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原発と堤防で露呈した村井知事の「ご都合主義」

 「宿痾(しゅくあ)という言葉をご存じですか。「長期間にわたって治らない病気」という意味ですが、「長年抱えた解決の難しい問題」の意味でも使います。

この国の宿痾「ご都合主義」
 この国はたくさんの宿痾を抱えています。 
・フクシマという惨禍を引き起こしながら、それでも原発を止めない。
・沖縄で県民の反対にも関わらず辺野古への基地移設を強行する。
・唯一の被爆国でありながら、核兵器禁止条約を批准しない。
・森友問題で、「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員もやめる」という発言の辻褄を合わせるために、公文書改ざんを強要した財務局の職員を自死に追い込みながら、その真相がいまだ明らかにされない。
 などなど、数え上げればきりがありません。これらの宿痾には共通した症状があります。自分の立場を守るために自分に都合のいいように判断し行動する。そのためには国民を犠牲にし法も無視する。
 これを「ご都合主義」といいます。
 この国に真っ当さを取り戻すためには、まずこの「ご都合主義」という宿痾を克服しなければならないのです。

なぜ堤防に固執するのか
 TBS『報道特集』(2022年2月5日放送)で「被災地の防潮堤」が検証されていました。この中で村井知事はこう述べています。
「百数十年後の人に評価される堤防を作っている。批判を受けて知事職を失っても構わない。」
 自信たっぷりですが、それほど胸を張れることでしょうか。被災した三県(岩手、宮城、福島)の中でもっとも堤防に固執しているのは村井知事です。それをこの発言が裏付けています。
 なぜ堤防に固執するのか。その理由が、「数十年から百数十年に一度起きる津波(L1)を堤防で守る」という中央防災会議の提言だといいます。
 ところが、当の中央防災会議で地震・津波対策に関する専門調査会の座長を務めた河田恵昭教授(関西大・防災学)は「L1すべてを防ぐ要塞を造れとは言っていない。避難路を整備することなどでリスクは軽減できる。地域に合った計画を作れる余地を残した」と堤防優先を否定しているのです。
 河田教授は『報道特集』でも、「今後五〇年経って震災を知らない人が住んだ時に、目の前の防波堤を見て、こんな高い堤防があれば大丈夫と思う危険性の方が大きい。基本は堤防ができても逃げるんです」と警鐘を鳴らしています。
 番組の中で、住民たちが堤防で海が見えないことを危惧していました。津波に気づくことができずに逃げ遅れたなら、知事職を辞めたところで償えるものではありません。

露呈した村井知事のご都合主義
 女川原発再稼働に同意した時に述べた知事の言葉を思い出します。
「原発がある以上、事故が起こる可能性はある。事故があったからダメとなると、すべての乗り物を否定することになる。」 
 今回の「百数十年後の人に評価される堤防を作っている」もそうですが、論理も根拠もなく断言しています。これは「原発再稼働」や「堤防建設」が先にあって、その理由が後付けだからです。自分がやりたいことが通ればよい。ご都合主義の典型です。
 女川原発の再稼働の是非を問うために、六割を超える県民が県民投票を求めたにもかかわらず、県議会での議決を理由に、県民投票を行いませんでした。県民投票をすれば再稼働が否決されることがわかっていますから、自民党が多数を占める議会を都合よく利用したわけです。
 また、自民党議員の中にも再稼働に反対の議員がいたようですが、それが議員として不利益になると判断すると再稼働に賛成する。これも「ご都合主義」です。

百数十年ではなく、一万年で考える
「ご都合主義」の最大の欠陥が近視眼であることです。自分たちの判断や行動が次の世代にツケを回すことになるのですが、そのことが想像できない。今さえ、自分さえよければよい。想像できてもせいぜい「百数十年」程度。
 縄文時代は、自然と共生する暮らしから、一万年も続いた平和な社会であったことが近年の研究から明らかにされています。この国はすでに持続可能な社会を実現していたのです。「ご都合主義」を排し、次の一万年を生きる人たちのために何をすべきかを考える。それこそが私たちの責務であるはずです。


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