『ア・フュー・グッドメン』に関する個人的な話
2022年5月にようやく公開された『トップガン マーヴェリック』の大ヒットで、映画館の大きなスクリーンで映画を観ることの楽しさを再認識させ、現在もハリウッドのトップを走るトム・クルーズ。彼が1992年に主演し、『ゴースト ニューヨークの幻』でふたたび人気に火が付いたデミ・ムーア、名優ジャック・ニコルソンと共演したのがロブ・ライナー監督の『ア・フュー・グッドメン』だ。テレビシリーズ『ニュースルーム』や映画『ソーシャル・ネットワーク』など、数多くの作品の脚本を担当し、監督として『モリーズ・ゲーム』やNetflixの『シカゴ7裁判』を手がけた劇作家で脚本家アーロン・ソーキンが舞台用に書いた戯曲を自ら脚色した記念すべき映画脚本デビュー作。劇場公開時、有楽町マリオンにあった日劇プラザで観た後、レーザーディスクは持っていたが、ここしばらくはまったく観ていなかった。過日、テレビ東京の『午後のロードショー』で2時間枠だったがテレビ放送されたので録画して吹替版で久しぶりに観てみた。吹替キャストはクルーズ=鈴置洋孝、ムーア=高島雅羅、ニコルソン=小林清志、ケヴィン・ベーコン=大塚芳忠という顔ぶれ。正味97分ほどの放送で、裁判場面を活かすため、前半部分がカットされ、後半の某重要な部分は後の場面でセリフ処理されているのでカットされていた。とはいえ、クライマックスの裁判場面の約20分弱はCMを入れないという配慮がされ、上手く編集されていたと思う。ま、2時間枠に入れるためのカットは地上波洋画劇場の宿命なので、とりあえずカット編集版で観ておいて、後からノーカット版を観て、どこがカットされたのかを確かめるのも、映画の楽しみ方のひとつと言える。劇場公開後、リバイバル上映される機会もあまりないのはもったいない。
キューバにあるグァンタナモ米軍基地で、マイケル・デロレンツォ演じるサンティアゴ一等兵が殺される事件が起こる。被疑者となったのはウォルフガング・ボディソン演じるドーソン上等兵とジェームズ・マーシャル演じるダウニー一等兵。彼らの弁護人に命じられたクルーズ演じるキャフィ中尉は裁判を簡単に済まそうとするが、ムーア演じる特別弁護人ギャロウェイ少佐に叱咤され、ケヴィン・ポラック演じる相棒のワインバーグ中尉と共にふたりの弁護を引き受けることになる。だが、裁判はある証人が自殺するなど、弁護側に不利な展開をし、最後の手段としてキャフィ中尉たちはニコルソン演じるジェセップ大佐を証言台に立たせるというのが物語の流れだ。
映画前半は殺人事件の発生からキャフィ中尉の日常(野球好き)と、彼を取り巻く周りの人々との関係、裁判が始まるまでのプロセスが描かれ、後半は裁判がメインとなる。最大の見どころは裁判シーンで、クリストファーゲスト演じる軍医のストーン中佐、ノア・ワイリー演じるバーンズ伍長、キューバ・グッディングJr.演じるハマカー伍長、キーファー・サザーランド演じるケンドリック中尉の順で証言し、いよいよクライマックスでは“ラスボス”であるジェセップ大佐との対決になる。前半のグァンタナモ基地での食事シーンで見せたクルーズとニコルソンのやり取りがこのシーンへの伏線となり、あの決定的なセリフへとつながっていく。ソーキン脚本らしい膨大なセリフの応酬で特に裁判場面は手に汗握る展開となり、若きクルーズと出演シーンは極端に少ないが、貫禄たっぷりで憎々しいニコルソンとの演技対決は本当に見応えがある。大げさな演技と言われればそれまでだが、元々が舞台劇なのでそれもまたアリだと思う。ロブ・ライナー監督の演出も実に丹念で、見せ方も実に上手い。137分という長尺(エンドロールは約3分ほど)とはいえ、観る者を飽きさせない手腕は今観ても素晴らしい。ちなみに、脚本のアーロン・ソーキンがバーの客役で何気に出演していて、エンドロールを見るまでまったく気づかなかった。
日本では1993年の2月に公開され、製作からちょうど30年経過したこの先品。若きクルーズとムーア、どっしりと構えるニコルソンのほか、今では名優となったベーコン、キーファー・サザーランド、脇でピリリと光るケヴィン・ポラック、J・T・ウォルシュ、当時はまだ無名だったザンダー・バークレイ、後にクルーズと共演する『ザ・エージェント』でオスカー助演男優賞を獲得するグッディングJr.、テレビシリーズ『ER/緊急救命室』のカーター役でブレイクするワイリーなど、今観ると豪華なキャストが共演していることがわかり、よくこれだけのキャストが集まったものだと驚いてしまう。過去の映画を観ることは、現在は有名な俳優の無名時代や若き日の姿を観られることが楽しい。『ア・フュー・グッドメン』、久しぶりに大きなスクリーンで観てみたくなったなぁ。