見出し画像

『フィールド・オブ・ドリームス』に関する個人的な話

 数多ある映画の中で、何度観ても同じ場面で泣いてしまうという映画がある。その映画を観た全員が泣くかどうかはわからないが、筆者に関して言えば、フィル・アルデン・ロビンソン監督、ケヴィン・コスナー主演の『フィールド・オブ・ドリームス』がそれだ。最初に観たのは、1989年に行われた東京国際映画祭の特別招待作品として渋谷文化村にあるオーチャードホールで上映されたときで、いたく感動して家に帰った。ちなみにクロージング作品はピーター・ウィアー監督、ロビン・ウィリアムズ主演の『いまを生きる』だったと記憶している。そして、翌年の劇場公開時になき日比谷映画(だったと思う)で観て、レーザーディスク、DVDを購入した。テレビ初放送は1992年4月の日本テレビ『金曜ロードショー』で、コスナー=津嘉山正種、エイミー・マディガン=松金よね子、ギャビー・ホフマン=小島幸子、レイ・リオッタ=菅生隆之、ジェームズ・アール・ジョーンズ=小林修、バート・ランカスター=鈴木瑞穂という豪華な吹き替えキャスト陣だった。その後、2011年の“第二回午前十時の映画祭”で今はなき日比谷みゆき座(現在のTOHOシネマズ日比谷スクリーン13)で終日上映していたときに久々にスクリーンで観た。15時30分からの試写前だったが、やはり涙腺が崩壊しまくって、目を真っ赤にしながら松竹の試写室まで移動した。映画館の暗闇の大きなスクリーンで観ると、ついつい感情が入ってしまう。それが筆者の悪い癖なのだが……。
 W・P・キンセラの原作『シューレス・ジョー』を、『スニーカーズ』のロビンソン監督が脚色も兼ねて映画化。コスナー演じるレイがとうもろこし畑で作業をしていたとき、「それを作れば彼は来る」という不思議な声を聞き、とうもろこし畑を一部潰して野球場を作る。しばらくたって、その野球場にはリオッタ演じるシューレス・ジョーほか、かつての名選手たちが野球をしに集まってくるようになる。その後、レイは「苦痛を癒やせ」という声を聞き、ジョーンズ演じる作家マイケル・マンに会いに行く。そして、マンと野球を見ているとき、「やり遂げろ」という声を聞いたレイはかつて野球の夢を諦め、医者となっていたランカスター演じるグラハムに会いに行く、というのが物語の流れだ。最初はシューレス・ジョーや野球仲間、マン、そして、グラハムのために動いてたレイだが、それが実は彼にとって大事なことにつながっていく。その伏線はセリフの中に散りばめられているが、ここではあえてネタばれをしないでおきたい。その伏線が活かされるクライマックスシーンは、ジェームズ・ホーナーの美しく繊細な音楽が重なり、泣かずにはいられない感情を呼び起こす。そして、ラストシーンの美しさがさらなる余韻をもたらす。アメリカの国技である野球を題材にしながらも、描かれるのは家族の姿。ファンタジーでありながらもヒューマンドラマとして成立させたロビンソン監督の脚色力と演出力は素晴らしいものがある。
 この映画、最初は『とうもろこし畑のキャッチボール』という邦題になっていたが、結局は原題のままの『フィールド~』に収まった。もし、この邦題がそのまま使われていたらどうなっていただろうか。そして、改めてこの映画を観直して、趣は違うが、大林宣彦監督の『異人たちとの夏』と似たようなところがあるように思えた。すでに亡くなった人々と主人公が出会うこと、その当時にタイムスリップするなど、多々共通する部分があるように感じた。観た当時はあまり意識したことはなかったが……。偶然なのだとは思うが、もし機会があったら、『異人たち~』も観てみてはいかがだろうか。実は『異人たち~』も何度観ても同じ場面で泣いてしまうという、筆者にとっての共通点がある作品なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?