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その機密情報、「営業秘密」として守っていますか?

はじめに

 こんにちは。弁護士・中小企業診断士の正岡です。
 自社の機密情報は、競争力のもとになる大切な経営資源です。この経営資源が社外に漏れてしまうと、競争優位性が失われ、経営に大きな打撃となってしまいます。
 社内の機密情報が社外に漏れる場面としては、従業員などの社内関係者が、退職時などに社外に持ち出すケースがあります。
 少し前には、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの元社長が、前職のはま寿司の食材の仕入価格などの情報を不正に持ち出し、その情報がかっぱ寿司の業務で使用されていたとして、元社長とカッパ・クリエイトが不正競争防止法違反で起訴されたことが報じられました。
(日本経済新聞電子版 2022年10月22日の記事https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65367390S2A021C2MM8000/

 社内関係者による機密情報の持ち出しは大企業に限ったことではなく、中小企業でもよく問題となります。元従業員が機密情報を持ち出して競合他社に転職したり、起業したりすることは珍しいことではありません。
 ところが、会社の機密情報であっても、当然に法律で守られるわけではないのです。
 今回は、自社の機密情報が法律で保護されるための対策を書きたいと思います。

1 「営業秘密」の保護

 「営業秘密」を保護する法律に、不正競争防止法というものがあります。
不正競争防止法上の「営業秘密」に当たる情報を不正に持ち出したり、使用したりした場合、不正競争防止法に違反することになります。
 この場合、会社は、情報を不正に持ち出したり利用している相手に対して、情報の使用をしないように請求したり、情報が記録された媒体や情報によって作られたものの廃棄などを請求することができます。
 会社に損害が生じた場合には、会社は相手に損害賠償を請求することもできます。損害賠償を請求する場合、情報の不正な持ち出し・使用によって、いくらの損害が生じたかが分かりにくいことがありますが、不正競争防止法にはその証明を手助けする規定もあります。
 さらに、不正競争防止法では、「営業秘密」を侵害する行為について、一定の要件のもと、厳しい罰則(10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、又はこれを併科)も定められています。会社は、営業秘密を侵害した相手を捜査機関に告訴し、その処罰を求めることができます。
 しかし、不正競争防止法上の「営業秘密」にあたるものでなければ、このような取り扱いを受けることができません。そこで、会社の機密情報を守るために、「営業秘密」にあたるように対策をとることが重要です。

2 不正競争防止法の「営業秘密」とは

 不正競争防止法上の「営業秘密」とは、次の3つの要件を満たすものです。
 ア 秘密として管理されていること(秘密管理性)
 イ 有用な営業上又は技術上の情報であること(有用性)
 ウ 公然と知られていないこと(非公知性)
 
 これら3つの要件のうち、裁判でよく問題になるのは、アの秘密管理性です。秘密として管理されていないため、「営業秘密」にはあたらないと判断された例が少なくありません。
 秘密管理性は、経営者が会社の機密情報だと考えているだけでは認められません。従業員が情報に触れたときに、それが「営業秘密」だと客観的に分かるようにしておかなければならないのです。
 「営業秘密」に当たるかどうかの感じ方は、経営者、管理職、担当部門の従業員、他部門の従業員といった立場の違いで異なることがあります。経営者や製造の担当者からすれば秘密にすべき重要な技術情報であっても、営業の担当者にはその重要性が分からないこともあります。
 また、個々人によって考え方が異なるため、会社の情報を幅広く営業秘密と考える人もいれば、会社から指示がない限り秘密にする必要はないと考える人もいるでしょう。
 したがって、
 秘密管理性が認められるためには、会社が秘密として管理する措置をとった結果、従業員等が秘密であることを簡単に認識できる状態になっていることが必要です。

3 秘密管理性を満たすための対策

 それでは、秘密管理性を満たすためには、どのような対策をとればよいのでしょうか。これは会社の業種や規模などによって様々ですが、例えば、以下のようなことが考えられます。

  • データであれば、ファイル名やデータのヘッダーに「営業秘密」「社外秘」の表示をいれる

  • データであれば、パスワード等でアクセスできる人を制限する

  • 紙媒体であれば、機密情報とその他の情報を区別し、別にファイリングする

  • 紙媒体であれば、施錠できる書庫にしまっておく

  • 紙媒体であれば、ファイルや冒頭部分に「営業秘密」「社外秘」のスタンプを押す

  • 就業規則や秘密情報管理規程などで営業秘密の対象や取扱いのルールを整備し、従業員に周知する

  • 営業秘密の対象情報の種類をリスト化し、社内文書やメールなどで従業員に周知し、営業秘密の取扱いの注意点も周知する

  • 機密情報を扱う従業員に、秘密保持契約書や誓約書を示して説明し、サインしてもらう

  • 機密情報の取扱いに関する研修などの社内教育を行う

  • 営業秘密の交付時やアクセス権の付与時に、口頭で営業秘密である旨と取扱上の注意点を伝える

 これらは一例であり、これら全てに取り組まなければならないわけではありません。自社に合わない対策や、より適切な他の対策がある場合もあるでしょう。自社の実情に合わせて、どのような対策をとるべきかご検討いただけると幸いです。

4 対策まとめ

 不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるための対策をお伝えしましたが、これに取り組む前提として、そもそも何が営業秘密にあたるかを整理することが必要になります。
 また、情報に触れる人が多くなるほど、漏洩のリスクが高まりますので、秘密情報に触れることのできる人を絞ることも必要です。
 前述した秘密管理の対策と重複しますが、営業秘密を取り扱う際のルール(利用時間の制限、利用場所の制限、保管場所に返還されたことの確認、保管場所の施錠の確認、複製の禁止、FAXやメール送信禁止、クラウドでの共有禁止、ログアウトの徹底、インシデント・アクシデント時の改善策の報告義務など)を定めておき、従業員に周知し、遵守を徹底することも重要です。
 
 それでは、最後に、自社の機密情報を守るための対策をまとめますと、

  • 営業秘密として守らなければならない情報を整理する

  • 情報に触れることができる人を絞る

  • 秘密管理措置を考えて実施する

  • 営業秘密の取扱ルールを定めて周知し、遵守を徹底

ということになります。
 
この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。


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