おおすみ正秋の仕事場
西尾哲夫訳「千一夜物語」第5巻が出版されました。パラパラとめくりながら、舞台「シンドバットの不思議な冒険」を作った当時のことを思い出しました。
私は「TVアニメ・ルパン三世」から離れたあと、世界7か国で上演するための舞台を手がけました。スクリーンと舞台を俳優が行き来するマジカルスペースという特殊な舞台仕掛けを使い「シンドバットの不思議な冒険」を製作演出し、1年の半分以上を海外で過ごしていました。 (注1)
たまたま日本での公演を観に、モンキーさんが手塚治虫先生と一緒に劇場に来てくれました。
(注2)
この時、モンキーさんは、劇中のジン(魔人)が自分のイメージしていたものと同じだと驚いていたのをよく覚えています。アレクサンダー・コルダが「風と共に去りぬ」の後に作った「バクダットの盗賊」のジンを観たとき同じように、私はイメージの共振を覚え、今回の舞台のジンもその影響を受けていると話しました。その時モンキーさんがアラビアンナイトに強い関心があることを知りました。
手塚先生も映画「バクダットの盗賊」を高く評価していて、イメージの共有ということについて3人は大いに盛り上がったのです。
しかし、最近のハリウッド版「アラジンと魔法のランプ」アニメ版と実写版の二つのジンの扱いを観て、そこまでやるか!と多少辟易しました。商業映画として、今人気の俳優で勝負したいのは解るけれどモンキーさんがこれらの作品を観たらなんと言うだろう? 彼も私もハリウッド映画が好きなんですがね。
モンキーさんがアラビアンナイトの漫画化を手がけたとき、出版社から「モンキー・パンチらしい飛躍した内容を」と期待されたそうです。しかし「アラビアンナイトはこれで良い」と答えたと本人から聞きました。その話を聞いて、私は彼のアラビアンナイトへ取り組む姿勢に嘘はないと確信したのです。自らの作品を古典に同化させるため安易にコミック調に崩さないことを自分に課していたモンキー・パンチ。
西尾哲夫の「千一夜物語」(ガラン出版版)は平易な言葉で翻訳され読み易いが、言葉や文字のみで伝えられたものが、私たちの中でビジュアル化されたとき、それがすでに共通感覚となっていることに改めて驚きます。それが真の古典ということなのでしょうか。
ガラン版の完訳を待たず他界した亡き友人、加藤一彦=モンキー・パンチ。一周忌を迎えます。冥福を祈ります。
モンキーさんと私が、西尾先生の監修で「ヤング・シェヘラザード・魔界から来た炎の馬」を製作し国立民俗博物館で上映することになった経緯はいずれまた・・。
注1: 大平和登「ブロードウェイ(力作人と超人ほか)」作品社・の文中にリアルタイムのNY公演レポ。
注2: その時のレポは小野耕世の「シネランドへおいでよ(マジカルスペースはファンタスティックな魔法の冒険)」講談社・に詳しい。
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