ネコ思う、故にキャット在り

※FGOタマモキャットSS、人理修復後のカルデア、サマーレースでの一幕


「むー」
目を覚まして隣を見てみると、もうマスターはいなかった。寝坊した気分になる。
「生き急ぎすぎると英雄になるぞ、ご主人」
ここ数日、マスターは毎日のように特異点へ赴いては、マシュや他のサーヴァントたちを連れてレースの運営に奔走している様子。日課の昼寝の時間も早々に切り上げて居なくなってしまう。
勿論、このタマモキャットもレース会場の出店を担当、連日野生の料理スキルを遺憾なく発揮していたのだが……
「あついー……それいらない……」
「その鍋から立ち上る湯気、蒸気機関を彷彿とさせるものである。……しかし遠慮したい」
と、今日のメニューはレース参加者からもことごとく敬遠され、挙げ句の果てにどこからか湧いて出た赤い弓兵に
「なぜこの暑い中おでんなんだ、君は……カルデアに持ち帰って、冷房の効いた部屋でマスターと食べるといい。後は私が引き受けよう」
と半ば追い払われるように帰ってきた始末。
そして一仕事終えてマイルームに戻ってきたマスターが、鍋の中の熱々のおでんを見た時に、一瞬見せた怯えるような顔。マスターにまで難色を示されたのは想定外だった。その後は美味しく食べてくれたとはいえ、正直落ち込む。
「夏におでんはおかしいと思うか?ベッドの下の姫君よ」
「いえ、去年も皆さんで頂きましたよ?おでん。喜んで食べてくださいました」
ベッドの下からぬるりと顔が現れる。清姫だ。
「……ウム、ご主人に関してはなんとなく合点がいった気がする」
「?」
清姫は再びベッドの下に潜り込んだ。
「しかし祭りの出店とは……うごごごご」
一昨日のラーメンや昨日のカレー、あれらがアリならおでんもアリと思ったのが軽率だったか。祭りのお約束の何と掴み難いことか。
タマモキャットはベッド横のテーブルに畳んで置かれたネコ柄のエプロンを見る。思えばここしばらく、マスターと一緒に戦いに赴いていないような気がする。


始まりの記憶。炎上する都市。盾にしがみつくようにして恐怖に身体を震わせていた、デミ・サーヴァントの少女。マスターを守ることで精一杯で、防戦一方になっていた彼女と、勝手がわからず戸惑っていたマスター。タマモキャットはその二人の元に召喚された。
「では暴れるのはアタシに任せよ、ご主人!我こそは野生のキツネ・タマモキャット、クラスはバーサーカーゆえな!ただし暴れすぎていたら止めてほしい!」
自慢の腕力と肉球が群がるエネミーを吹き飛ばす様を、あの二人は驚嘆して見ていた。
それから冒険の日々は始まった。数々の特異点を渡り歩いた。山を越え海を渡り、キャット以上に得体の知れない存在とも戦った。行く先々で食糧を現地調達し、キャットが美味しく調理した。
マシュが守り、キャットが暴れる。それがマスターの、最初からずっと変わらない戦闘スタイルだった。
そして、人理存続をかけた最後の戦い。過酷な戦いを潜り抜け、傷だらけのマスターに迫る最期の王。キャットはマスターを庇うように立った。今この時こそ、と。
「アタシの命に代えても守るぞ、マスター」
だがマスターはキャットに並び立ち、目の前の王を正面から見据えた。そして言った。
「キャット、いつも通りでいこう……暴れてくれ」
キャットは従った。激戦の末、キャットの怪力荒ぶる獣の手が王を打ち据え、ついにその王は終わった。
乱れた毛並みのキャット、そして戦いの中でボロボロになったエプロンを見て、マスターは何かを決意したようだった。

人理は修復された。間も無くキャットに、ゴールデンネコ缶7個と新しいエプロン、そして大量のニンジンがプレゼントされた。
「Good(キャッツ)!これでまたご主人のご飯が作れるナ!心なしか料理の腕もアップ!したような気もする。つまり、ネコ思う、故にキャットあり……ご飯とは何なのか……まあこの話は後でゆっくりするとしよう!今日のオヤツはキャロットケーキなどいかが?」
ネコ柄のエプロンを纏い、くるりと一回転。視界には嬉しそうに微笑むマスターとマシュの顔が……ぼやけて……


「キャット、……キャット!」
「はっ!」
キャットはベッドの上で飛び起きた。いつのまにか二度寝していたようだ。ベッドの傍には見慣れたマスター。
「ハローどうしたご主人。オヤツの時間にはまだ早いか?とネコの体内時計が告げているぞ」
「そろそろレースも終盤だから、キャットと見たいな、って思って。……それと、ちょっと次のクエストが難しそうなんだ。キャットの力を借りたい」
キャットは寝ぼけ眼を擦り、一度伸びをすると覚醒、ベッドから回転ジャンプで跳び下り着地、テーブルの上のネコエプロンを掴み素早く装備する。
「よかろう、ネコの手を借りたいと言うならこのタマモキャット、寝起きといえど何時何処ででも何度でも、酒池肉林でグッモーニンしてみせよう!」
「うん、頼りにしてる。終わったら一緒に出店でオヤツ食べよう」
マスターとともにマイルームを出る。
「ところでご主人、厄介な相手とは何者だ?」
「よくわからないけど、水着のサーヴァントたちが集まって何かやってるみたいだ」
「なんと!ということはオリジナルの水着バージョンもいることは必定、よし!では水着を引き裂いて血祭りに上げるとしよう。酒池肉林もサマーバージョンでお届けだワン!」
「あー……お手柔らかにね……」
「そこのところは自信がない!ということで、ご主人。いつも通り、やりすぎになったら止めてほしい!」


ネコ思う。戦いの日々を経て、幾多の苦難と離別の果てに手に入れた一時の平穏。駆け抜けた軌跡が失われないならば、積み重ねた絆もまた消えることはない。ならば今はこの平穏の味を覚えておこう。

「金を稼ぐ者と家を守る者、夫と妻の関係なのだな」

でもタマの休日は家族旅行なども頼むぞ、ご主人!キャットも寂しいからな!


【おしまい】

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