仮面ライダー剣:伊坂/ピーコックアンデッドの話

この記事には、仮面ライダー剣に関する重大なネタバレが含まれています。本編視聴後にお読みください。


はじめに

仮面ライダー剣。封印から解き放たれた不死の生命体・アンデッドを再び封印するために命をかけて戦う戦士・仮面ライダーたちの物語。序盤こそ急展開や登場人物たちの不和、陰鬱な展開の連続などで評価も芳しくなかったが、中盤から終盤にかけての物語の盛り上がりや魅力的に描かれる登場人物たち、そしてあの最終回と、一度見れば絶対に忘れられない、非常に印象的な作品となった。

さて、今回私が話題にしたいのは、その『剣』序盤最大の敵にして最初に登場した上級アンデッド伊坂ピーコックアンデッド)についてだ。ライダーたちを巻き込んで自らの野望『究極のライダーシステムの完成』を実現させようとしていた伊坂。彼の封印後から物語は大きく動き始める。いわば物語の転換点を担った中ボス的役割である。

だが、彼は中ボスというそれだけで片付けられるアンデッドではない。物語が進むにつれ明らかになってゆくアンデッドの、そしてバトルファイトの真実。これを踏まえると、伊坂の序盤の敵らしからぬ先見性と恐ろしさが浮き彫りになってくる。


何故、伊坂はライダーを作ったか

伊坂がライダーシステムを作ろうとした目的は単純だ。ほぼ全てのアンデッドに共通する理由、『バトルファイトの勝者となる』ため。
伊坂は人間を洗脳して操ることができる。ライダーを自らの手駒として使えば、バトルファイトを有利に進められる……だが、それだけではない。

終盤で明かされたバトルファイトの真実
『不正な手段で開始されたこのバトルファイトにおいて、アンデッドを封印できるのはライダージョーカー、そして統制者に認められた人造アンデッド・ケルベロスのみ』。
つまりこれは、ジョーカーとケルベロス以外のアンデッドには基本、勝利の手段が存在しないということだ。
ギラファアンデッドこと金居はこのことにいち早く気付き、天王路の開発していたケルベロスの完成を待ち続けた。そして完成したそれを奪うことで封印の力を獲得。最後のアンデッド・ジョーカーを封印し、自身がバトルファイトの勝者になる作戦を立てていた。
金居のこの行動から、恐らくバトルファイトの勝利条件に『誰が・何の力で封印したか』は関係なく、ただ『アンデッドがこの世に一体だけ存在する』ことだけで勝利判定がなされるのだと思われる。

では伊坂は。伊坂は下級アンデッドを従えていたことから、少なくともこの偽りのバトルファイトにおいてアンデッドと交戦したことがあるのは間違いない。そのとき、自身でアンデッドを封印できないことを知ったのではないだろうか。

そこから考えられる伊坂の行動はこうだ。
バトルファイトの異常に気づいた伊坂は、アンデッドを封印している謎の存在『仮面ライダー』の噂を知る。そして、ライダーシステムが人類基盤史研究所/BOARDで作られたものだということ、そしてライダーシステムとは人間をカテゴリーエースアンデッドと融合させるシステムだということに辿り着く。

ライダーシステム開発のための下準備を終えた伊坂は行動を開始する。

まずライダーシステムの開発者である烏丸を手中に収めようとした伊坂は、洗脳した人間の部隊を組織し、彼らに烏丸の拉致を命じる。(1話のローカストアンデッドのBOARD襲撃も、伊坂の策略の一つだったのかもしれない。その場合、襲撃の混乱に乗じて烏丸の拉致を企てたが、橘が先に連れ出したため失敗に終わったことになる)
紆余曲折はあったが烏丸を捕らえることに成功した伊坂は、烏丸を洗脳しライダーシステムの開発に着手させる。

続いて伊坂は、未だ封印されていない唯一のカテゴリーエース・スパイダーアンデッドの封印に乗り出す。だがここで問題が生じる。この偽りのバトルファイトでは、伊坂自身ではスパイダーアンデッドを封印できない。そこで、伊坂は協力者、もとい手駒となるライダーを手に入れるべく、データの収集も兼ねて剣崎や橘、そして始との接触を繰り返すことになる。

そして伊坂の手駒として選ばれたのが、恐怖心から戦えず弱っていただった。取引じみた形で橘にシュルトケスナー藻による治療を施し、カテゴリーエースの封印に向かわせる。一方、自分はカテゴリーエースの適合者探しを並行して行い、スパイダーアンデッドの蜘蛛の子が着いた人間を、しもべのアンデッドを使って誘拐していった。

橘によってスパイダーアンデッドは封印され、カードは伊坂の手中に収まる。ライダーシステムも完成し、適合者候補も集まった。すべてが伊坂の思惑通りに進んでいた……はずだった。


ここで、何故既存のライダーを使わず、新たなライダーを開発したのか?という疑問が浮かぶ。

まず、BOARD製のライダーシステムには欠陥があった。使用者の恐怖心によってカテゴリーエースとの融合係数が著しくダウン、戦闘すらままならなくなる。序盤の橘が散々苦しめられた症状だ。そして虎太郎の言う通り、「恐怖心のない人間はいない」。
シュルトケスナー藻の溶液を用いて恐怖心を消し去る手段はあるが、効力は一時的かつ、溶液を長期にわたって使い続ければ変身者が死に至るというデメリットがある。頼り切ることはできない。

続いて、『カリス』。伊坂は始のことを終始カリスと呼んでいたが、始の正体を看破していたにせよ誤認していたにせよ、この選択肢は論外だ。
上級アンデッドが別の上級アンデッドを操っていた例はないため、恐らく洗脳が不可能。手駒としては扱えない。ジョーカーだと知っていたなら尚更だ。ジョーカーを手駒にした場合、首尾よく事が運んだとしても最後に残るアンデッドはジョーカーと自分。伊坂は封印能力を持たないため、ジョーカーを封印できず詰みだ。

故に、伊坂はデメリットの無い究極の、新たなライダーシステム・レンゲルを作る必要があった。実際、ハイスペックな身体能力に加えて、レンゲルには変身者の闘争心を高める機能が搭載されており、恐怖心による融合乖離を抑制している。


伊坂の誤算

こうして望み通りの最強のライダーを作り出した伊坂だったが、ここにきて彼の計画に狂いが生じ始める。

原因の一つは、スパイダーアンデッドが完全に封印されてはいなかった事。スパイダーアンデッドは封印されてなお烏丸たちに働きかけ、レンゲルに『自身の邪悪な意思を変身者に注入する機能』を搭載させた。これは後の睦月で分かるように、変身者の自我を完全に乗っ取るほどの力。こうなれば伊坂の洗脳も意味をなさないだろう。スパイダーアンデッドもまた、バトルファイト勝利のためにライダーを求めたアンデッドだったということだ。
一度目の睦月が変身に適合しなかったのも、恐らくスパイダーアンデッドの策略だろう。あのとき既にスパイダーアンデッドは睦月に目をつけていたのだから、変身できるポテンシャルは既にあったと思われる。

そしてもう一つが最大の誤算、小夜子を殺めた事で橘朔也を完全に覚醒させてしまった事だ。
恐怖心を克服した橘は圧倒的な力を発揮し、伊坂を完封するまでに強さが全開した。生まれ変わるほど強くなったギャレンのバーニングディバイドによって、伊坂は敗北。ここまでの全ての策謀を打ち砕かれ、戸惑いのうちに封印された。


IFの話

もし、伊坂が倒されず、目論見通り事が運んでいたならどうなっていただろうか。

まず、不要となったライダーの処分が行われた筈だ。そうなると、天王路がライダーに求めた役割である『ケルベロス完成までの時間稼ぎ』が果たされなくなる。全てのスートのカードが集約されたレンゲルは恐るべき速度でアンデッドを封印していくだろう。最後には潜伏していた金居や海外にいた嶋との戦いになるはずだ。

伊坂は序盤の敵であるにもかかわらず、バトルファイトに勝ち残るポテンシャルを充分に持つ強者だったということだ。


やっぱり橘さんは一流だよな

ところで。ここまでの一連の話で、バトルファイトに勝ち残る可能性のあるアンデッドが主に3体挙がった。伊坂金居スパイダーアンデッドだ。この3体の共通点を考えてみてほしい。

……全部橘さんが関わってるよね?

伊坂と金居は直接橘が封印、スパイダーアンデッドについては封印が不完全だったとはいえ、邪悪な意思に取り憑かれた睦月をフォローし、完全封印のためにアブゾーバーを光に貸し与えたのは橘だ。

つまり、橘さんがいなければ、今ごろ地球はクジャクやクワガタやクモの惑星になっていたかもしれない。

このバトルファイトにおける最大のイレギュラーは、勝ち目のあるアンデッドを次々と倒していく橘さんであることは間違いない。

確変なんてチャチなもんじゃない、多分この人はヒトの運命とかそういうものに愛されてる。

世界を救ったのが剣崎なら、人類を守ったのは橘さん……そう言っても差し支えないだろう。どこまで伝説を作るんだ、橘さん……。


おしまい!

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