![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/96187630/rectangle_large_type_2_c3d887d373fa4f9bca55ab9e344334aa.jpeg?width=1200)
2度下がって4度上がる
新国立劇場タンホイザーの稽古は早くも舞台稽古に突入。タンホイザーの見所はたくさんありますが、第3幕でタンホイザーによって歌われる「ローマ語り」と呼ばれる場面はその白眉とも呼べるでしょう。世界中の劇場でタンホイザーを歌ってきたスティーヴン・グールドによる歌唱を聞くことができます。以下の動画は以前新国立劇場でもタンホイザーを歌ったトルステン・ケール(Torsten Kerl)によるものです。
https://youtu.be/axBoJjGzPp8
開始部に聞かれるモティーフは《挫折の動機》(Motiv der Gebrochenheit)と呼ばれています。内声の半音階やシンコペーションが、打ちひしがれたタンホイザーの心を表現しているのでしょう。私は第1節が終わったあと、第2節の歌(Wie neben mir)が入る直前に聞こえてくるファゴットのメロディーにたまらなく惹かれてしまうのです。2度下がって4度上がるこの痛切な表情を湛えたメロディー!これはもちろんタンホイザーの歌のパートにも出てくる音程関係なので特別なものではないはずですが、1節目が2小節の前奏からの歌い出しであったのに対して、2節目ではタンホイザーが歌うと見せかけてファゴットのメロディーがくる、これが泣けるんですね!
![](https://assets.st-note.com/img/1674221486579-My3LdCnepI.jpg?width=1200)
「2度下がって4度上がる」という音程関係はのちのワグネリアンに影響を与えたようで、リストの「前奏曲」や
![](https://assets.st-note.com/img/1674319217603-JrLpYBH4tO.jpg?width=1200)
フランクの交響曲の第1テーマ
![](https://assets.st-note.com/img/1674342972620-cOpZ1kaUKW.jpg?width=1200)
などに見られます。彼らがこのタンホイザーのファゴットから影響を受けたかどうかは全く定かではないのですが、その可能性を感じさせるほどインパクトの強い音程関係ではないでしょうか?
ちなみにフランクの交響曲が開始早々ワーグナーを強く意識させるのは、3小節目が減7でハーモナイズされたり、7小節8小節の1拍目減7コードの倚音がm7-5、つまりトリスタン和音と同じ響きがすることによります。
高関さんの演奏動画では「-1+4」と出てきますが、私はこれを「−2+4」と表したいと思います。「2度下がって4度上がる」からです。いろんな作品の動機の音程関係はこの図式を使うと楽に表現できます。
例えばワルキューレの《運命の動機》は「-2+3」と表せます。上記タンホイザーの「-2+4」と似ているのがわかるでしょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1674343679047-3KXLcOH7l7.jpg?width=1200)
同じくワルキューレの《愛の動機》は「−2−4+3」です。
![](https://assets.st-note.com/img/1674343941925-w6mF8Ofw09.jpg?width=1200)
この「−2−4+3」はワーグナーお気に入りの音型でして、《愛の動機》の原型と考えられるフライアの《逃走の動機》はその連鎖ですし、
![](https://assets.st-note.com/img/1674344110678-1Ag0moxMeZ.jpg?width=1200)
ジークフリート、さすらい人の歌う「起きろヴァーラ」や
![](https://assets.st-note.com/img/1674344507988-EbQhAsFBy5.jpg?width=1200)
さらにはマイスタージンガーの《好意の動機》も
![](https://assets.st-note.com/img/1674345107721-SjytSqLqbp.jpg?width=1200)
同じく「−2−4+3」の形をしています。
今回はローマ語りのファゴットを通して、色々なワーグナー作品や他の作品へと思考が発展していく私の頭の中を若干言語化してみました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?