく未来を思い描き、ふたりで生きていこうと誓ったのだ。彼からたくさんの愛を受けたし、同じように私も彼を愛していた。心の底から。

その愛が急な出来事として無くなった時、最初は絶望感が大きかったし、もうひとりで生きていくしかないのかもしれないと思った。それしか自分の手元には選択肢としてないように感じていた。ただ必死に自分と向き合い続け、言葉を書き連ね、その絶望感とたたかい続けるような時間を経て今思うのは、やはり人は人と一緒でしか生きられないということだ。もちろん関係性には様々な形がある。繋がりの強さも人によって異なるし、誰とも繋がりたくないと思うような瞬間もある。でも人生を通して全く人と繋がらず、全くもってひとりで生きていくなどということは不可能で、生活していく限りひとりで生きていくということはできないのだ。少なくとも私には。

別れたあとも私はひとりではなかった。私の周りにはたくさんの友人がいて、家族は常に私を気にかけてくれて、友人と呼ぶほどではないにしてもたまに顔を合わせて談笑するような知り合いもたくさんいる。それら全ての人と私は共に生きているんだと思う。それらの事実を現状を言葉にすることで認識することができた。私は自分で書いた言葉によって孤独感や絶望に打ち勝つことができた。何よりも自分を支えてくれたのは自らの言葉だった。



また、人を好きになりたいと思う。

彼と出会い恋をした。私もたくさん彼のことを傷つけたし、思いもよらない形で傷つけられ、とても悲しい思いをした。それでも私は人と一緒に生きるということに対して希望を見出しているし、また人を愛したいと思う。

きっと未来はもっともっといいものに日々変わっていくと思う。私ならそういう未来をきっと作れるという自信がある。強く生きていきたい。

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