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円環的な時間における原理から、人口減少社会の未来を洞察する

人間は、記憶する能力を持ち、さらに、文字などを使って記録する能力も持っている。

これらの能力のおかげで、人間に長期的なスパンで物事を考えることが可能である。

私たちが長期的な未来を予想するときには、

1)普遍的な原理

2)状況を表すパラメーター

の組み合わせで考えることが多い。

普遍的な原理には、過去から未来へ一直線に流れる直線的な時間で捉える因果関係と、春夏秋冬の季節が巡るように円環的な時間で捉える繰り返しパターンの抽出とがある。

テクノロジーの発展のように逆行しないものは直線的な時間で因果関係で予測する。一方で、歴史の中で繰り返されている出来事は円環的な時間で捉えることが有効である。

時間の合成

現実の時間は、それらの2種類の時間が重ねあわされたものとして理解することができるのかもしれない。

たとえば、AIや量子コンピューターのように、すでに技術が存在していて、開発が進むにつれて社会実装が進んでいく場合は、現在の社会システムに、新しい技術を追加することによって生まれる「新しい合理性」に注目し、直線的な時間における因果関係によって「より効果的なシステム」を論理的に導き出す方法論が有効である。

私も、「Zoom革命」や「Miro革命」を提唱するときには、直線的な時間で、因果関係的に未来を予測している。

一方で、円環的な時間は、大局的な時代の流れを捉えるのに有効である。例えば、陰陽五行の木火土金水などは、円環的な時間でプロセスを捉えるフレームワークとして有名である。

円環的な時間における原理を土台に据えて考えると、直線的な時間における変化はパラメーターとして見なすことができ、1サイクル前に起こったこととの共通点を普遍的な原理で把握した後、1サイクルの間にアップデートされた状況の違いを分析して、未来予想をすることが可能になる。

古田隆彦さんの「人口波動学」は、文明の栄枯盛衰のプロセスと人口動態との関係の考察から導かれた普遍性の高い原理であり、人口の増減パターンに伴って繰り返されるパターンを抽出したものだ。同時に、1つ前のサイクルとの共通点と相違点についても詳細に分析し、未来予想を行っている。

古田さんは、文明には、「人口容量」があるという。

古田さんが提唱する「人口波動」のイメージを、私が理解した範囲で説明すると、以下のようになる。

農業文明、工業文明・・といったように、新しい文明が生まれると人口容量が拡大し、その容量が満たされるまで人口が増加する。
しかし、人口容量の上限に達すると、人口増加を前提にして作られていた社会システムが機能不全化して行き詰る。上り坂の時に生まれた楽天的な文化と現状とがぶつかり混迷し、人口減少に転じる。
ある程度、人口減少が起こるうちに、現状の受容が進むと同時に、濃縮社会へと移行する。濃縮社会では、モノは余っているので、コトが重要視される文化が繁栄する。
技術や思想の発展によって新しい文明が生まれると、人口容量が変化し、人口は増加に転じる。

人口波動

古田さんの「人口波動学」は、文明が「人口容量」に到達して、人口減少に転じるときに社会の生じる典型的な現象を抽出しており、説得力を持って未来予想が語られる。

1サイクル前の農業時代の終わりに起こったことと、現在直面している工業時代に起こっていることとは、どのように関連付けられるのだろうか?

日本において農業文明が「人口容量」に達したのは、江戸時代である。昭和の総理大臣、福田武夫は、昭和と江戸時代の元禄とを対応付けて

「昭和元禄」

と呼んだ。農業文明の最盛期であり人口が増加していた元禄と、戦後の高度経済成長で工業文明の最盛期であった昭和とが対応するからだ。

では、その後の対応関係はどうであろうか?

古田さんは、農業文明が人口容量の上限に達して停滞した「享保」に徳川吉宗が行った緊縮財政と、バブル崩壊後の構造改革にあたる「平成」とを結びつけて

「平成享保」

と呼び、共通点と相違点とを考察している。普遍的なパターンと、状況による違いとを分離したうえで、重ね合わせることで精度の高い未来予測が可能になるのだ。

古田さんは、令和は、農業文明において田沼意次が取り組んだ「明天」の時代状況に対応するのだと言い、

「令和明天」

と呼ぶ。そのような枠組みで見ることによって、日本が直面している超高齢化、人口減少社会の持つ課題と可能性を発見しやすくなる。

人口拡大期の成功パターンを、人口減少期に適応してもうまくいかないのは明らかだ。人口減少を受容し、濃縮社会における最適な社会構造へのシフトを模索するのが、時代の流れを捉えた発想であり、そのヒントが、農業文明の人口減少期の施政者であった田沼意次の悪戦苦闘にあるというのは、今までに考えたことのない発想だった。

1970年代、80年代に、社会工学研究所、現代社会研究所といったシンクタンクで研究し、当時の政府のブレーンとして活躍した古田さんの見ている世界は、現在、社会課題に取り組んでいる多くの人の参考になるのではないかと思う。

古田さんのこちらの著書もおすすめです。

YAMI大学深呼吸学部では、古田隆彦さんの「人口波動学」の講座開設を計画中なので、ご期待ください。


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