見出し画像

『 日本食の真髄を世界へ 』

カテゴリーセッション: 食 
https://www.youtube.com/watch?v=XLuPzEAYguA

【ホッシーのつぶやき】
 日本料理は伝統を重んじる感覚でいたが、随所に出てきた「伝わらないと意味がない」という言葉が新鮮だった。ミラノ万博でも「地元の食材を使い、地元の花で八寸を飾り、地元の器で表現」するという。「求められないものは淘汰されるしかない」も潔い。
 しかし徳岡さんは「日本料理は茶道の流れ」と言い、『戦国時代、命のやり取りをする中で「信頼」を築くため茶道は生まれた。その価値観が根底に流れる』ともいう。「伝統と革新」について、”変えていくべきこと”と”変えてはいけないこと”も、「伝わらないと意味がない」ので柔軟に対応するという。奥の深いセッションだった。
 ※ セッションは料理など写真がふんだんに使われ見るからに楽しく美しい。動画も是非ご覧ください。

画像1

手塚 良則:松乃鮨 四代目 / SUSHI Ambassador
手塚様は、明治43年創業の江戸前鮨店「松乃鮨」の四代目。大学卒業後、世界100ヶ所以上のスキー場でプロスキーガイド。豪華客船ワールドクルーズや、ヨーロッパのワイナリー巡りといった富裕層向けガイドとして活動。スタンフォード大学にも留学。「鮨を通じて、日本文化のおもてなし」を伝えられ、2015年にミラノ万博、2019年のG20大阪サミットで鮨昼食会をプロデュースもされている。

徳岡 邦夫:京都吉兆 総料理長
 徳岡様は、「京都吉兆」で、日本料理を通じて、世界や未来の人々に必要とされる日本文化の創造。「吉兆」創業者の湯木貞一氏の孫として生まれ、1995年から総料理長として現場を指揮。2008年のG8(洞爺湖サミット)で社交晩餐会を担当。2015年にはミラノ万博に参加。伝統を守りながらも時代に適した「食」への挑戦を続け、「日本料理」への多彩な演出にご尽力。

神森 真理子:ジャパントラディショナルカルチャーラボ 代表取締役
 大学卒業後、パリ大学で文化芸術・映画ビジネス・文化政策を学び。松竹株式会社に入社。「日本文化の活性化」と言う生涯の目標を見出し、会社を創業。訪日外国人向け日本文化体験サービスや、和婚などを事業展開、日本文化の魅力を発信し、次世代への継承に取り組んでいます。


神森:本日のセッション「食」は、次のとおりに進めます。
    1、日本食とは? 世界に発信すべき日本食の魅力
    2、料理 「懐石料理」「鮨」
    3、おもてなし「国際的な舞台での外国人のお客様を魅了するおもてなし」  4、日本食の未来


神森:訪日外国人が「訪日前に期待していたこと」(2019年)では、「日本食を食べる」69.7%が1位です。
そこで「日本食が世界に注目を集めているのは何故か?」「世界に発信すべき日本食の魅力」についてお話しいただきたいと思います。

徳岡:日本食が世界から注目を集めるのは、「食」として健康や長寿、美容につながり、神秘性のイメージがあるからだと思います。日本料理は高額であり、富裕層の方がホンモノを味わい、自分は日本料理を知っているということをステータスとしているとも思います。

京都吉兆2

京都吉兆4


手塚:吉兆さんの日本料理は季節感があるところが素晴らしいです。

徳岡:基本的に日本料理は茶道の流れで、創業者の湯木貞一が、季節を切り取って表現することを始めました。色彩がキレイで、デザイン性が良いだけではなくて、茶道の“おもてなし”であり、“人と人が気持ちを一つにする場所”であり、“人と人をより強くつなげる”ためのものになります。
戦国時代、命のやり取りをする中で、「信頼」を築くため茶道は埋まれました。そのような時代で生まれた価値観が根底に流れていると思います。

手塚:日本食には、ラーメン、鰻、寿司、日本料理といろいろなものがありますが、この根底には「人を思う心」が詰まっていると思います。
僕の場合は「鮨」ですが、海外の人にとって、日本人が素手で生の魚を握るという、とんでもない料理ですが、信頼されているから召し上がっていただけると思います。
徳岡さんは、日本料理のことや、器やお椀で提供する美意識についてはいかがお考えでしょうか。

徳岡:食材は、品質が良ければ外国産のものもこだわりはないですが、器は“季節を切り取り”“時間のうつろい”や“場所の明暗“というような美意識を大切にしています。「貴方が好きです」と直接いうようなものではなく、「間接的に伝える」ことで、より思いが伝わるのだと思います。
海外の料理は直接的です。日本料理は、相手に思いやりを伝えるために、瞬間瞬間を切り取ることを季節で表現しています。その時に出せるベストな食材を提供することで、相手に伝わります。「人に伝わらないと意味がない」と思っています。

京都吉兆5

京都吉兆6


手塚:耳が痛い話です。僕らは料理を通じて「貴方が好きです。心を込めてお迎えしています」という思いを伝えていると思いますが、今の徳岡さんの話で「伝わらなくては意味がない」には頷きました。
私は、「鮨」なので魚を使うのですが、カウンターだからこそ、何を召し上がりたいのか、シャリの大きさはなど考えています。吉兆の湯木さんもカウンターから始められたとお聞きしましたが、カウンターだからこそ伝えられるものがあると思っています。
また僕たちの地方では、2月に「ホウラク割り」という節分行事があって、2枚の素焼きのホウラクに挟んだものを、お客様に木槌で割ってもらい、割れたホウラクの中から福が出るという行事があります。このホウラクを割る前に、皆なで掛け声をかける練習をするのですが、その掛け声がグループを一つにさせ、良き思い出にさせるというものになります。

松乃鮨5

徳岡:イヤイヤ、カウンターがあり、お客様のことを気遣えるのが素晴らしい。
僕の思う素晴らしい料理は「家庭料理」だと思っています。家族が作る料理には敵わない。家族の体調や気分によって、食べる量や、味の濃さも加減できます。僕ら料理人は、家族ではないから、限られた情報により、どうすればお客様の思いに応えることができるかを考え、料理を作っています。
「味のクオリティは信頼関係で成り立っている」ので、日本料理の場合、料理人だけでなく、スタッフも一緒にならないと最高のものはお出しできないので、教育も大切にしています。

「海外からのお客様をどのように“おもてなし”する」かですが、基本的には、日本人も外国人も同じです。
“おもてなし”は、ホームページなどでのお店選びから始まり、予約の時点から始まります。日本人への“おもてなし”も、地域によって、年齢によって、好みも違ってきます。どのようにしてそれに気付くかが、茶道に通じるものになるのだと思います。
茶道は作法にのっとりますが、作法は長年積み重ねてきたコミュニケーションのマニュアルのようなものです。しかし作法だけではダメで、その場に適した臨機応変な対応が求められると思います。そのためには店全体のチームワークが大切で、僕は、その環境づくりをするのが役割です。もう少し深く考えると、食材に関わる漁師さんや、乳牛や野菜の生産者の方との関わりにもなり、そのため、お客様の反応を生産者に伝えることも役割だと思っています。

手塚:同感です。私たちが生産者とお客様の間にいるので、「魚がどのようにして獲れたか」「漁師さんがどこまでこだわっているか」「仲買さんがどのように選んでくれたか」のストーリーを伝えるようにしています。
また、外国人のお客様に寿司体験してもらうこともあり、築地市場まで一緒に行って、魚や漁の説明も知ってもらい、器から包丁の話と学んでもらいながら伝えています。今は、直接体験してもらうことができないので、動画で体験してもらうのですが、これからは、動画を使って事前に学習してもらうようなサービスはより深く理解できる手段になると思います。

松乃鮨4

アニメも同様です。外国のアニメは、悪者をヒーローがやっつけるというエンターテイメント的なストーリーで、日本のアニメは、悪者は悪者の育ってきた環境があり、ヒーローにも欠点がありと、ストーリーが展開されているのが、世界に日本アニメが評価されているのだと思います。
東日本大震災で、配給の列に並んでいたり、おにぎりを分け合って食べていたり、アニメで見たことが、現場で実際に起っているからリアルが伝わり、日本人への信頼が生まれたと思います。
この日本人気質が、アニメのストーリーに反映され、お寿司に反映され、茶道に反映されているのです。外国人と日本人は文化背景が違うので、自国の文化を理解して、他国の文化も理解して“おもてなし”するのが真の国際化だと思います。一例をお話ししますと、アルゼンチンの大統領夫人が来られた時に、アルゼンチンの牛肉のお寿司をお出しして喜んでもらいました。また、ミラノ万博のジャパンデーの時にお寿司を振る舞い、私たちはお客様の前で寿司を握ったのですが、この時も生ハムで握りました。
徳岡さんは、イベントの時にどのようなことを意識されているのでしょうか?

ミラノ万博

ミラノ万博のジャパンデー

徳岡:基本的には「伝わらないと意味がない」のです。勿論、事前に色々考えますが、全ての食材や器を日本から持っていくことはできないので、地元の食材を使い、地元の花で八寸を飾り、地元の器で表現していきます。日本から連れて行くスタッフも、私ともう一人が先入りし、後のスタッフは別便で来ます。また現地のスタッフを使わないといけないこともあり、コミュニケーションの取り方や段取りが難しいです。また、環境も違えば、キッチンも違う。特に「水が違う」のは大きいです。全く違う料理を作る感覚でやらないといけない。

手塚:私たちは、外務省の方に「寿司外交」という言葉をいただいています。お寿司は外国人もよく知っておられ、お寿司を入り口に色々対応します。魚だけではなく野菜も握り、ハラールやベジタリアンにも対応します。「伝わらないと意味がない」ので、寿司を握るだけでなく、寿司にまつわるストーリーを喋ることも多くなっています。

画像9

G20大阪サミット

次の話は「日本食の伝統と革新」ですが、外国人をもてなす時に「柔軟に変えていくべきこと」と「決して変えてはいけない部分(不易流行)」について、徳岡さんの考えていることをお聞かせください。

徳岡:「伝統」は、変えてはならないことになるのですが、「伝わらないと意味がない」が基本です。
そして、求められないものは淘汰されるしかなく、今のマーケットに適応するしかない。海外でイベントする時は、招待状に日本料理を紹介する動画を埋め込んでおくなど、伝える努力をしています。
「茶道」は、サスティナブルに続いてきた文化ですが、現地の人に感じてもらうため、アレンジするしか伝わりません。「革新が伴った表現」にならないと意味がないと思っています。
先日、外国で歪んだ器が出てきました。その歪んだ器をニューヨークの人が作っているという話も聞き、これまで日本独自だった文化が、外国にも広がってきていると感じました。

手塚:文化の伝承は難しいですね。今は畳のない家もあり、爺さん婆さんから習ったものが伝わらない。会社の上司から教わってきたものが伝わらない。伝承そのものが変化していると思います。
今後の日本を考えると、経済力は下がって行くと思いますが、文化力は高いので、食の文化も理解してもらって、次世代を担う日本人は、海外に行って欲しいと思い、私も大学で寿司の話をさせていただいています。

徳岡:私も、生産者に出向くようになっており、生産者と共に料理人も日本の文化を伝えなければならないと感じています。しかし年配者の価値観は変わらないので、次世代に伝えていかないといけないと思い、子供達にものを作ってもらったり、経験してもらう教育が大切と思い、関わらせていただいています。

手塚:先ほどSDGsの話もありましたが、日本料理も、お米を無駄にしないとか、魚の骨で出汁を取って、皮は湯引きして食べるとかが当たり前ですが、これが海外に出ると、どこで獲れた魚か分からない、どう育てられたか分からない中で、日本食の素晴らしさについても、伝えることが大切だと思います。

徳岡:日本でも海外でも同じですが、イベントがある時は盛り上がるのですが、イベントが無くなると元に戻ってしまいます。地方の自治体と組んで、地域の食材を使い、地域の工場で加工し、その地域を紹介するような「6次産品」に取り組みましたが、地域だけでは思うような成果につながりません。
今は、企業に入ってもらって進めており、例えば、グリコに入ってもらって「アイスの実」の野菜バージョンを作りました。これは自然由来の食材だけで作ったものです。また、酵母エキスを使った商品を開発したりすると話が面白くなってきます。ノウハウは料理人が持っているので、これから取り組もうと思います。

手塚:「食」は、その国の人と心を表現するものと思っています。「ごちそう」という言葉があるように、お客様のために走り回って素材を集め、良い料理を作りますが、「日本食」には、日本人の人と心を表現していると思いますので、私は「鮨」を通じて、日本を外国人にも伝えて行きたいと思います。

徳岡:ここに集まられた方は、直接的なヒントを求められている方も多いと思いますので、何かあれば直接ご連絡いただければと思います。「是非、一緒にやりましょう!」
「結果を出さないと継続もできない」ので、結果を出していきましょう!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?