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黄金色の図書館(お話)

「植物園……ですか?」
「いいえ、ここは図書館です」

彼が私を案内してくれたのは、ガラス製の半球状の屋根を持った、背の高い建物だった。
扉を開けて中に入ると、民家の3階までに届くくらいの高さの木々が、石畳を敷いた通路を挟んで左右に並んでいるのが見えた。通路の行き着くところは入り口からは見えない。木々の葉はみな一様に黄金色に光り、地面は同じ黄金色の落ち葉で覆われていた。

やっぱり植物園じゃないかと思う私に
「まあ、見ていて下さい」
と彼は言って、近くの一本の木に近づき、幹に手を置くとこう言った。

「カモアシ町史第一巻」

するとちょうど彼の頭上にあった枝から葉が一枚、はら、と枝から離れたかと思うとくるくると回転しながら地面に落ちていった。そのまま目で追っていると、人の膝の高さより下まで来たところで葉の周りの空気がかげろうのように揺らめき、パタン、と音を立てて一冊の本が地面に落ちた。表紙を見れば「カモアシ町史第一巻」と書いてある。

手で優しくほこりを払いながら本を拾い上げて、彼は「ね?」と言うようにこちらに微笑んでみせた。

「なるほど。」
私は感嘆して言った。
「つまりこの木々が本棚で、葉が本なんですな」

「その通りです。そして、こういうこともできますよ」

と彼は言って、私に私の隣に生えていた木に手を置くように促した。そして自分も同じ木に手を置くと
「この旅人さんにぴったりの本を」
と言った。

先程「カモアシ町史」が出てきた時と同じように、ひらり、パタン、と地面に落ちたのはこの町の料理店の案内書だった。
「……お腹が空いていますか?ここの見学の前にお昼にすれば良かったかな」
「いえ、朝食が遅かったのでまだ大丈夫ですが、この街はいつも美味しそうな匂いがしているものだから」

ややバツの悪い思いはしたものの、木の出してくれた案内書は滞在中大いに役に立ったのであった。

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