ストレッチをサボりがちな人は要注意! 〇〇が硬い人はMCL損傷のリスクが高いかも。

MCL損傷とは

MCLとは、内側側副靭帯(Medial Collateral Ligament: MCL)や尺側側副靭帯(UCL)などと呼ばれる肘の靭帯のことです。
最近でいえば、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手がこの損傷が原因でトミージョン手術を受けていましたね。

このトミージョン手術を受けてしまうと完全復帰までに1年以上かかってしまうことも少なくないのでなんとしても避けたいところです。

(MCL損傷の予防トレーニングについての記事はこちら

◆ MCL損傷をしやすい人の特徴

このMCL損傷をしやすい選手の特徴がわかれば、その特徴を改善することで発生を防ぐことができるということで、研究者としては我先にとそれを探しているわけです。

そんな中で最初に目をつけられたのは、肩の可動域です。
ちなみに可動域とは文字の通りで、動く範囲のことですね。

「MCL損傷をしてしまった人」「MCL損傷をしていない人」で肩の可動域を比較した研究が多く出てきているのですが、ここで軽くこれまでに報告されている内容を見ていきましょう。

◆ 内旋可動域

内旋可動域が小さくなるとMCL損傷のリスクが高くなると言うことは、昔から言われているようです。
この内旋可動域が小さくなった状態はGIRD(Glenohumeral Internal Rotation Deficit:「内旋可動域の不足」という意味)と呼ばれており、研究者の間では常識と言っても過言ではないと思います。

画像1

内旋可動域とは上の画像のような可動域ですが、この可動域が小さくなる、つまり硬くなるとMCL損傷の危険性が高くなってしまうということです。

◆ 外旋可動域

これは先ほどとは逆に外旋可動域が小さくなってしまっていることを指します。
これについては直感的に肩のこの動きが硬くなってしまうことで、肘に負担がかかるのもわかると思います。

画像2

◆ TRM(Total Rotational Motion)

これは少し特殊な考え方で、上で述べた内旋可動域外旋可動域を足し合わせた数値のことを表します。
一般的に、野球選手のボールを投げる方の肩は、ボールを繰り返し投げることでかかるストレスによって、外旋可動域が上がり、逆に内旋可動域は下がるという特徴があります。
また、この上がり幅と下がり幅はだいたい同じ程度で、ボールを投げる方でも投げない方でも外旋可動域と内旋可動域を足し合わせた角度は180°になると言われています。

画像3

このTRMがボールを投げる方の肩で小さい、
つまり外旋可動域が十分に大きくなっていない、もしくは内旋可動域が小さい、これらの特徴が見られると、MCLの損傷リスクが高くなってしまうということです。

◆ 論文によって結果が異なる

これまで紹介したように、いろいろな特徴がMCL損傷の原因となる可能性が示されているわけですが、問題は論文によってそれぞれ言い分が異なるということです。

IR

例えばこの2つの論文では、内旋可動域が小さいとリスクが高いという結論を出しています。


ER

この論文では、統計的な結果とはなっていませんが外旋可動域の制限が
リスクを高める要因であることをほのめかしています。

TRM

この2つでは、TRMが小さいことがリスクであると結論づけています。


◆ 論文を読むプロの目線で見てみると

対象としている年代やレベル(高校生からメジャーリーガー)が違う研究であるとはいえ、ここまでバラバラな結果が散らばっていると、選手としてはどれを信じていいのか分からなくなってしまいますね。

そこで、論文をまとめた論文というものがあり、これをメタアナリシスといいます。
決められた手順で論文を探し、内容を吟味して論文の質を決めます。その上で集めた論文の結果を総括するというものです。

そのメタアナリシスのMCL損傷のリスクが上がる特徴に関するものが2019年に発表されていたので、今回はそれを紹介したいと思います。

◆ 論文を全部まとめた結果、、、

このメタアナリシスでは、1255本の論文を吟味し、最終的に13本の論文の結果が解析されました。
そしてその選ばれし論文の内容をまとめた結果、、、

なんと、MCL損傷のリスクに最も関係するものは、

グラブ側の肩の内旋可動域

でした!

グラブ側、つまりボールを投げない方の肩の可動域が小さいと、MCL損傷のリスクが高いという結果だったのです。

基本的にこれまでは、ボールを投げる方の肩に注目されており、逆の肩はその比較対象としてしか考えられていなかったのではないかと思います。

その言ってしまえば『おまけ』のようなものが、あくまで統計的な結果ではありますが、MCL損傷のリスクに繋がっていたとはびっくりです。

◆ 実際に見てみると

では実際に、双方時速100マイルを計測しつつも、片やMCLを損傷してしまい、片や大きなケガもなく安定して結果を出している選手のフォームについてそれぞれ見てみましょう。

こちらは、セントルイス・カーディナルスのジョーダン・ヒックス投手です。
2019年のの中旬にMCL損傷の疑いがあった彼ですが

画像4

グラブ側の肩関節が最も内旋した状態を見てみるとこんなかんじです。

一方、ケガなく安定した結果を残しているニューヨーク・ヤンキースのアロルディス・チャップマン投手ですが、

画像5

同じく最も内旋した瞬間を切り取ってみると、少しチャップマン投手の方が内旋角度が大きいように思えるのは私だけでしょうか?

この1場面を切り取っただけでは、何か結論めいたものが言えるわけではありませんが、捉え方によっては、グラブ側の内旋可動域が小さくなることで、外旋が始まるのが早くなってしまい、それに伴って体の開きが早くなるなんてことも言えるかもしれません。

◆ 本来の特性

では、違う視点からも考えてみましょう。

ボールを投げる方の肩は、繰り返しボールを投げるというストレスで筋肉や関節の周りの組織、骨などが変形してしまいます。
その結果として可動域が変わってしまうのですが、グラブ側の肩はその影響がありません。
ということは、グラブ側の肩の可動域はその人が本来もっている硬さや柔らかさを表しているとも言えそうです。

その考え方で今回の結果を見てみましょう。

「グラブ側の肩関節の内旋可動域が小さい人はMCL損傷のリスクが高い。」

これはつまり、ものすごーーーく簡単に言うと、

体が硬い人はMCL損傷のリスクが高い。ということです。

体の硬さというと大雑把すぎるかもしれませんが、自分は生まれつき体が硬い、もしくは柔らかいという感覚はそれぞれ持っていると思います。
特にストレッチをしているわけでもないのに、股割りでベターっと胸が地面に着く人。
逆にあぐらをかけないほど股関節が硬く、ストレッチをしてもなかなか柔らかくならない人。
自分自身でなんとなくどちらに属しているかは分かっているでしょう。

ここでいう後者に当てはまる人は要注意です。
全身的に体が硬い人はおそらくグラブ側の肩の内旋可動域も小さいでしょうから、他の人よりも入念なケアが必要になるでしょう。


◆ まとめ

今回の論文は

「グラブ側の内旋可動域が小さい選手はMCL損傷のリスクが高い。」

という結果を導くものとなりました。

この結果を受けて、グラブ側のストレッチをやって内旋可動域を上げることが予防に繋がるのか、はたまた体が硬い人は柔らかい人と比べてMCL損傷のリスクが高いと捉えて、投球側のストレッチをより入念にするのがいいのか、どちらがより効果的かはわかりません。

ですが、1255本の論文から導き出された結果ではあるので、どちらもやっておくのが無難な策と言えそうです。

ということで、最終的なまとめとしては、

右も左も肩のストレッチはしっかりしましょう。

というありきたりな結果になってしまいましたが、ストレッチをサボりがちだった人はストレッチの重要性について再確認していただけると幸いです。


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