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2022年、小説「ジミー」から始まる動きについて

戦争や災害があると、私たちは、うすうす気づきながら先延ばししてきたこと、つまり、近代社会の方法論がすでに行き詰っていることを思い出す。

強制的に立ち止ることになって、予定外に生まれてしまった空白の時間の中で、考えることを避けてきた「本質的な問題」を直視してしまうのだ。

東日本大震災の後、私は人生に急ブレーキをかけた。それまでやってきたことを止めて、日本での生活も止めて、大きくレールから外れてゼロからのスタートを切った。

あの衝動は、何だったのだろうか?

何かを垣間見て、何かを直観しているのに、それを無かったことにはできない。

そんな衝動が身体を突き動かしていたように思う。

じゃあ、自分は何を垣間見たのか?何を直観したのか?

漠然としていたそれを明確に理解できるようになるまでに5年間を必要とした。

理解したことを、次の生き方の土台に据えられるようになるのに、さらに5年間を必要とした。

2011年からの10年間の私の活動は、東日本大震災で発生したモヤモヤを、何とかして咀嚼して、形にしていこうともがきながら前進してきたものだった。

2020年のコロナウィルス感染拡大に伴う全世界的なロックダウンは、世界中の人を立ち止らせ、本質と向き合うための時間を与えたはずだ。

そこには、東日本大震災の後に流れたのと「同種の時間」が流れているのではないか。

その時間の中で「本質的な問い」と向き合った世界中の人たちの心の中には、簡単には言葉にできないモヤモヤが発生しているだろう。今後、それが原動力となって何かしらかの活動を、同時多発的に生み出すだろう。

それは、教育の革新だったり、組織形態の革新だったり、新しいアートだったり、様々な形を取って、時代の精神として共鳴しながら、次の社会を形作っていくものになるはずだ。

組織の変容サイクル

コロナ文学

橘川幸夫さんが、「戦後に戦後文学が生まれたように、アフターコロナにコロナ文学が生まれるはずだ」と言ったとき、なるほどと思った。

小説という方法論は、原点回帰して再構築するものなのだそうだ。

橘川さんは、私塾であるYAMI大学深呼吸学部の塾生に「1970年代小説」という課題を出し、10名ほどの塾生が、1970年代の時代背景の中で初めて小説を書いた。こんがらがってしまった現在から原点回帰して再構築しようと考えたとき、原点回帰の地点として1970年代を設定し、「バブル経済へ行かなかった1980年代」を模索するとのことだった。

エイミーさんの小説「ジミー」は、コロナ状況の中で時代に押し出されるように書かれた原稿だった。誰から依頼されたわけでもなく、どこかの文学賞を目指したわけでもなく、ただひたすら、半年がかりで書いたものだった。その原稿を橘川さんと、出版社であるメタブレーンの太田さんが読み、その後の展開を見て、「コロナ文学」が現実のものとして出現してきたのだと悟った。その時の様子は、エイミーさんのnoteに書いてある。

コロナ状況の中で発生した新しい意識を形にしていく活動。様々な表現手段の中で小説という形を選んだ人たちが「コロナ文学」を形作っていくのだろう。新しい文化とは、このようにして立ち上がっていくのだろう。私たちは、その現場に立ち会っているのかもしれない。

出版前に対話の場を開いて気づいたこと

社会変革ファシリテーターは、災害などで「未来が見えなくなった」場所に入っていく。そして、お互いの深い真実に耳を傾け合う対話の場を創る。

過去の延長線上の未来が無くなったとき、私たちの深い部分から「本当に望んでいる未来」のナラティブが出現するのをサポートするのだ。

私は、社会変革ファシリテーターが耳を傾けるナラティブと、「コロナ文学」とは、構造的に同じものだと思った。そこで、社会変革ファシリテーターとして「ジミー」を課題図書とした対話会を企画することにした。

2020年10月17日、20日、27日の3日間で、「疎外」「アイデンティティ」「多様性」をテーマにしたオンライン対話会をやりませんかと呼びかけたところ、108人が興味を持ってくれた。

3回の対話会を通して、「フィクションの物語があることで生まれる、新しい対話の可能性」に気づいた。そこで、「フィクション・センタード・ダイアログ」という新しい手法を開発することにした。

小説「ジミー」は、私たちの日常的な行動の背後にある構造が、「ジェンダー」や「ヒエラルキー」や「日本人らしさ」などからどのように影響を受けているのかを具体的に描き出している。

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小説を読むことで、様々な感情が発生し、それを通して、普段は無意識の領域に沈んでいる各自の構造や無意識の前提が浮かび上がってくるのだ。

感情が動く個所も、動き方も、人によって様々である。その違いによって、各自が自分の内面の構造や前提に気づくチャンスが生まれてくる。

フィクション・センタード・ダイアログのメカニズムが見えたことで、様々な可能性が見えてきた。

「この小説は、学校がテーマだけど、組織でも同じことが起こっている。ぜひ、組織の問題に取り組んでいる人たちに読んでほしい。」という声が上がり、「自然経営研究会」のメンバーを中心に対話会を行った。

また、「多文化共生をテーマに活動している人たちで対話会をやってみたらどうだろう?」という声が上がり、日本語教師を中心としたグループでの対話会を行った。

「カウンセラーなど心理系のプロで集まって対話会したい」という声が上がり、メンタルのプロで集まって対話した。

ショールかおりさんが代表を務めるコミュニティWithUでは、「疎外」と「アイデンティティ」をテーマに2回の対話会を行った。

高校生や大学生向けの対話系イベントを企画している「ワクワク循環ラボ」では、大学生3名を含むメンバーで対話会を行った。

「これは、アンコンシャスバイアス小説だ!」という声が上がり、氷山の下の無意識の構造のが行動にどのように影響しているのかに気づく対話会を女性経営者のグループで行った。

また、前川珠子さんは、アンコンシャスバイアスをテーマにした対話会を2回実施した。

さらに高校生中心のグループ、アート&デザイン系のコミュニティ、外国語ルーツの子どもたちのグループ、などで、対話会が企画されている。

のべ200名以上の人たちと「ジミー」を課題図書に使った対話会を実施し、対話会のやり方を、様々な方向へと進化させて行けそうな手応えを感じている。この動きを広げていきたい。

2022年1月1日から「ジミー」の出版支援クラウドファンディングがスタート

現在、「コロナ文学」を直観した橘川幸夫さん、メディアクリエイターの平野友康さん、そして、田原真人が発起人となり、三者三様の方法で「ジミー」を世の中に広めていく活動を準備中です。

すでに対話会を体験した皆さんの中で、「ジミー」に可能性を感じ、一緒に広めていきたいという方を仲間に誘いながら、まずは、初刷りの出版支援のクラウドファンディングを成功させたいと思います。

それを足掛かりに、本質的なコミュニケーションの輪を広げていきたいと思っています。時代の精神と共振共鳴して、世界各地から出現してくる同時多発的な動きと合流しながら進んでいきましょう。


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