ポスターから見えた日本のステレオ社会

 先日、久しぶりに駅前の家電量販店へ足を運んだ。そこは酒類も数多く取り揃えてあるから、日本酒が飲みたくなったときに手軽に買えると思い、これまでにも何度か訪れている。

 お会計のためレジで並んで待っていたときのことである。ふとあるポスターが目に入ってきた。そこに書かれてあった文言が気になりしばらく考え込んでしまった。

 「コロナに負けるな」「コロナに打ち勝て」

 どこかで聞いたことのあるような言葉である。給付金を各自治体ごとに遅滞なく配ることもできない。おまけに役に立ちそうもない布マスクにすらも不良品が散見される始末。一連のコロナ対応を担っている今の日本の稀代の悪大将が記者会見で言っていた文言とそれほど変わらない文言だ。

 そもそも「コロナに負けるな」「コロナに打ち勝て」とは一体どういう意味なのだろう。コロナ禍の店先に飾られた半ば勇ましく映る一連の標語を眺めていて思った。日本社会に深く根付いてしまっている陳腐な精神主義は、今でもなおしつこいくらいに健在なんだな、と。

 感染症と人類は、古来、お互いに共存しあってきたはずだ。それによって新たなる文明や生活様式が開かれていったのは、もはや自明のことである。にもかかわらず、現代にいたっても根拠のない精神論がはびこる。つくづく歪んでいるおかしな社会に身を置いているんだなと、そう思ってならない。構造的な問題に目を向けず、一介の精神論を拠り所とするのは、もういい加減やめたほうがいいだろう。今こそステレオなものの見方を改めるべき時だ。

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