「共有してくれる人」には仕事が任せられる

「自分の頭で考え、自分で行動できる人」とは何か、DeNA小林篤氏の講演後の質疑応答の中で深掘りしていく。

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好きなことで自分を磨き、発信する

学生:  競争社会と言われていますが、小林さんはDeNAでどう競争を勝ち抜いてきたのですか。

小林:  競争は必要ありません。僕は会社にとって必要なことを全力でやっているだけです。誰かを追い抜こうとか、超えていこうというのではなく、その会社で自分がどれだけ価値を出せるのかを考えています。

競争社会と言われていますが、自分を磨くこと、普段から情報を仕入れ学ぶ姿勢を持ち、自分の価値を高めることが大切です。

関戸:  こういう話を聞いたときに「自分を磨いても仕方がないのではないか」と考えてしまう自己肯定感の低い学生が多くいます。

小林:  自分を磨こうとして何かをする必要はありません。「これをやったら面白いな」と自分が興味を持てることに積極的に取り組めば、自分に価値が生まれます。

僕の場合だとエンジニアとしてプログラムしながら、自分が楽に開発するためにライブラリー(プログラムをまとめたもの)を自作しました。折角作ったのでGitHubのようなコード共有サービスで公開したところ、他のユーザーがフィードッバックをくれ改善につながりました。その結果が今の仕事につながっています。

自分から発信していくと本当に面白いのですが、日本人は自分から発信することに心理的ハードルがあります。そこをどう乗り越えるかが重要で、一緒に働いている若い人たちには「どんどん外に自分が作ったものを出していこう」と後押ししています。

関戸:  小林さんは、発信の心理的ハードルが低いタイプですか。

小林:  苦手です。僕は内にこもるタイプだったので、学生時代は時間があれば本ばかり読んでいました。

関戸:  何がきっかけで変わったのですか。

小林:  就職して普通にコツコツ働いているときに、本を読んで「自分と同じ年代でもっと活躍している人がいるな」と気づきました。「自分は本当にこのままで良いのかな」と疑問を持ったけれど、人間、そんなに簡単に行動は変わりません。

そこで、派手に何かをやるのではなく「自分がやれることを積み上げていこう」と、コツコツとソフトウェアの公開を始めました。コツコツやり始めたらそれを見てくれる人がいて、その人たちとコミュニケーションを取り始める。徐々に階段を昇っていく感じでしたが、自分で行動を起こすのが苦手なタイプでした。

関戸:  行動を起こして目立つのが苦手な学生は多いです。

小林:  苦手なことをやるのはしんどいと思うので、自分が好きなこと、面白いと思ったことをきっかけに発信してみてください。そこからみなさんの価値が生まれます。

「共有してくれる人」には仕事が任せられる

学生:  DeNAの記事を読んでいて新卒の社員にプロジェクトを任せているのに驚きました。プロジェクトを任せられる人ってどんな人ですか。

小林:  回答が2つあります。

1つ目は、DeNAは「若い人にどんどん打席に立ってもらう」会社です。経験のない新人だからこそやってみないとわからないことが多い。「打席に立たせずにとりあえず見ておけ」ではなく、「打席に立ってバットを振ってみよう」という文化がDeNAにはあります。

2つ目の「任せやすい人はどんな人か」に答えると「自分のやっていることをオープンに共有してくれる人」です。

「2週間後に結果教えてね」とプロジェクトを任せたときに、2週間後に「これできませんでした」と言われるのが一番嫌なパターンです。

2~3日やってみて難しいと分かったら「これ難しいかもしれません」と共有してくれる人だと、やり方を変える、リソースを増やすなどのフォローができます。こういう人にはプロジェクトを任せやすいです。

理不尽から「逃げる」のは社会人のスキル

学生:  小林さんの長所を教えてください

小林:  僕の長所はフットワーク軽くなんでもやることかな。今日も仙台までフットワーク軽く来てみなさんの前で話をしています。色々なところに行き、誰かと話し、何かを始めるフットワークの軽さが長所です。

関戸:  自分の長所を言語化しておくことは、社会人になったときに自分の心が折れない軸になりますか。

小林:  社会に出て心が折れるような理不尽に晒されたときは、逃げる。その場にいる必要はありません。自分が壊れてしまうくらいなら、そんなところで責任感を持って無理をする必要はありません。「逃げる」もある意味、社会人のスキルなのかもしれません。

関戸:  日本の学校教育では「逃げずにがんばりなさい」と言いがちです。

小林:  本当に自分がやるべきことを逃げろという話ではありませんが、世の中理不尽なことが多いので、そこからは逃げた方が良いです。

関戸:「逃げる」という言葉に抵抗のある人は「受け流す」と言い換えても良いかもしれません。

小林:「逃げる」はネガティブな感じになるので、「戦略的撤退」とか。逃げずに戦ってやられるくらいなら戦略的に撤退してください。

インターネットテクノロジーは自分で学ぶ

関戸:  話は変わりますが、小林さんは就職する際にどういう基準で会社を選んだのですか。

小林:  法学部からエンジニアを志した理由はお金です。当時、インターネット産業とソフトウェア開発産業が伸びている中で食いっぱぐれない、言い方を換えると、絶対仕事がある分野で就職しようと思いました。

就職活動をしたときに見ていたのは年収です。高いところから受けました。もともと法律を勉強していたので、ソフトウェアの開発会社の情報がありませんでした。参考になるのは給料と勤務地だけでした。

関戸:「食いっぱぐれない」と小林さんが言っているエンジニアはITエンジニアです。この学校の学生は、機械、電気、材料、建築を学んでいます。学生たちは将来、職を失う可能性はありますか。

小林: どんな分野の人であってもインターネットテクノロジーを勉強した方が良い。講演で第3次産業革命の話をしたとおりインターネットが産業をつないでいくので、インターネットテクノロジーをおさえておかないとしんどくなります。

インターネットテクノロジーを理解してソフトウェアを作れる。そして、ハードウェアまで理解している人は少ないので、みなさんがそこを勉強すると差別化要因になり人材価値が増します。

関戸: インターネットテクノロジーを学生が学ぼうとしたら何から始めたら良いでしょうか。

小林: 世の中には情報が溢れてます。何かを調べ学ぼうとするなら情報はすぐ手に入ります。誰かから教えてもらうのはきっかけでしかありません。どこに情報源があるかを教えてもらい、後は自分で学ぶことが重要です。

就職してから始めるのは遅い

関戸: もし学生たちがインターネットテクノロジーを独学しDeNAに入りたいと希望した場合、高専生を採用していますか。

小林: 高専生は貴重です。DeNAから見ると高専生のみなさんは光って見えます。なぜかというと、高専生は「自分の頭で考えて、手を動かしてものを作る」教育を受けているからです。

DeNAは高専生を多く採用しています。IT産業から見たときにみなさんは金の卵だと思ってください。

関戸:  高専生の初任給は大学生に比べてどうですか。

小林:  高専生も大学生も大学院生も一緒です。初任給は500万円からで、その人の能力で変わります。僕が最終面接をして給料を決めますが、今年度は600万円出した学生もいます。AIを扱えるエンジニアはもっと高いです。

DeNAでは経験者のみを採用しています。以前は未経験でもポテンシャルがあれば、採用後に育成していました。今は、もしインターネットのサービスを作りたいなら、PCやスマホで調べて行動すれば誰でも作れる時代です。就職してから始めますという人は要りません。就職してから始めるなら、今やってください。

興味を持ってやる人には無限に可能性が広がっているので、どんどん挑戦してください。

みなさんの時代に日本からGAFAが生まれる

小林:  日本の教育を変えたい。これが今の僕のテーマです。僕がBIT VALLEYというイベント(渋谷で開催されたテクノロジーカンファレンス)をやろうと思ったきっかけは、日本のインターネットサービスを創る若手に気づきを得て欲しいからです。

グローバルに見たときにはGAFA、強いインターネットサービスを持っている企業がありますが、日本では生まれにくい状況です。僕らの時代には生まれない。けれど、みなさんの時代に生まれる可能性はあります。

みなさんの時代にGAFAのような企業が生まれる可能性を作るには、僕たちが持っている課題感や取り組み、考え方を伝える必要があります。そこで色々な領域のトップランナーに集まってもらい講演をしてもらいました。

ターゲットはみなさんです。みなさんにそういう人の話を聞いてもらい、意識が少しでも変わってものごとに取り組むようなムーブメントが起これば、日本から新たな産業やインターネットサービスが起こると期待しています。

関戸: 学生は無料で、交通費も支援していました。

小林: 地方の学生に沢山参加して欲しいので交通費を支援しました。前回は500人ほど交通費を支援しています。これを支えているのは多くの企業の支援です。

関戸: 学校よりも産業界の方が教育への期待は高いと感じています。

小林: BIT VALLEYの運営をしているDeNA、サイバーエージェント、ミクシィ、GMOインターネットの4社で、学校を回って、こういう会社があるとか、こういう取り組みができますよというアドバイスをしていきたいと話しています。

関戸: 最後に学生たちに何かメッセージをお願いします。

小林 :「自分の頭で考えて、自分で行動する」単純なことですが、きっかけは難しいかもしれません。大きなことを考えなくて良いので、普段の生活の中で後回しにしていたことから始めてください。今日はありがとうございました。

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