別役実「天神さまのほそみち」を読んで
劇作家の高橋です。
今回、坂手洋二さんが別役さんを送るために上演中とのことで、読み返しました。
男6人、女4人で展開される不条理対話劇。
いつものように電信柱とベンチの舞台から始まります。
各登場人物の思いはこんな感じ。
男1 虎が通らなかったかと聞きつづける
男2 全ての当事者ではないのに、全てに関わってしまう
男3 38番の場所で商売したいのに、場所を取られてしまう
男4 38番の場所を取ってしまう
男5 男3の移動先をどかそうとする
男6 通りがかる
女1 男2の姉。男2が大学を辞めた理由を叔父と叔母に説明させたい
女2 子供をさがしている
女3 女2をかばう
女4 占い師、男4の所業を許せない
女5 通りがかる
そんな彼らが、会話を重ねるほどに混乱が起き、事態が悪化していく。
この不条理が成り立つのは、言葉が通じないと言うことではなく、言葉は通じるんだけども相手のことを配慮しないで自分の立場の主張ばかりをいうから、全く通じないと言うことが起きている。
その中で男2は、唯一それぞれの思いを代弁して自体を整理できる可能性をもっているのに、はっきり言い切れず相手へ遠慮ばかりしているから事態はややこしくなっていく。
指示代名詞が多いこと、相手を思ってすぐにはっきり言わないこと、結局人のせいにしてしまうこと、そんな行為が愚かに見えるが、でも実は我々が日常的にやっている行為なのだ。
男2は、本当に何もしていないのに、周りが勝手にいろいろな思いをぶつけ合うことで、いつのまにか自分の事情が変わってしまったという、現代で実にありがちで、自分もよくそういう目にあっているなと感じるのです。別役さんが単純化してくれているから、自分の行為、生き方が、下手なんだな、、と悲しくなりつつも学びと気づきを得られる戯曲です。
なお、男5,女4が最初に現れるところは、別役さんがコントについて書いた本で「舞台上には上手から下手に風が吹いている」「通り過ぎたあと戻ってくることでとても存在感が出る」などと表現していた舞台上ルールが面白く具体化されてます。
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