ガザで生きる人たちの言葉を、自分の体に通す

「ガザ・モノローグ2010」を日本語に翻訳し、noteで発信していきます。

「ガザ・モノローグ」はヨルダン川西岸地区にあるアシュタール劇場が企画・製作した演劇です。ガザへの空爆が行われた2008〜2009年に、当時13〜18歳だった31人の語りから構成されています。
https://www.gazamonologues.com/

今、彼の地で起きようとしている人道の危機に対して、自分も何かできないかと考えている時、この「ガザ・モノローグ」に出会いました。初めは翻訳をするつもりはなかったのですが、読んでいるうちに、これは自分がいますべき仕事かもしれないと思うようになり、拙いながらも翻訳を始めた次第です。

そう思う直接の要因は、このモノローグが自分にとってパレスチナを身近に考えるきっかけとなった経験を思い出させたからです。

パレスチナとイスラエルについての個人的な体験

話は飛びますが、私は徴兵を終えたばかりのイスラエルの男性と話したことがあります。歳の頃は私と同じくらいで、日本に興味があり、VRチャットで日本語-英語の会話ができるサーバーを訪れていました。彼は私に話しかけ、日本のアニメが好きだと伝えました。それからドラゴンボールの話をして、話の流れでイスラエルの徴兵制度や軍での仕事についての話もしました。「友達」になるにはあまりに短い間でしたが、会話がもたらした確かな繋がりの感覚を感じて、そこで彼とフレンド申請を交わしたことを覚えています。
またVR上で会えるかと思っていたけれど、再会することはありませんでした。しかし、彼のアイコンはまだ私のフレンドリストの一番上に残っています。

このときの会話が、私にとってパレスチナ問題をのっぴきならないものとして考えるようになったきっかけでした。同時に、イスラエルに対して抱いている偏見を自覚したときでもあります。
教科書で見る地中海の東、三角形の形をしたイスラエルの地に、パレスチナ自治区があり、そこでは血の通った人々が生きていることを実感するようになった直接的な体験でした。

会話の中で忘れられないのが、彼が言った「日本は平和なのが羨ましい」という言葉でした。私の話す日本の生活が、彼にとっては牧歌的すぎると思ったのかもしれません。彼自身は体の都合で前線には赴かず、メディックとして従軍していたとのことだったのですが、いまから約1年前に聞いていたこの言葉が、ニュースでパレスチナの件を聞くたび、切実な意味をともなって私の脳裏をよぎるのです。

ガザの声を自分の体に通す

「ガザ・モノローグ」に掲載されているのは、彼の地で生きる人たちの切実な言葉です。それらは決して都合よく編集された思想や、対立を扇動するような文句ではありません。明日の暮らしを夢見て、一日でも命を長らえようとしている人たちがぎりぎりで紡いだ言葉です。
その言葉に触れ、日本語にしてそれを開いていくことは、ガザに生きる同世代の人の血を自分の体に通すような作業でもあります。ただ文字を追うだけでなく、その文字を自分の肚に据えて吟味し、言葉として発信する「翻訳」という作業をすると、自分の体が当事者になっていくような感覚があります。それは私にとって、やや突飛ですが、イスラエルの友人と話すことと似たような、傍観者ではない当事者としての生身の感覚です。

そのため私はこの翻訳を、誰かに読んでもらうためではなく、ましてやあるイデオロギーを主張するためでもなく、自分の手を動かし、頭を使って、同時代人という一当事者として関わったという手触りを残しておくために、行おうと思っています。
原文のアラビア語から英語を介しての重訳とはなりますが、そうして紡がれた言葉が、結果的に読んだ人にとってガザで何が起きているのかを知るための一助となれば幸いです。

ゆくゆくは演劇を作りたい

いま、アシュタール劇場は日々悪化していくガザでの事態に際して、この「ガザ・モノローグ」の朗読を世界中の演劇関係者に求めています。
私自身も演劇を自分の表現手段にする人間として、このガザの声を演劇にしたいと思っています。

なお、ガザ・モノローグは現在も更新され続けています。2010年版のガザ・モノローグから2014年に7編が追加され、「ガザ・モノローグ2014」となりました。2023年にはさらにそこから16編が追加され、「ガザ・モノローグ2023」として現在も更新中です。

また、この「ガザ・モノローグ2023」をもとに、先月2月24日に立教大学にて公開講演会が開催され、演劇ユニット「理性的な変人たち」によるリーディング公演が上演されました。上演台本がサイトで公開されているので、こちらもぜひご覧ください。
https://gazamonologues-jp.com/


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