村上春樹の短編「バースデイ・ガール」に隠された秘密。

村上春樹さんの短編小説、「バースデイ・ガール」。そこに隠された秘密を探っていきたいと思います。※ネタバレを多分に含んだ内容です。

この小説の主人公は、イタリアンレストランでアルバイトをする女の子。二十歳の誕生日に、お店のオーナーである不思議な老人から願い事を叶えてあげる、と言われます。


| 隠された数字 604・1117

小説中では明らかにされていない彼女の願いごとは何なのか?物語の中に仕込まれた数字をヒントに読み解いていきたいと思います。鍵は、オーナーの部屋番号と、女の子の誕生日。

オーナーの部屋は、レストランの建物の6階604号室。そして彼女の誕生日は11月17日。この604と1117という数字に隠された秘密を読み解いていきます。

まず、604から0を抜いて64とします。そして64を昭和64年と捉えます。昭和64年は、1989年の1月1日から1月7日からまでの7日間です。これを整理すると、以下のようになります。

604(号室)→昭和64年
11月17日→1月1日〜1月7日

つまり、この小説には昭和という時代の終わりが埋め込まれていることになります。そして昭和の終わりとは、平成の誕生です。


|老人は誰なのか

ここで不思議な老人の描写をみてみます。

~やせた小柄な老人が姿を見せた。身長は彼女より十センチは低いだろう。ダークスーツを着てネクタイを締めている。白いシャツに枯れ葉のような色合いのネクタイだ。すべては清潔でしわひとつなく、白髪はきれいになでつけられ、これからどこかの夜会に出かけようとしているところみたいに見えた。(308p)

どこか高貴な雰囲気を持った人物であることが描写されています。この人物、誰かを彷彿させませんか?


平成の天皇陛下、現在の上皇陛下を彷彿させるといったら無理があるでしょうか?

ちょっと飛躍が過ぎる?無理があるのでは?そう思いますよね。ところが、老人と上皇陛下には、外見的特徴に加えて、もう一つ共通点があるのです。それは、好きな料理。

オーナーが食べるのは常にチキンだった。~(中略)~チキンであること、それが料理人に求められていることのすべてなのだった。(305p)

このようにオーナー=老人は、チキン料理にこだわりをもつ人物として描写されています。そして実は、上皇陛下もチキン料理がお気に入りであったようなのです。

天皇陛下が好んで食べる「チキン弁当」を食べてみた


外見描写の(若干の)類似と好みの料理だけで、604号室の不思議な老人=上皇陛下とするのは確かに乱暴かもしれません。ですが、そのように仮定したうえで、彼女の願い事を推測してみたいと思います。


|彼女の願いごと


上皇陛下に、昭和の時代の終わり(604 11 17)を踏まえて願うこと。
それは、

「(平成という)新しい時代が、戦争もなく平和な時代となること」

となるのではないでしょうか?

これは、「君のような年頃の女の子にしては、一風変わった願いのように思える」願いごとですし、「時間のかかる願いごと」で、またそれが叶ったかどうかは「イエスであり、ノオ」といえます。


あくまで数字を元にした読み解きですが、平成の時代も終わって令和の時代が始まった今、そのように平和を願う物語として読んでみてもよいのではないでしょうか?


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