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「オンラインで学ぶ!反転授業入門」を終えて

「反転授業の研究」というFacebookグループがある。

2012年12月にスタートしたときは、わずか5-6人の勉強会だったが、2013年に佐賀県武雄市が反転授業を一斉に導入した頃から「反転授業」という言葉の認知度が高まって人が増え始めた。塾や予備校、NPOなどで動画を使った教育をしていた人たちと、アクティブラーニングや協働学習をしていた教師たちとが合流して学び合いを始め、2016年には4000人を超えるグループになった。今では、6000人を超えている。

発起人の私がマレーシア在住だったこともあり、「反転授業の研究」は、スタート時からオンラインが中心だった。そのため、地方在住などで対面のイベントに参加が難しい人が、むしろ活動の中心になっていることが多かった。東大や文科省を中心とした動きとは対照的に、周辺で草の根的に生まれた動きだった。年に1-2度、関西や東京でオフ会を行うときには、遠方から集結してきて、とても盛り上がった。

2013-2016年の3年間が、「反転授業の研究」の活動が活性化した時期だった。その背景には、東日本大震災が人々に与えた衝撃があった。大災害などがあると、立ち止って、それまで惰性でやってきたことを点検する動きが生まれる。「教育は、このままでよいのだろうか?」という問いが、多くの教師の中に生まれた。「主体的・対話型の学びを推進する私たちが、まずは、オンラインで対話し、主体的に学び合っていこう」というのが、合言葉だった。

その欲求によってドライブされ、WizIQやGoToMeeting、appear.inなどのWeb会議システムを試しながら、それらを組み合わせて、当時、どこもやっていなかったオンラインでの対話型ワークショップを開発してきた。2015年にZoomが登場してきたときに、いち早くZoomの可能性に気づき、Zoomを使ったオンラインワークショップのノウハウを確立したのは、その3年前からオンラインワークショップの様々な可能性にチャレンジしてきたからだった。『Zoomオンライン革命!』は、「反転授業の研究」での取り組みが土台になって書かれた本だ。

「反転授業の研究」第2期が再起動

2016年から活動休止状態になり、その後、何度か再起動しようかという動きはあったが本格化しなかった。しかし、2021年に再起動することになった。

コロナウィルスの感染拡大と、学校や企業の全面的なオンライン化の動きの中で、多くの学校は、それまで二の足を踏んでいたICT化に取り組まざるを得なくなった。GIGAスクール構想も1年間前倒しで実施されることになり、デバイスの一人一台が突然実現したりした。

日本各地でICT導入の動きにリーダーシップを取って取り組んだ教師たちの中には、「反転授業の研究」の仲間がたくさんいた。

一方で、ICTに強い30代の教師の活躍が目立った。彼らは、「新しい学習観」に基づく教育(いわゆる「ゆとり教育」)を受けてきた世代だ。時代の動きに敏感で、周りと連携しながらプロジェクトを実行していく能力が高いのが、この世代の大きな特徴だと思う。

私は、その様子を見て、コロナ状況の中で教師たちの中に生まれている新しいエネルギーが合流する場として「反転授業の研究」を再起動する意味があると直感した。次のような3つの波が重なり合うタイミングが来たと感じたのだ。

第1波:1998年頃「ゆとり教育」の実践。

第2波:2013年頃 「反転授業」の実践者と、管理職の年代になった第1波の実践者が合流。

第3波:2021年 ゆとり教育を受けた世代が実践者になり、管理職の年代になった第1波と第2波の実践者と合流。

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都立高校で物理の反転授業に取り組んでいる黒尾信さんは、「ゆとり教育」を受けて育った30歳である。「物理のしっぽ」というYoutubeチャンネルを運営し、独力で試行錯誤をしながら反転授業を実践してきた。

2021年に黒尾さんと出会ったことで、その向こう側に、まだ出会っていないたくさんの「黒尾さん的な存在」を実感し、「反転授業の研究」を再起動することにした。

「オンラインで学ぶ!反転授業入門」

第2波の2013-2016年の頃は、ICT環境が十分に整っておらず、「反転授業」を実践するにはハードルが高かった。そのため、「動画講義の作り方」「アクティブ・ラーニング」「ファシリテーション」「授業設計」など、関連するテーマでの講座を行ったが、「反転授業」そのものをテーマにした講座は実施しなかった。

第2期のスタートにあたり、黒尾さんの反転授業の実践を中心に据え、それを支える形で、田原真人、千田瑛子が、「経験学習の原理」「ファシリテーション」「コミュニティ型の学び」などのテーマの講義を作成した。また、松田哲士が、予備校や高校で悪戦苦闘しながらどのようにマインドセットを転換してきたのかの体験をシェアした。

37名の受講者と一緒に1ヶ月半(全6回)のオンライン講座「オンラインで学ぶ!反転授業入門」を実施し、新たな出会いが生まれ、新たな関係性がスタートした。この講座は、「反転授業の研究」コミュニティの再起動を本格化していくだろう。

受講料は、10%が事務局、残りの90%を、まず4人で均等配分し、その後、各自が自分を含む4人にコメント付きで分配する「シェアリングバリュー方式」で分配する。この方式は、第1期のオンライン講座の時に福島毅さんが開発し、運営チームの収益分配に導入していたものだ。収益分配ルールは、それぞれの運営チームが相談して決めることになると思うが、第2期の最初の講座を「シェアリングバリュー方式」で分配したので、次回以降の雛形になると思う。

講座内容は、原稿にまとめて出版する方向で準備中です。

今後、「反転授業の研究」コミュニティでは、年に3-4回のペースで、様々なテーマのオンライン講座を展開していく予定だ。



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