意外と知られていないマーケティングのRTB(Reason To Believe)について解説します
こんにちは、西村マサヤです。
先日、こんなツイートをしたところ結構反響がありました。
ということで、このnoteはその続きです。
そもそもRTB(Reason To Believe)とは何か
僕がRTBと出会ったのは2年前、『マーケティングゲーム』という本を読んだときでした。
ちなみに話はそれますが、この本の翻訳は、かの足立さん。当時は知らずに読んでたんですが、足立さんさすがすぎる・・・。
著者はP&G、ウォルト・ディズニー、コカ・コーラなどでマーケティングの実績のあるエリック・シュルツというマーケター。マーケティング戦略全般を俯瞰した非常に濃い内容なのでとてもおすすめの本です。もう増刷されてないようで、中古しかAmazonに出てません。買うならお早めに。(増刷されてない良書は急に価格高騰するので...)
さて、RTB(Reason To Believe)とは、元P&G西口さんの説明によると、「信じるに足る理由」です。僕の解釈としては、「マーケティングメッセージの根拠」と捉えています。
実はこれ一部のP&Gマフィアの方は使われてますが、日本のマーケティング本で見かけたことはほぼないです。(もしかしたらP&G用語なのかも)
実際、僕の周りのマーケターでも、RTBの概念を知らない人のほうが多いのですが、日々マーケティング業務を行う中で、非常に重要な概念だと思っているので、もう少し解説してみたいと思います。
人々がCMを見て商品を買う理由
TVをつければ大量のCMが、「マーケティングメッセージ」を訴求してきます。
「洗濯物がすぐ乾く!」
「風邪に早く効く!」
「圧倒的高画質!」
「たまらない美味しさ!」
RTBとは、要するに、これらメッセージに続く「なぜなら〜」の部分です。
「洗濯物がすぐ乾く!◯◯を新配合!」
「風邪に早く効く!◯◯成分100mg入ってる!」
「圧倒的高画質!特許技術〇〇を使用!」
「たまらない美味しさ!すべての店舗で素材から調理!」
こういった具合に、訴求したい「マーケティングメッセージ」とセットになる「なぜそれが実現できるのか」の根拠、これがRTBです。
なぜRTBが重要なのか
おそらくP&G社内では、RTBまでセットで訴求した場合と、ない場合とで、メッセージの浸透率を比較検証し、セットのほうが良い成果につながるとサイエンスできているのだと想像されます。
残念ながら、僕はそこまで完全なサイエンスできていないので、あくまで所感の域を出ませんが、RTBの必要性は大きく3つあると考えています。
まず1つめが、消費者の「納得感」。
先程のRTBがないマーケティングメッセージの例を思い出していただきたいのですが、「すぐ乾く!」「早く効く!」「圧倒的高画質!」「たまらない美味しさ!」こういった強みだけを連呼されても、納得感に欠けますよね。CMに限らず、1対1の会話でも同じです。意識・無意識にかかわらず、「なんで?」という疑問が出てしまうはず。
一方、先ほどのメッセージの後に「なぜなら〜」と続けることで、「へ〜」とか「今の技術はすごいな〜」といった具合に、すっと脳内にメッセージが伝わっていく。この感覚はなんとなく、わかっていただけるかと思います。
2つめが「口コミ」。
言うまでもなく、マーケティングにおいて「口コミ」は非常に重要です。なので我々マーケターは、「口コミ」をどうハック(設計)するかを常に考えるわけです。
RTBが欠けてるマーケティングメッセージは、「口コミ」の威力を落としてしまうと僕は考えています。
例えば先ほどの「洗濯物がすぐ乾く!」の洗剤ブランドを例にとりましょう。
Aさん「洗剤何使ってる?」
Bさん「◯◯のやつ!」
Aさん「なんで?」
Bさん「んー、なんとなく早く乾くから?」
このように、口コミの際の会話の盛り上がりが非常に弱くなる。
逆に「洗濯物がすぐ乾く!◯◯を新配合!」というRTB付きのメッセージが一定ワークしたとしましょう。その場合の口コミイメージはこんな感じです。
Aさん「洗剤何使ってる?」
Bさん「◯◯のやつ!」
Aさん「なんで?」
Bさん「早く乾くから!なんか新しく配合されてるやつが良いみたい」
このように、消費者は明確にRTBを暗記してくれるわけではありませんが、なんとなくでもRTBの印象を残すことで、口コミの際に「添えてくれる」可能性が上がると考えています。
まぁこれもそんなに難しい話ではなくて、みなさんも普通に生活してると「商品を勧める」→「なぜおすすめなのか質問される」という会話をしていると思います。そのときにあなたが話せる「なぜなら」を、きちんとセットで訴求しましょう、という話。
最後に3つめは「プロダクト理解の必然性が上がる」という点です。
マーケティングメッセージを考えるのはぶっちゃけ簡単です。(雑に作った場合)
「安い」「綺麗」「頑丈」「早い」「美味しい」「いい匂い」「すぐ治る」「よく効く」「痩せる」などなど、消費者便益になりそうなワードを並べてしまえば、見かけ上のマーケティングメッセージはすぐ作れてしまいます。
しかし、当然そのようなメッセージがワークするはずありません。大事なのは、マーケティングメッセージが「製品と紐付いた納得性の高いもの」であることです。
たとえば、吉野家のマーケティングメッセージ、「うまい、やすい、はやい」。
一見、これはどのファストフードでも利用可能なメッセージに見えます。しかし、吉野家のこのメッセージがワークしている理由は、やはりRTBが明確だからなのです。
これは吉野家のWebサイトを見ればよくわかります。
たとえば、「うまい」。
吉野家の牛肉は、牛一頭から約10kgしか取れない「ショートプレート」という部位に、独自の熟成手法を加えることであの美味しさを実現しています。
(吉野家 Webサイト「食材へのこだわり」より)
次に「はやい」。
こちらもご飯の盛り付けが自動で出来る機械を導入したり、店員さんのオペレーション効率化に向けて「グランドチャンピオン大会」を開催し、競争原理による技術向上を行うなど、「なぜ吉野家はすぐ牛丼が出てくるのか」の根拠が明確です。
(吉野家 Webサイト「店舗でのこだわり」より)
「やすい」は値段そのものがRTBになってるので説明は不要ですね。(場合によっては「やすさの秘訣(効率化など)」を訴求するケースもありますが、これをやりすぎると価格コントロールがしづらくなるので、あまりやらないのかなと想像しています。)
もしあなたが吉野家のマーケターだった場合、まず「吉野家の強みは何なのか」を調べるところから始まるはずです。そこで例えば、「他の牛丼チェーンより美味しい」と気づいたとする。ここで思考が終わり、「圧倒的に美味しい吉野家!」と訴求してしまうと、説得力が不十分。
大事なのは「なんで他より美味いんだっけ?」と問い、その「強みの源泉」にたどり着くまで思考をやめないことです。そうすることで、「希少な牛肉の部位」や「独自の熟成手法」という源泉を言語化することができる。
往々にして、良くないマーケティングを行っている企業や製品は、この「マーケティングメッセージ(≒コアバリュー)」と「その理由(RTB)」がよくわからなくなっているケースが多いので、このあたりを調査し、言語化できるマーケターは非常に価値が高いのでは、と個人的には思っています。(僕もそうなりたい!)
全員がそうとは言いませんが、どうしても構造上、マーケターは研究開発や商品開発と距離ができてしまうので、「その便益がなぜ実現できているのか」への理解が浅くなってしまいがちです。
そのような中途半端な理解でメッセージを作るのではなく、徹底的に「源泉」を言語化できるまで学ぶ姿勢が大事なのだと思います。そういった意味でも、「RTB」を意識することは解像度の低いマーケティングメッセージを生み出すリスクを下げてくれることになるわけです。
RTBは元P&Gの西口さん、足立さんの著書でも紹介されているので、興味ある方は読んでみるのをおすすめします。
おまけ : 「あれ、でもAppleのCMってRTBなくない?」
僕が2年前、『マーケティングゲーム』でRTBと出会ってから、ずーっと引っかかってたのがこの問いでした。
Appleは、「圧倒的速さ!高速チップを内蔵!」とか、「驚きの高画質!◯◯万画素!」といった訴求をやりません。Webサイト上ではRTB的なワードもあるのですが、少なくともCMや該当広告では見たことがありません。
ということは、「RTBがあれば絶対良いということでもないのか?」あるいは「例外があるのか?」そんなことを半年くらい考えてました。
ただ、ある時気づいたのです。
iPhoneやMacも、実はきちんと「RTBをおさえたマーケティングメッセージ」を訴求してました。
では、「iPhoneやMacのRTB」とはなにか。
それは「Appleである」ことなのです。
Apple製品にとって、採用した新技術や素材、特許など、あらゆる「便益の根拠」を上回るのが「Appleブランド」そのものだと気づいた時、僕は衝撃を受けました。
つまりRTBとは、必ずしも製品にまつわる事象とは限らないということです。ただし、これはそう多くのブランドには当てはまらないと思っています。Apple以外には、SONYの音響製品、任天堂のゲーム、バルミューダの家電、、、といったところでしょうか。これらのブランドのマーケティングメッセージは、比較的RTBの要素が少ないような印象を持っています。
上記を踏まえると、我々はマーケティングメッセージに触れた際、
1. まずRTBが何かを読み解く
2-1. RTBが明確な場合 → メッセージとの親和性・納得感を言語化してみる
2-2. RTBが不在の場合 → RTBなしでもメッセージがワークしてるか言語化してみる
このような訓練を積むことで、マーケティングメッセージの良し悪しを身体感覚として鍛えていけるのではないかと考えています。(さらに言うと、2-2 「RTBが不在」なのに、メッセージがワークしてるということは、その製品の「ブランド・エクイティ」が高いということになるので、企業・製品のブランド価値の試算にも応用できるのではと思ったり...)
いやー、マーケティングってほんとおもしろいですね。飽きないです。
Appleのマーケティングメッセージについては、『Think Simple』という超面白い本にまとまってるのでよければぜひ。
さらにマーケティングを学びたい方は、こちらのnoteも合わせて読んでみてください。
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