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タワマンはいかにして人間の内面に影響を及ぼすか(半世紀前のSFの作家より)

J•G•バラード『ハイ・ライズ』を読んだ。

地球の外部や人類の進化を志向した60年代までのSFと異なり、テクノロジーやインフラの変化が人間の内面にどのような影響を与えるのかというかなり内向きなテーマを設定したバラードの70年代三部作のひとつ(その点で都市論・郊外論と関連があると言える)。

『クラッシュ』:自動車(モータリゼーション)、
『コンクリートの島』:高速道路、
『ハイ・ライズ』:高層マンション(=タワマン)、という半世紀経った現在ではとっくに普及したものがテーマのため今から見るとかなりトンデモ小説とも受け取れる。

内容は高層マンションを舞台にした

『蝿の王』(または『ミスト』):閉鎖空間における極限状況の小集団同士のむしり合い +
『闇の奥』(=『アギーレ 神の怒り』または『地獄の黙示録』):文明という「光」から単線的に遠ざかることによる脱文明化 +
垂直版『スノーピアサー』:構造物内の単線的格差構造

といったものだった。

現在のタワマンの住環境が住人に与える影響とは明らかに異なるため、作中の凄惨で血みどろのストーリーが逆に素朴さを感じさせもした。

その一方で高層マンション内が徐々に脱文明化していくにもかかわらず内部の惨状を頑なに外部から隠そうとする奇妙な住人間の共同体意識や、
モールや学校や生活インフラや娯楽施設も完備したシステムはその内側の人間になんらかの退化を促す、
という現在でもあてはまりそうな教訓を読み取ることができた。

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