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メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第10楽章

第10楽章「終曲」 Final

この楽章は一聴すると第5楽章「星々の血の喜悦」によく似た音楽に聞こえる。同じ3/16という拍子で書かれ、調性も Des dur 〜 Fis dur と対置される。3度の連鎖である「彫像の主題」で構成された第5楽章のテーマと、3度と4度を中心に構成される第10楽章のファンファーレ主題とは親近性を感じることもできる。しかしながら音楽の構造や語法、とりわけテンポ(第5楽章は1小節138、第10楽章は1小節100である)の違いも顕著であり、与える印象は大幅に異なる。

本稿ではオリヴィエ・メシアンの以下の著作物から引用を行っている。引用元は

"OLIVIER MESSIAEN
TURANGALÎLA SYMPHONY
pour piano solo,onde Martenot solo
et grand orchestre
(1946/1948 - révision 1990)
DURAND Editions Musicales"

それでは詳細に見ていこう。


・冒頭

ファンファーレ調のこの楽章の『主題』がいきなり登場。調号も付されておりFis-dur であることがわかる。Fis-durは交響曲後半で特に重要な調性だ。第6楽章「愛のテーマ」の調性であるし、第8楽章のクライマックスはFis-durで展開された。なお他の循環テーマと区別するために『主題』と表記する。

楽譜は第5楽章と同じく3/16で書かれている。5楽章と違うのはフレーズが4小節単位などとキリの良いところで割り切れないことである。以下に示す譜例は10楽章の『主題』を私が感じたフレージングに書き直してある。

10楽章『主題』

『主題』第1フレーズ(譜例1段目)はすべてMTL2-1で書かれており、Fis-durのトニックになる。(MTLと調性の関係はすでに第4,5,6,8楽章で語っているので繰り返さない。)
冒頭からの音価のまとまりは
3 3 3 4 5 5 4
となる。
第2フレーズは完全4度高く始まる(譜例2段目)。旋法はMTL2-3でサブドミナントの機能となる。10個目の音(a# c#)からMTL2-1に戻り、冒頭の音楽が回帰する。音価のまとまりが再び
3 3 3 4 5 5
となるのがわかるだろう。(最後の4は次の結尾にとって変わられる)
譜例3段目は『主題』の第2フレーズの結尾である。7つ目の音(f a#)からMTL2-2となり、ドミナントとなる。この結尾のフレーズは、再現部に向かうブリッジ部(21番)の素材として活用される。

続く第3フレーズでは、『主題』の冒頭が繰り返されそのままMTL2-1を維持したまま主和音に着地する。

ここまでの機能進行をまとめておくと
T S T D T
となる。

冒頭からのもう一つの要素は、ウッドブロックと小トルコシンバルで刻まれる「リズムのテーマ」である。

これまで、第4,5,7楽章に登場している。メシアンの偏愛するリズム形である。

これらが合わさったスコアを、『主題』のフレーズ2の結尾からフレーズ3にかけて、見てみよう。

この楽譜の4小節目からがフレーズ2の結尾、21番での展開素材となる
フレーズを3/16に復帰している関係上、『主題』の記譜が冒頭と1/16分ずれている。聴覚上の違和感はない。
ここはずっとMTL2-1
打楽器の「リズムのテーマ」にも注目

・3番

冒頭の『主題』と4番から始まる「愛のテーマ早回し」は両者とも確固たる和声機能をもち、調性音楽としても捉えうるものであるが、その間に挟まれたこの3番は、不協和な和音と第1楽章で聞かれたメシアン独自の和音群によるブリッジである。『主題』のように明確に知覚できる音楽ではないが、実は!ここの和音が楽章全体を彩る非常に重要な和音群なのだ。

弦楽器の弾く和音群には、その中から抽出した音を弾くソロピアノ、グロッケン、チェレスタが付く。
5-6 4-16 4-5 5-6 5-z36 6-18 4-11 4-3
後ほどこの和音群から導いたオスティナート音形が出て来る。

続く木管楽器は1楽章や8楽章で聞かれた和音の再現。8-18,8-z29,7-z36,7-z12,8-16,8-16 である。ARMB(7−20)と1ARCを元にした和音だ。一番上の声部が(g f)で固定されている。

8-18 = 1ARC:A(7-z36)に1音加えたもの
8-z29 = ARMB(7-20)に1音加えたもの
7-z36 = 1ARC:A
7-z12 = 1ARC:B
8-16 = ARMB(7-20)に1音加えたもの

ARC(縮約された倍音の和音)と、ARMB(同一バス上に移置された転回和音)の詳しい解説は「アッシジ」記事を参照のこと。

弦楽器+木管楽器の組み合わせが2回繰り返される。オンドマルトノはこのどちらにも加わる。

続いて弦楽器による 7-z36,7-z12,6-z19,6-z43,6-z19,6-z43 の和音連鎖。「縮約された倍音の和音」第1和音、第2和音の連続提示である(第5楽章2番8小節前も参照)。一番上の声部が(d# c#)で固定されている。

7-z36 = 1ARC:A
7-z12 = 1ARC:B
6-z19 = 2ARC:A
6-z43 = 2ARC:B

最後の2つの和音、5-1 と 5-2 は半音を多く累積した鈍い響きの和音であるが、楽章後半でこの2つの音による展開がなされるので、重要な和音である。

冒頭の「リズムのテーマ」のように、ここでも打楽器のリズムが独立して聞こえてくる。

1 2 | 3 6
1 1 2 | 3 3 6
1 1 1 2 | 3 3 3 6

という具合に音価1と音価3の個数が増えていく。後者は前者の3倍の拡大形である。音価1と2はマラカス、音価3と6は小トルコシンバルとチャイニーズシンバルが担う。

始まりは前のページ(前掲)、続きは次のスコア譜例参照

・4番


非常に遅いテンポで演奏される「愛のテーマ」の音価を、すべて16分音符の等価にして繋げて速く演奏してみたらどうなるだろう?というおおよそメシアンしか考えないことを実現してしまったのがこの部分。第6楽章の提示部まで「約5分10秒」かかるところを、第10楽章では「約20秒」で通り過ぎることになる。早回しにも程があるが、速くやっても遅くやってもこのテーマは成立するから素晴らしい。

4番はEs-durであるが、原型との比較のためにFis-durで出現する27番を掲載
もとの「愛のテーマ」、すべて16分音符にして繋げると上記の譜例になる。

弦楽器とオンドマルトノの弾くメロディーに内声となる木管楽器の組み合わせ、アクセントのある箇所には金管楽器による和声が付く。フレーズの最後のみ長い音価となり、金管楽器がその持続を継続する。これが途中で切れたのちもサスペンドシンバルが次のフレーズの入りまでロールを持続する。その持続の間をソロピアノ、グロッケン、チェレスタがMTL2-1の和音進行で埋める。

以下4番より「愛のテーマ早回し」

持続の箇所。金管楽器が切れてもサスペンドシンバルだけ残る。ガムラン群がMTL2-1の和音行進を奏する。

・6番 1~4小節

最初4小節間、以下の5つの要素が重ね合わされる。

a)『主題』の冒頭
ホルン、トロンボーン、ファゴット、チェロによる『主題』最初の4小節がG-durで出る。

b)「和音のテーマ」
ソロピアノの連打、そしてフルート、オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラの上パートが同じ音域で「和音のテーマ」を火花を散らすかのように演奏。

実際はこれの1オクターブ上が鳴る。

c) MTL4-2による下降音形
ピッコロ、チェレスタ、グロッケンはMTL4-2による下降音形を演奏。

d) ヴィオラの上昇する半音階
ヴィオラの下パートが『主題』スタートのd音から出発し、半音階上昇を演奏する。

e)打楽器群によるリズム
ウッドブロック、小トルコシンバル、サスペンドシンバル、チューブラーベルが 4 4 4 のリズムを刻む。これは楽章冒頭の「リズムのテーマ」の最初の音価と同一である。

以上の5つの要素が混在する。「和音のテーマ」だけでもそれ自体が複雑なテクスチャーなのに、MTLの下降音形、半音階上昇音形が加わり錯綜度が増す。

・6番 5~9小節

①4-11 3-6のゼクエンツ
②跳躍する7音和音
③管楽器による強奏和音、下声部は5-31。
④弦楽器にオンドマルトノが加わる3音のグループ(上声部3-4 下声部3-2)がそれぞれ半音上昇下降(ファン)する
以上4つの部分から成り立つ。

・7番

前半4小節は6番と同様G-durによる『主題』の4小節。後半、①②は変化なし、8番3小節前の③は上声部が上昇し下声部が長2度下降している。④前のパターンの2つめの音から開始し、16分音符4つ分ファンが開く。

・8番

『主題』の4小節はAs-durに変化する。①②は変化なし。9番6小節前の③は6番の最初の和音配置から 3 2 2 2 のリズムでファンを開く。下声部の配置は変わらないが、上声部は若干の変化を伴う。④は以下の音から出発し7つ分ファンを開く。

③下声部の和音は全て5-31

・9番

『主題』はA-durに。トランペットを中心としたそれまでより1オクターブ高い音域で提示される。これにヴィオラ、チェロ、クラリネット、ファゴットのMTL2-3による上行音形が加わる。『主題』はMTL2-1なので、同じ旋法の2つの移高形が同時に存在することになる。
『主題』は最後の4音、次に最後の2音と消去され音程の拡大を伴い次のように発展—『主題』4小節目の短2度が、6小節目増4度、13小節目で長6度、14小節目で短9度となる。これが15小節目の長9度の跳躍につながる。

この展開の下で、弦楽器が新しい和音の連続をオスティナートで繰り返す。

オスティナート①、4つの5-7に8-18 8-z29が2組付く。1つ目の8-18にはしばしばg#音が付加され9-11となる。

これは2種類の5-7和音のゼクエンツ(第2楽章、第5楽章でも見られた)に 8-18 8-z29のゼクエンツがついたもの。最初の8-18にはチェレスタ、グロッケンやオンドマルトノのg#音が足され実質は 9-11である。8個周期で繰り返す。「和音のテーマ」と同じような作用をもたらすものだが、テーマとまでは呼べない。のちに別のオスティナート音形が登場するので、このパターンを「オスティナート①」と名付けることにしよう。(こういう分析における名称は、分析者の勝手な呼び名にすぎない。)
ソロピアノは「オスティナート①」から抽出した音を弾く。この「基層」たるパターンは今後しばしば登場する。

コントラバスは音価6から1ずつ減らし半音階上昇する。
6 5 4 3 2 2 2 2 2 (1)

5小節目から「オスティナート①」

9番の15小節目は2つの違う系列のARC(縮約された倍音の和音)から1つずつ和音を抽出して繋げたものである。音程幅は『主題』4小節目の展開からたどり着いた長9度(d# c#)である。6回繰り返されるうちにオンドマルトノ、管楽器が加勢する。

「縮約された倍音の第1和音」の1個目
「縮約された倍音の第2和音」の2個目
を繋げてみた!

・10番

オーケストラ全体に6-2{c d g# a a# h} の和音が鳴る。その後細分化されたリズムで繰り返される。合わせシンバルの16分音符の連打が印象的だ。

10番、6-2の和音は{h d}→{a c}→{g# a#}の順に累積される。

・11番

「愛のテーマ早回し」が F-dur で出る。最後の持続は4小節に短縮される。ソロピアノ、チェレスタ、グロッケンの和音行進はMTL2-3となる。

・12番

「愛のテーマ早回し」がAs-durで出る。

・13番

最後の持続部分、これまではMTL2の和音行進であったが、ここで違う要素が聞こえて来る。
ソロピアノとクラリネット、チェレスタグロッケンとピッコロフルートオーボエが4音和音を形成する。以下のように8和音周期で一周すると半音ずつ下げながら、中断を挟みつつも続けていく。

完全4度が中心に重ねられているが、最後に完全5度と長3度も含まれ若干の色合いの変化がある。

「愛のテーマ早回し」の結尾5音が転調を重ねて提示される。
Ges: →As: 

5音ずつで調が変わる

As: → B: 

その最後の持続で4音和音が上記の規則で繰り返される。
トライアングルは弦楽器の持続が終了した後から
2 2 3 3 4 (4)
の音価で彩りを添える。

・14番

『主題』がオーボエ、ホルン、2nd 3rdトランペットでD-durで出る。そしてその背景は「和音のテーマ」と「オスティナート①」による極彩色の対位法である。その他の要素もないまぜになり一種の恍惚感を味わえるセクションである。まずは和音の分析をしてみよう。

1~4小節 「和音のテーマ」がソロピアノとオーケストラ、2つの方法で聞かれる。音域変更を伴ったオーケストラが先行し、1小節遅れてソロピアノが音域変更なしで演奏。結果的に1~4小節でカノンのように「和音のテーマ」が扱われる。

5,6小節 音域拡大を伴った「オスティナート①」の6音目まで。5個目の音には小トランペットのg#音が含まれており9-11となる。
つまり
5-7 5-7 5-7 5-7 9-11 8-z29
という和音進行だ。
ソロピアノは先ほどの抽出された「基層」パッセージを、1小節遅れで他の楽器とリンクすることなく独自の要素として聞かせる。

8~11小節 「オスティナート①」が8個分全て聞こえてくる。ソロピアノはここでも1小節遅れ(16分休符3個分)で入声。

12~13小節 再び「和音のテーマ」、ソロピアノは1小節遅れ

14小節 「オスティナート①」が聞かれるが、3個分の5-7で断ち切られる。

上記以外の要素にも言及しておこう。

チェレスタとグロッケン、そしてウッドブロックとマラカスは「リズムのテーマ」を演奏。2つの和音(5-5 5-3)を交代で演奏。この和音連結はコーダで再現される。

 2つの和音(5-5 5-3)を交互に演奏する「リズムのテーマ」

オンドマルトノは半音階上昇を音量pであえて目立たないように演奏。(しかし大概の演奏では聴取できることが多い。)

以上が合体されたスコアが以下のもの。

・15番

14番で始まったD-dur『主題』は強制的に断ち切られ、15番でH-durの『主題』にとって代わられる。ここは6番の音楽の再現・発展となる。使用される要素は6番からのものと同じである。

①は音価4に減少、③の管楽器のコードは音価1に、④のファンが9個分開く。そして次の『主題』の入りが、小節の頭ではなく16分音符1個分ずれていく(聴覚上の違和感は全くない)。

・16番

②③の要素は繰り返される。和音は8番の譜例を参照。④のファンは10個分となる。

・17番

『主題』がC-durで出る。5小節目からの各要素はさらに変形が加わり、以下のように展開する。④のファンに入ることなく18番へ進む。

・18番

1~4小節 『主題』が反行形で出る。2度のぶつかりが印象的なMTL1-2。それまでのH-dur C-dur の盛り上がりを受ける形としては意外な感じもする。オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、2ndヴァイオリン、ヴィオラはMTL3-1の上行音形だ。

5~16小節 9番の5小節目と同じように8音周期の「オスティナート①」が繰り返される。コントラバスは音価7から1ずつ減らし半音階上昇する。
7 6 5 4 3 2 2 2 2 1 1

なお『主題』反行形はその後以下のように発展する。

『主題』反行形、最初の4小節はMTL1-2

5小節を全音下げると6小節目、7小節目の上パートを半音上げ、下パートを全音下げすると8小節目、と微細な部分まで展開が計算されている。

17〜22小節(つまり19番の6小節前) 管楽器と弦楽器がそれぞれ配置の異なる 7-z36 と 6-z43 を演奏。つまりカノンが形成されるわけだ。管楽器の上パートは長9度上昇、弦楽器の上パートは長9度の下降となる。それぞれにチャイニーズシンバルとマラカスが付随する。最後に1度だけ参加するオンドマルトノは強烈な響きだ。(下記掲載のスコアも参照)

・19番

10番と同様に全オーケストラに渡る和音累積である。ここでは 9-2 {c c# d es f g# a b h} 和音、累積順序は{h d f} → {a c es} → {g# a# c#}となるが、3回目の累積の高音域にはh音やc音も混じっており、凄まじい叫びのような様相を呈す。この9-2はそれまでに何度も聞いてきた③の第1和音、第2和音と同じであるので、強烈な響きながらも関連性を持って響くのだ。(10番の6-2はそのサブセットである。)同じように細かい音価で合わせシンバルと共に連打が付く。

・20番

『主題』回帰へのブリッジ、メシアンの面目躍如たる部分。

・上声部 『主題』第2フレーズの結尾を展開していく。

a)b)はトニックの役割、c)d)e)はドミナントの役割。

3 3 3 3 4 の音価のフレーズを、音高を上げる操作と、音価を変化させる操作を行なっていく。上記20番から23番に至る11のターンで

音高) 基本→半音→全音→全音→半音→半音→短3度→半音→半音→同→同
a) 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 2
b) 3 3 3 3 3 3 3 3 1 1 1 
c) 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 2
d) 3 3 3 2 2 2 1 消滅
e) 4 4 4 3 3 2 1 1 1 1 1

となる。音高の変化の不規則性や音価の切り詰め方の不規則性が、我々聞き手を幻惑し高揚感を呼び起こす。4本のホルンが聞こえ、次にトランペットとコルネット、音量を増しつつ最後にはトロンボーンも加わる。

・低声部 11音のフレーズが「非シンメトリックな拡大」をする。

第1音 半音下げ
第2〜5音 半音上げ
第6、7音 変化なし(a es)
第8〜11音 半音上げ

第1音、変化なしの第6、7音にはトロンボーン、チューバ、ソロピアノのアクセント、それに大太鼓、タムタムが付随し強調される。

この両要素が大きなクレッシェンドを伴って進んでいく。

スネアドラムだけは、上記展開には参加せず独自のリズムを刻んでいく。
20番アウフタクトより

3 2 1 1 1 1 1 1 1
4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
6 5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
7 6 5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
8 7 6 5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1 
9 8 7 6 5 4 3 "2" 1 1 1 1 1 1 1
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1 1 1 1 1 1
12 11 10 9 (8)

というリズムを刻む。長い音価が増えていき末尾に1の音価が7つ付く。再現部24番直前のクレッシェンドは例外で盛り上がりに参加するが、基本は音量pで孤高の世界だ。これは27番の直前まで続く。
(注) 24番3小節前は上記の規則からすると音価2でなくてはならない(" "を付けた箇所)。エラーなのか、盛り上げに参加するために敢えてソロピアノに追随させたのか、、(私は個人的にエラーだと思うので、音価2で演奏していただきたいところだ)

・23番

c# g#音の刻みを背景に低音が(d f g a c d)と上昇する。音価は2 1の軽快なリズム。登りきったe音からは逆向きに降りてくるが、その音価は
 4 2 2 2 2 2 2
となる。このe音と同時にホルンのゲシュトップで{h f}が強奏される。これでC-durの全ての音階音が提示されることになる。{h f}はC-durとFis-durの共通音であり、そしてまた {h f}はFis-durのドミナントであり、背景のc# g#と共に属7和音を形成する。一瞬厳しい響きがあり緊張を伴うが、その後弛緩しc#音(Fis-durのドミナント)連打へと向かうのだ。

・24番

再現部である。冒頭剥き出しで提示された『主題』だったが、ここでは色彩的な衣装を纏うが如く、さまざまな和声が共奏する。その付随するものについて言及していこう。『主題』は提示部と同じ寸法である。

1~5小節目1拍 バスクラリネット、ファゴット、弦楽器、そしてソロピアノがMTL2-1の和音行進を上行形で演奏。

5小節目2拍〜7小節 管楽器は全て『主題』の和声としてMTL2-1を演奏。弦楽器は3番ブリッジに出てきた和音に由来する新たなオスティナートを演奏し始める。これを
オスティナート②
としておく。理解のためにa~fの記号を振っておこう。

オスティナート②、f和音(4-26)はF#6

3番「ブリッジ」の和音群と比較してみよう。

オスティナート②とはa b c d が共通和音

真ん中のc d e の和音は繰り返され
a b c d e c d e f
の順序で演奏する。ソロピアノとオンドマルトノはこの和音から抽出した音を弾く。

チェレスタとグロッケンは独自の9音周期のフレーズを演奏。オスティナート②の音数が同じ9個であるので連動しているように見えるが、そうではないことが後ほど明らかに。

チェレスタ、グロッケンの9音フレーズ

8,9小節 全ての楽器がFis主和音の響きに参加する。それまで別の世界にいたチェレスタ、グロッケン、ソロピアノ、オンドマルトノでさえも。『主題』最後の持続の上には煌びやかな響きが作られる。

以上の9小節は2度繰り返される。

・25番

1~5小節目1拍 下降形でMTL2-3の和音行進。

5小節目2拍~9小節目2拍 上行形でMTL2-1の和音行進。

9小節目3拍~12小節2拍 弦楽器、ソロピアノ、オンドマルトノは「オスティナート②」、チェレスタとグロッケンは「9音フレーズ」

12小節3拍~18小節1拍 全ての楽器は『主題』の旋法と共に演奏、つまりMTL2-1 と15小節目からのMTL2-2だ。

・26番

26番2拍~14小節2拍 25番からと同じ。『主題』は小節冒頭から始まらないのは、これまでに何度かあった。聴覚上の問題はない。

14小節3拍~ オスティナート②が始まるがその結尾の和音は変形されている。4-26(F#6)に解決する代わりに2つの和音(7-13,6-z19)が最後につく。(g h)としておこう。区別のためにこれをオスティナート②'と名付けよう。

オスティナート②'

a b c d e c d e g h(←オスティナート②'  c d eは繰り返される)
a b c d e g h(オスティナート②')
a b c d e g h(オスティナート②')
c d e f (←オスティナート②の最後4音)

この楽譜の7小節目最後の音から弦楽器の「オスティナート②'」、ソロピアノとオンドマルトノはこのグループの音を演奏

・27番

「愛のテーマ早回し」が主調のFis-durで出る。フレーズ最後の長い持続の間に鳴るのは上行音形のソロピアノ、チェレスタ、グロッケン、下降音形の木管楽器だ。上行と下降は繰り返しのたびに逆転する。また上行にはdim.下降にはcresc.が付される。

ソロピアノ、チェレスタ、グロッケンはMTL3-1 
木管楽器は2種類のMTL2の移高形が混ざる。
・ピッコロ、フルート、オーボエ、イングリッシュホルン、第2クラリネットがMTL2-1
・第1クラリネット、第2、3ファゴットがMTL2-3を演奏。
すると実際に鳴る音は1音ごとにフォートネームで5-1と5-2を繰り返す形となるのだ。

28番4小節前より

3番ブリッジの項で、フレーズの最後についていた2つの和音が5-1 5-2であったことを思い出そう。そのままの配置で出現する。ここでの使用を予告していたというわけだ!

4番では「愛のテーマ」と同じ旋法を弾いていたので非常に調和した響きであったが、ここでは複旋法による「軋み」が生まれる。特に5-1は半音5音を累積した和音だし、5-2もほぼそう。つまり響きとしては厳しいものになる。

・28番

「愛のテーマ早回し」続き。持続部分のMTL3-1は下降形となりクレッシェンドを伴う。5-1 5-2連鎖は上行形となりdim.を伴い和音構成音が減少していく。

・29番 30番

「愛のテーマ」セクションB が早回しになる。(第6楽章noteも参照)

第6楽章「愛のテーマ」この楽譜の2小節目からがセクションB

持続部分のMTL3-1と5-1 5-2は続けられる。上行にはdim.下降にはcresc.が付く。

・31番

「愛のテーマ」セクションB後半のみが3回続けて、全てff(金管楽器はf)で演奏される。
1度目:「早回し」8つの音価が終わるとMTL3-1 5-1 5-2が5音価分続く。
2度目:「早回し」8つの音価が終わるとMTL3-1 5-1 5-2が5音価分続く。
3度目:「早回し」8つの音価が終わるとMTL3-1 5-1 5-2が10音価分続く。

全てのフレーズが3で割り切れるわけではないので、譜割り上各フレーズの入りは同じ拍とはなっていない。

・32番

32番アウフタクトより上記フレーズが5度繰り返される。8つの音価の最後の音が次の開始音にオーバーラップする。音量は
p → mf → f → piu f → ff
と段階的に上がっていく。7個目の音は
f# → f# → f# → a# → c#
と上昇し興奮を昂めていく。
ここでも各フレーズの入りは同じ拍とはなっていない。

32番、フレーズ8音目は次の新しいフレーズの頭の音に重なる
33番よりガムランはMTL3-1、管楽器はMTL2-1と2-3を引き続き演奏。

・33番

それまで聞こえていたMTL3-1と5-1 5-2の交互進行(MTL2-1と2-3の混合)は継続され、他の楽器群も参入。大きくブレーキをかけながら盛り上がり真正「愛のテーマ」の大音響での再現を準備する。

a) それまでのMTL3-1と5-1 5-2の交互進行(MTL2-1と2-3の混合)は継続される。7小節目の頭の音を境として上行は下降に、下降は上行に転じる。
コルネット、トロンボーンも参加する。特にトロンボーンのMTL2-3(減7和音の分散形)が特にはっきり認識される。

b) 弦楽器は33番5小節目よりMTL2-1を幅広い束のような響きをもって和音行進。4小節上昇したのち下降に転じる。

c) 33番7小節目より金管楽器とバスクラリネットはMTL6-2を演奏。クライマックスの直前は特にD管小トランペットが存在感を発揮する。この旋法は以下のように、Fis-durの音階音を5つも含む。ちなみにリヒャルト・シュトラウス「サロメ」の冒頭音階と同じ形である。

「サロメ」冒頭


前掲楽譜の続き。その先は次のスコア譜例に続く。弦楽器はMTL2-1、金管楽器はMTL6-2。

・34番

「愛のテーマ」の神格化された再現。もはや6楽章のようにppではなく、全オーケストラによる愛の喜びの咆哮だ。高音域はピッコロでなく、オンドマルトノに任されている。その輝かしい恍惚の音色で演奏会場は満たされる。

再掲、「愛のテーマ」原形
「愛のテーマ」回帰

ここでの「愛のテーマ」はトニックに解決せず、ドミナントのまま終わる。

・36番

ここから怒涛のコーダに入る。この楽章でこれまでに使われていた要素が大集合する。部分ごとに分解してみよう。

1~6小節

『主題』は全ての音価が16分音符に圧縮、要約される。ホルン、トランペットで始まり、3小節目3拍よりピッコロ、オーボエ、クラリネット、イングリッシュホルン、そして1stヴァイオリンの上パート、ソロピアノが参加する。
クラリネット、イングリッシュホルン、バスクラリネット、ファゴットは『主題』と同じMTL2-1の和音行進を上向きに演奏。

ソロピアノ、チェレスタ、グロッケンは9番5小節目と同様に、オスティナート①から抽出した音形を弾く。3小節目3拍から、ソロピアノは上記のように『主題』に参加。チェレスタ、グロッケンは14番と同様に5-5と5-3の和音連続。その冒頭には1stヴァイオリン下パート、2ndヴァイオリン、ヴィオラも加勢する。

36番はオスティナート①の3音目からスタート。1,2個目の小音符は演奏されない。

ウッドブロック、マラカスは「リズムのテーマ」

5小節目3拍からオーケストラ全体に撒き散らされた「和音のテーマ」、しかしバスクラリネット、ファゴット、コントラバスには『主題』の{a# c#}が保持されている。

チューブラーベルのみはこのコーダを通して{a# a g f# g c#} の音列を叩き続ける。すべての音がFis-dur『主題』のトニックであるMTL2-1に属する。時に1音欠如したり繰り返し音があったりする。開始は f で始め、一度37番で p に落ちたのちはクレッシェンドを続け、文字通り「喜びの鐘」を鳴らし続ける。

7~12小節  上記6小節の繰り返し

・37番

1~2小節
ホルン、トランペットは『主題』やはり全て16分音符に圧縮されている。
弦楽器、木管楽器、ソロピアノはオスティナート②
チェレスタ、グロッケンは「9音周期音形」の最初5音

3~6小節1拍
全てが『主題』に参加、すなわちFis-durの主和音、ソロピアノのMTL2-1だ。最後のカデンツは第8楽章でモティーフA'と呼んでいたものだ。{c# a# g#}の音形だが、実際はオンドマルトノの高音域の{f# a# g#}が目立つ。

6小節2拍~11小節2拍
上記の繰り返し、譜割りは16分音符1つ分ずれている。

11小節3拍~13小節2拍
1~2小節と同じ

13小節3拍~16小節1拍
オスティナート①、トランペット群以外の全オーケストラがこれに参加する(ソロピアノも含め)。トランペット群の『主題』はMTL2-3、サブドミナントとなる。

36番、コーダの開始からここまでのスコアを見ておこう。さまざまなパーツが合体していることがわかるだろう。

一番最後の音は次項ブリッジ再現の開始音となる

・38番2拍前

38番2拍前~38番3小節2拍
『主題』の{f# a# c#}は全音域にわたり展開される。
1stヴァイオリン下、2ndヴァイオリン、ヴィオラが5-5と5-3をチェレスタ、グロッケンに先立ち演奏(1stヴァイオリン上パートは『主題』)。チェレスタ、グロッケンは16分音符の連続で5-5と5-3を9音価分演奏。

オンドマルトノは38番3小節前より喜びのトリルを伴い上昇していく。

3小節3拍~10小節

3番ブリッジ部分の再現である。まずは3番の譜例を再掲しておこう。

以下が「ブリッジ」の再現である。上記の和音が音価を16分音符に圧縮して連なっていることがわかるだろう。最初の繰り返しと最後の5-1,5-2はない。
最後の6-z43のあとに2音(7-16 7-4)が拡張され、39番一番低い音域のc#音に接続する。

5-6 4-16 4-5 5-6 5-z36 6-18 4-11 4-3
8-18 8-z29 7-z36 7-z12 8-16 8-16
7-z36 7-z12 6-z19 6-z43 6-z19 6-z43 7-16 7-4
という進行である。和音解説は3番の項を参照。「和音の再現」を認識するのは甚だ困難だが、ブリッジでの使用和音が楽章の重要な構成パーツであったのはここまで見てきた通りだ。最後のクライマックスに向けて、これらの和音進行を背景的な意味でも有効に利用したと言える。スコアを見ておこう。(最初の5-6は前掲スコアの一番最後の音である)

前のページの最後の音より
5-6 |4-16 4-5 5-6| 5-z36 6-18 4-11| 4-3 8-18 8-z29| 7-z36 7-z12 8-16| 8-16 7-z36 7-z12| 6-z19 6-z43 6-z19| 6-z43 7-16 7-4|

ソロピアノは唯一『主題』の2音 {c#a#} をキープし続ける。

・39番

超低音域でのソロピアノの『主題』{c# a#} とバスドラムのff が大砲を炸裂させたような衝撃を与える。

続いて3つの要素が混在する。

・『主題』Fis-durをキープするパート:トランペット(5音周期で繰り返す)、低弦、低音木管楽器、ピッコロ、チェレスタ、グロッケン、ソロピアノ、チューバ
・7-z36 7-z12 6-z19 6-z43 6-z19 6-z43(1ARC 2ARC 2ARC) の連鎖:木管楽器、ホルン、トロンボーン。終わりから10小節前、最後の6-z19 6-z43は3度繰り返される。
・オスティナート②':ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ上パート

オンドマルトノはFis-durの分散形を喜びのトリルを加えながら上昇していく。

以上が合体され、Fis-durの中に2つの和音群が混在される複雑なテクスチャーのまま進んでいく。

終わりから7小節前6小節前の和音はFis-durがメインで聞こえてくるが、そこに不協和音が混じっている。オーボエ、イングリッシュホルン、クラリネット、ホルン、コルネットが演奏する5-31だ。この和音については6番の項の譜例を参照。中間部の展開において重要な役割を果たした和音を最後の最後に登場させたのだ。半音ずつ下げながら3回鳴らされる。なお和音の配置が既出のものと異なるが、移置すると5-31となり6番③の要素と同等と言える。

下段は5-31、6番7小節と配置が異なるがこれも同じ5-31

最後のFis-dur主和音は急速なクレッシェンドで音量を増し、圧倒的な勝利、栄光、歓喜のエンディングとなる。

では最後の2ページを見て頂こう。

1ARC、2ARC、オスティナート②'と主題の混合
終わりから7,6小節前はF#と5-31が合わさった和音

第9楽章は↓


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