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『黄金のパートナー』に関する個人的な話

 数々のトラベルミステリーを発表し、テレビドラマなどの映像化も多かった作家・西村京太郎。そんな中でも筆者が個人的に大好きな1本が、彼の『発信人は死者』を映画化した西村潔監督、三浦友和&藤竜也、紺野美沙子共演の『黄金のパートナー』だ。劇場公開時、秋田県秋田市にあった今はなき秋田東宝スカラ座で、泡坂妻夫の原作を児玉進監督、松田優作主演で映画化した『乱れからくり』と2本立てで、確か2日目あたりに観た記憶がある。だが、観客の不入りで早々に打ち切られ、フジテレビの深夜にこっそり放送された(記憶が曖昧だが、そうだったと思う)ときにビデオテープに録画し、何度も観返していた。関東ではそれ以降、ほとんど放送されず、DVDがようやく発売されときには本当に嬉しくて、早速購入した。そして、2011年3月11日、今はなき銀座シネパトスで西村潔監督の特集上映がされていて、『黄金のパートナー』と『白昼の襲撃』の2本立てを観ていた。『黄金の~』の上映後、『白昼~』を観ていたとき、あの大地震が起こり、上映が一旦中断し、外に出て、何事が起こったんだと思って、ガラケーのテレビでニュースを観ていたら、どの局も地震のニュースが流れていた。その後、上映が再開され、とりあえず最後までは観たものの、電車は止まり、東銀座から東府中まで、歩いて帰るしか手はなく、午後3時30分ぐらいに出発し、大手町→神保町→市ヶ谷→四谷→新宿まで来て、たくさんの人に交じって甲州街道を歩き、自宅に到着したのが夜9時30分ぐらいで、約6時間かけて必死に歩いた。もうくたくただったが、冷静になって部屋の中を整理し、明け方までかかってようやく落ち着いて寝たというのは今でも忘れられない。好きな映画であることにプラスし、そんな出来事を体験した上でも、生涯忘れられない1本になっているのは間違いない。
 劇場公開時に打ち切られたからといって、つまらない映画なのかというとそんなことはない。三浦演じるカメラマンの野口と藤演じる警官の江上が、SOSの信号を受け取ったことをきっかけに知り合った紺野演じる女子大生・由紀子の父親を捜すことになり、第二次世界大戦時にあったある事件の真相に迫っていくという冒険ミステリーアクションだ。西村監督の軽快な演出、三浦と藤の絶妙な掛け合い、紺野の初々しい姿、グアムの美しい風景を舞台にしたライト感覚の作風で、おそらくそれまでの日本映画にはなかった種類の作品だったことから、時代が少し早すぎたのかなぁ、と、思ったりもした。この映画をきっかけに来生たかおの存在を知り、主題歌の「そして、昼下り」(シングルのみの発売で、アルバムには収録されていないのがもったいない)、劇中では「夢のトライアル」、「ゆるやかに愛が」、「潮風のソネット」が使われ、これら3曲が入ったアルバム『Natural Menu』は個人的には名盤だと思っている。
 ま、ロベール・アンリコ監督、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス共演の『冒険者たち』(これも大好きな1本)の日本版とか言われることもあるが、それでもいいじゃない。ノリのいい音楽とノリのいい展開、観ていて楽しくて、爽快な気分になれるこの映画、今だからこそ観てほしい1本だ。

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