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#83 生きるヒント1~5(五木寛之)


1.「生きるヒント1~5」を読み直す


思うところあって「生きるヒント1~5」(五木寛之著)を、順番に読み直しました。ほぼ25年から30年ぶりです。同シリーズは、1993年4月の「生きるヒント1」から、毎年1冊ずつ、刊行されたものですが、当時五木さんは60代前半、五木さんと2回り年が離れた私は、30代後半から40代に差し掛かる時期でした。
 刊行当時の五木さんとほぼ同年齢・五木さんの年齢を超えた自分が、改めて同書を読み直してどう感じるだろう、という素朴な好奇心から読み直すことを思い立ちました。
 同シリーズが出版された5年間(1993年から1997年)は、バブル崩壊後の5年であり、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、大手金融機関の破綻など、様々な出来事が起こり、環境は激変しました。当時の自分の感じ方を振り返りながら、1冊ずつ読み進めました。

「生きるヒント1~5」

2.アサガオの蕾は朝の光によって開くのではない 

アサガオの蕾は朝の光によって開くのではないらしいのです。逆に、それに先立つ夜の冷たさと、闇の深さが不可欠である、という報告でした。
 もっと正確な話をご紹介すべきかも知れませんが、ぼくにはただ文学的なイメージとして、夜の冷たさと闇の深さがアサガオの花を開かせるために不可欠なのだという、その言葉がとても鮮烈にのこってしまったのでした。

生きるヒント1」第3章「悲しむ」(P67 )

「生きるヒント1」で紹介されたアサガオのエピソードは、同シリーズの中でも最も印象に残るものでした。失われた10年に留まらず、20年、30年と呼ばれるようになっても、「生きるヒント」としての自分の支えとなって来たように思います。

3.「生きるヒント1~5」の主要テーマとキーワード

 「生きるヒント1~5」は、それぞれ一つの主要テーマのもと、各12章にキーワードが一つ、5シリーズで60のキーワードが取り上げられています。
 60のキーワードの内訳は、動詞(自動詞/他動詞)が54個、副詞/形容詞が4個(軽く・熱く・若く/暗い)、名詞2個(幸せ・情け)です。
 「人生論」でも「生き方指南」でもなく、「ヒント」としているところが、このシリーズの大きなポイントであり、キーワードに散りばめられた日常的な例やエピソード、考え方を紹介しながら、決して押し付けや伝授ではなく、あくまで、「ヒント」として語りかける所に、五木さんの一貫したスタンスが見られます。
 キーワード自体は、短くシンプルなものながら、その奥行きは深く、ともすれば、われわれが、「常識」「当たり前」として思い込んでいることが、生きづらさの原因であったことに気づかされます。当時はあまり使われていなかった「アンコンシャス・バイアス」です。正反対に見えるものが意外に近いところに位置していたり、ものの見方、捉え方、視点を変えてみることで、生きやすくなる・・・こういったヒントがちりばめられています。

 著者は、正反対に思える事柄を一体化することで、より真実に近づこうとしている。深く悲しむものこそ本当の喜びに出会うと言い、死を思うことで世を支えようとする。
 読み終えた時、自分の存在すべてを許してもらえたような喜びがあった。

小川洋子「許される喜び」(「生きるヒント1」帯より)

 

4.今、また「生きるヒント」

 1990年代、当時30代後半から40代前半だった私も、慌しく生きていたように思います。
 同書の出版から、四半世紀以上が経過し、この間、出版時には予想さえできなかった事件や出来事が起こりました。環境的には『激変』したと言えます。しかし、同書を、問題解決の処方箋、あるいは、人生論として読むのではなく、あくまで『ヒント』として、読み直してみると、今でも通用する『ヒント』が満載なのに驚きました。

 当時は、余り深く感じることなく、読み進めてしまった箇所もありましたが、今回は少し読み方、感じ方が変わりました。これを、自分の成長と考えて良いのかな、と思う一方、改めて、五木作品の魅力を再認識しました。
 


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