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「ガザ・モノローグ2010」 その1

1.アフマド・エル・ルッジさん 1993年生まれ アル・ワフダ通り

戦争の前まで、僕にとってガザはお母さんのような存在でした。その大地に寝転ぶと温かい胸の上に抱かれるようで、その空は限りない夢に満ち、海は悩みを洗い流してくれました。しかし今、僕は住む場所を奪われた逃亡者のような気分です。もうこの街を夢のような場所だとは思わなくなりました。

戦争中、巨大なミサイルが電柱に直撃しました。僕は親戚のおじさんたちと家にいたのですが、電気が使えなくなった時、家のそばにある別の電線がまだ生きていました。僕は隣の家の人に延長ケーブルを貸してもらって、その電線から電気を引かせてくれないかと頼みに行きました。電線がつながり、僕たちの家に電気は点いたのですが、そのすぐ後に隣の人が延長ケーブルを取り返しに来て、そこで激しい口論になりました。

戦争中は、すべての人が自分のことしか考えなくなります。
多くの人は小麦粉をたくさん持っていたし、燃料の不足に困ることもありません。その間、一切れのパンも持っていない人がいたというのに……。その人たちはパンを分けてもらおうと乞いましたが、彼らは一切れも分け与えませんでした。ごく一部の良い人たちは施しを行ったけれど、ほとんどの人は自分のものに鍵をかけ、それを誰にも渡さないと決めていました。

本題に戻りましょう。僕たちはそれが隣の家の人のものだったにも関わらず、その延長コードを彼に返そうとしなかったのです。その時初めて、僕は自分がどれだけ悪人になれるか、気づきました。その罰はすぐにくだります。家のすぐ近くの建物が爆撃されて二つに折れ、その折れた半分がこちらへ崩れ落ちてきました。僕たちは延長コードも電気も全部そのままにして、市営公園の隣にあるおじさんの家に逃げ込みました。

そこは政府の建物に近かったため、夕方になると爆撃されるのではないかという噂が広がりました。もし爆撃されたら、おじさんの家は跡形もなくなってしまう! 僕たちは何をするべきか、どこへ行くべきかもわからず、ただそこでじっとしていました。お父さんはひたすら「心配するな、恐れるな。何も起こらないから」と言って僕たちをなだめました。真夜中までそうしていました。ミサイルの音と爆発の音が絶え間なく鳴っている中、お父さんは心配するな、恐れるな、と言い続けていました。しかしお父さんが急に「着いてこい! 家に戻るぞ!」と言って震え出し、僕らもそれにつられて震えが止まらなくなりました。お母さんは叫び声をあげ、おじさんは本当に具合が悪そうでした。ともかく、僕たちは真夜中に、おじさんの家族と一緒に逃げ出したのです。

僕たちは無我夢中で走って家に帰りました。今でもその日どこでどうやって眠りについたか、思い出すことができません。ただ覚えているのは、その建物からは離れていたということです。隣の家の人は延長コードを取り返していて、その人の家の明かりが灯るなか、僕たちは暗闇の中夜を過ごしました。彼が延長コードを取り返したのは、仕方のないことだったと思います。

その後、お父さんは狂ったように物を購入しました。電気ケーブルを3本、ガス缶を6本、電気鍋を2つ、ネオンのライトを20本、ロウソクを20パック、燃料を6パック、ワイヤーを10パック、懐中電灯を6本、そしてバッテリーを2箱。これで戦争を生き抜き、物事が良くなるよう注意していなければなりません。

僕は他の誰よりもひどいコンプレックスを抱くようになりました。戦争になる前の自分は、気前が良かったか、あるいは単にものの価値を知らなかっただけだったのかもしれません。水やパンが手に入れられない日が来るなんて思いもしなかったのだから。戦争が終わった後、僕はどんな些細なことについても、とても注意深くなりました。お茶に砂糖を入れることもしなくなり、パンをちぎってもそれを食べられなくなりました。食欲を失ったことで、本当に経済的になりました。お父さんは僕に「アフマドは自分の小遣いをいつも持っている」と言います。もちろん、いつ次の戦争が始まってもいいように、そうしているのです。

僕はまるで10人の子どもたちと結婚したかのように錯覚します。人生、いや、すべての事柄、どんなに小さなことに対しても恐怖を抱き、不安に駆られています。ガザのすべての出来事は動く砂の上で起こるように感じます。想像する限りすべての狂った事がこの地で、瞬く間に起こると同時に、多くの夢や幻が叶えられていきます。訳の分からない、奇妙な場所です。

悲しいのは、状況がだんだんと悪くなっていることです。そして、最も悲しいのは、それを止めるものがいないということです。
すべての穴には底があります。しかし、ガザにはありません。

僕は自由で解き放たれた一日を夢見ています。それほど大きな望みではありません。しかし、この地では叶えるのが難しいのです。

そして、僕たちに精神分裂を起こさせている、このパレスチナの分裂が終わることも夢見ています。

もう考えることに疲れたけれど、やめることはできません。僕たちは祈らなければなりません。しかし、そうすればやがて、神は与えてくださるでしょう。


ガザ・モノローグ 英語版
ガザ・モノローグ アラビア語版


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