文学座のクラウドファンディングについて思うこと

文学座がクラウドファンディングに踏み切った。私にとって文学座は演劇との出会いの原点であり、迷いもなく支援に参加した。ただ、この「挑戦」に対して思うところを残しておきたいと思い、久々に投稿する。

コロナがなくても劇団の経営状態は一般的に楽ではなく、それは文学座も例外ではない。自前のアトリエを持っている文学座がクラファンに頼る状態だから、持っていない劇団は更に厳しいだろう。劇場ももはや劇団を支援できる経営状態でなくなってきている。


日本の演劇界には戦前戦中の政治的・経済的苦難を乗り越えてきた歴史があり、そのあたりは「戦禍に生きた演劇人たち」(堀川惠子/講談社文庫)を読むとよく理解できる。老舗であるからこそ、伝統がある。ただその伝統は本業の芝居で発揮するのが筋で、「昔はもっと厳しかったのだから」といった根性論を伝統として振りかざしている向きが仮に存在するとなると、今やそれは通用する時代でないことを知るべきだ。


今回のクラウドファンディングでの支援要請に当たり、文学座がプロジェクト本文に記載した文章の中で、ピックアップしたい箇所がいくつかある。
「劇団の運営はかつてない変化と苦境に立たされています」「悩みに悩み、この度クラウドファンディングへの挑戦を決意」「この試みを、決して一過性のものではなく、支援くださった方々と今後も繋がっていくためのきっかけだと位置づけています」


そして、資金使途として「公演の規模縮小による収入減の補填」「感染対策費用」「公演環境、アトリエや稽古場の環境整備、換気対策費用」
プロジェクト内容:文学座が2021年12月31日までの演劇活動を実施すること


冒頭に書いたとおり、コロナがなくても劇団の経営状態は楽ではなかったはずだ。もちろんコロナによる様々な影響が「いよいよやばい」という認識をもたらし、四の五の言ってられない状況になったことで今回のファンディングに繋がったと推測するが、では何を「悩みに悩んだ」のだろうか。ファンだからこそ敢えて苦言を呈することを許していただきたいが、アクションが遅い。まあその理由もわかるような気がするが、要するにガバナンスが曖昧なのだと思う。


更に言えば、資金使途がこれでは「当面の延命策」でしかない。経常運転資金的な資金使途だからだ。とりあえず年内を凌げばという考えなのだろうか。自助・共助・公助という言葉がある。公助が公演助成金や行政からの支援金だとすれば、今回のクラファンは共助に分類されるだろう。では自助はどうか。


今回のクラファンという共助で得た資金を経常運転資金に充当するだけでは、抜本的な経営状態の改善に繋がるものではない。その前に自助をどこまでやったか、やるつもりなのかを明らかにするのが筋。本来自助があって共助・公助が続くべきではないかと思う。順番が違う。まあ、過去を振り返っても仕方ない。ではこれからどうするか、ということだ。


共助たるクラファンを募るに当たり、得た資金は経常運転資金のみに充当するのではなく、将来の収入増を展望した投資に充てる構想が欲しい。順番が違ってもいい。


もう一つ、「自助」でなすべきことがある。それは「共助」で得られる資金を増やす努力をすることだ。「クラウドファンディングに挑戦しました」と劇団や座員がSNSで拡散することはもちろん必要(やっていない人がいたら、今からでも遅くない、やりましょう!)。でもSNS以外のネットワークもあるはずだ。既に動いている人もいるだろうけれども。それこそ「全員参加」。メディアを使う、卒業生の大物を使う。麒麟の明智光秀だって卒業生だ。できることを遮二無二やって欲しい。


逆境を乗り越えたときに組織も人も強くなる。今回の目標額は10百万円としているが、数倍の達成率となるように努力して欲しいし、超過達成額を原資として是非新たな取り組みに投資して欲しい。「一過性のものではなく、支援くださった方々と今後も繋がっていくためのきっかけ」と言うのであれば、「きっかけ」の次を見せて欲しい。それは、従前の「劇場で非日常を楽しむ」ということだけではないはずだ。広がったネットワークはもはや「観客」ではなく「サポーター」であり、それは一方的にサポートを得る相手方ではなく、何等かの対価を与えるべき「顧客」という位置づけになっていく。そうでないと一過性となり、継続性が担保できない。リターンの内容に、まだまだ工夫が欲しい。グッズやお礼ボイス、パンフ掲載だけではまだまだ魅力が足りない。顧客がおそらく求めるのは「特別扱い」だ。その点のアイディアはあるが、ここでは敢えて書かない。


今回の苦境を奇禍として、配信の活用に積極的に踏み切るのも必須だと思う。公演期間中の有料配信はデフォルトになっていくだろう。では無料配信をどう位置付けるか。広告宣伝と割り切るのであればその費用対効果の分析がなくてはならない。地方在住者にとってみれば交通費をかけて大都市圏に移動する分のコストを考えると有料配信であっても観劇を楽しむ選択肢が増える。それは地方の演劇鑑賞会との食い合いにはならず、むしろウィンウィンの関係にもなりうる。ナマで観てみたいという新たな層の開拓になるからだ。だからこそ配信技術への設備投資にクラファンの資金を充てて欲しいと思う。


今回、目標額に届かないとなると万事休す。むしろ20百万、いやもっと何倍もの達成率を目指してもらいたい。そのためには大口出資者に依存するのではなく、参加者数も重要な達成目標だ。これまで余り文学座いや演劇に縁のなかった層が興味を持ち、少額でもいいので参加する向きが相当数を占めると、これはピンチが転じてチャンスになる。


現在の支持会やパートナーズ倶楽部の延長で今回のクラファンをとらえると失敗する。将来の会員の予備軍を増やすという観点で、「一過性にしない」努力と工夫に期待したい。

そういった自助の方向性が確認できたら、追加支援を検討したいと思う。

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