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トラブル予防の大切さ

 こんにちは。弁護士・中小企業診断士の正岡です。
 この記事では,トラブルの予防対策を行うことの重要性をお伝えします。

予防法務とは

 法的な知識などを活用して,トラブル予防の対策をとることを予防法務といいます。
 トラブルが起き,こじれてしまった場合,最終的には裁判所で法的な解決が図られます。しかし,このような解決には大きな負担を伴います。それならば,トラブルが起きる前に予防策をとっておこうというわけです。
 「予防法務」と聞くと難しそうな印象を受けるかもしれませんが,具体例をあげると少し身近に感じていただけるかもしれません。
 例えば,
・取引先とはきちんと契約書を作っておく
・契約書を作る際は,文面を工夫しておく
・回収漏れが生じないように取引代金の回収マニュアルを作成・運用する
・新たな取引をする前に,法的な問題がないか調査しておく
・自社の実情に合った就業規則を作成しておく
・通常の給与と残業代を区別するために,労働契約書や給与明細の記載を工夫しておく
・問題を起こした従業員への処分を検討する際に,処分に法的な問題がないか検討する
などといったことがあげられます。

予防法務の重要性

 「契約書とか,調査とか,検討とか,そんな面倒なことやってられないよ。トラブルが起きたら,その時に対応を考えればいい。」と感じる方もいらっしゃると思います。
 確かに,慣れるまでは面倒に感じる部分があることは否定できません。
 しかし,トラブルが起こり訴訟にまで発展してしまうと,以下のような大きな負担が生じてしまいます。

①費用がかかる
 訴訟にかかる費用には大きく分けて㋐裁判所におさめる費用と,㋑弁護士に訴訟対応を依頼した場合にかかる弁護士費用があります。
 
 ㋐の裁判所におさめる費用としては,訴訟の利用手数料としての収入印紙や,裁判所に預けておく郵便切手などがあります。その他にも,専門性が高い事件などで第三者の専門家に意見を求める手続(鑑定)を行った場合の鑑定費用,証人に裁判所に出てきてもらった場合の日当なども考えられます。
この裁判所に納める費用は,最終的には訴訟に負けた方が負担することになります。

 ㋑の弁護士費用は,弁護士に訴訟対応を依頼した場合にかかるお金です。
弁護士は,書籍や類似の裁判例を調べ,法律関係を検討し,主張書面を作ったり,証拠書類を提出したり,尋問を行ったりといった活動を行います。依頼者と打合せを行ったり,関係者から事情を聴いたり,裁判所とやり取りをしたりもします。これらにはなかなかの労力がかかるので,弁護士費用は世間一般から見て高いと言われるような金額になっています。 

 それでは,訴訟になると弁護士費用はどれくらいかかるのでしょうか。弁護士費用でよくあるのが,着手金と成功報酬です。
 着手金とは,弁護士が事件処理に着手する際にお支払いただくお金です。成功報酬は,事件終了時に,弁護士の活動結果や成功の程度に応じてお支払いいただくお金のことです。
 昔は弁護士会が弁護士費用の基準を定めていましたが,現在は弁護士ごとに自由に料金設定ができるため,一概にいくらかかるとはいえません。
 ここでは弁護士費用の一例をお伝えします。

 弁護士費用が自由化されてからも,昔の弁護士会の基準を活用して着手金・成功報酬を決めている事務所が多いように思います(※当事務所では,昔の報酬等基準を参考にしつつも,事情に応じて減額するなどし,依頼者の負担に配慮しております。)。
 例えば,昔の基準に,経済的利益の額が300万円以上3000万円以下の事案の場合には着手金は経済的利益の額の5%+9万円,成功報酬は経済的利益の額の10%+18万円といったものがあります。
 これにしたがって,500万円の代金を請求する訴訟を起こした場合の弁護士費用を計算してみましょう。
 着手金を計算すると500万円×5%+9万円=34万円(税抜き)となります。
 また,訴訟に勝って500万円を回収できたとしたら,成功報酬は500万円×10%+18万円=68万円(税抜き)となります。
 これらの着手金と成功報酬の合計は102万円(税抜き)となります。これに10%の消費税もかかってきます。
 なかなか無視できない数字ですよね。

 「訴訟に勝てば,弁護士費用は相手に支払ってもらえるのでは?」とお考えになった方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし,訴訟の勝敗に関わらず,自分が依頼した弁護士の費用は自分で支払わなければならないのです。

②時間と労力がかかる
 訴訟になると,お金だけでなく時間もかかります。その間,弁護士と打合せをしたり,社内で方針を検討したり,裁判所で話を聴かれる手続があったりと,労力も伴います。訴訟への不安を感じたり,相手方の態度に腹立たしく思ったりと,精神的な負担もあります。
 
 参考までに,訴訟にどれくらいの時間がかかるのかご紹介したいと思います。

 裁判所が公表している資料によれば,平成30年の第一審の平均審理期間は9.1カ月でした。この中には,当事者に争いがなかった事件や,判決までいかず,話合いで終わった事件など,早めに決着がついた事件も含まれています。

平均審理期間

裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第8回)・裁判の迅速化に係る検証に関する報告書・地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情より引用(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/hokoku_08_02minji.pdf

 さらに,裁判所が公表している資料によれば,人証調べを実施した事件の平均審理期間は,21.5カ月だったそうです。人証調べとは,裁判所で当事者や証人を尋問する手続のことで,早期に和解などができない事件で実施されることが多いです。

人証調べを実施した事件の平均審理期間

裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第8回)・裁判の迅速化に係る検証に関する報告書・地方裁判所における民事第一審訴訟事件の概況及び実情より引用(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file4/hokoku_08_02minji.pdf

 このように,訴訟には長い時間がかかり,その間,当事者には時間的,精神的な負担がかかってしまうのです。

③自社の信用に響くことがある
 自社が訴えられた場合には,自社の信用を失ってしまうこともあります。
 例えば,従業員とのトラブルで,「不当に解雇した」「パワハラが起こっている」「残業代を全然払っていない」ということで訴訟を起こされ,ニュースになることがあります。ニュースにまでならなくとも,取引先や他の従業員に知られてしまうこともあります。

予防法務の心構え

 以上のように,トラブルが訴訟にまで発展してしまうと,多大な負担が生じてしまいます。そこで,トラブルが起きる前にできる対策はしておこうというのが予防法務の取組みです。

 予防法務への取組みといっても様々な種類があり,ここに個別の方法を記載することはできませんが,予防法務に取り組むための心構えをお伝えできればと思います。

・予防法務の必要性を知ること
 必要性を知ることから全てが始まります。この記事を読んでいただいている皆様は,すでにこのステップはクリアしているはずです。

・自社の法的リスクやリスクの原因を検討し,予防策を考えること
 法的リスクやその原因を認識しなければ,予防策をとることができません。自社の事業のどこに法的なリスクが潜んでいるか,それはなぜ生じているかを検討してみてください。
 業務の流れを書き出して,それぞれに起こり得るトラブルや原因を考えてみたり,これまでのトラブルの記録を振り返ってみたり,現場の意見を聴いたり,同業他社のトラブル事例を調べるといったことも有効です。

・トラブル予防に関する情報を集めてみること
 書籍や業界紙などで,トラブル予防の方法について情報を集めることも有効です。
 インターネットでも,弁護士等が情報を積極的に発信しており,予防策に関する情報をある程度集めることができます。
 予防策を考える際に役立ちますし,情報を集めるうちに,トラブル予防の考え方が身についてきます。

・客観性の高い記録が自社を守ることを意識すること
 客観性の高い記録はトラブル予防に大きな力を発揮します。
 取引の場面を例にとると,双方が合意して作った契約書,発注書や請書,メールのやり取り,会話の録音などから,双方がどのような取引内容で合意したのか読み取ることができます。
 客観的な記録は,自社を守るために,大変重要なものであることを意識してください。

・弁護士等の専門家に頼ること
 ご自身で予防策を考えたり,情報を集めたりしても,不安が残ることはあると思います。
 実際に,自分だけでは気付けないリスクが潜んでいたり,集めた情報が自社に合わないものだったりすることもあります。
 そこで,少しでも不安を感じる場合には,弁護士等の専門家に頼ることをお勧めします。具体的には,専門家に相談をしたり,法的リスクや予防策の検討を依頼したりすることが考えられます。顧問を依頼し,継続的に自社に関わってもらうことも考えられます。
 トラブル防止に必要な費用と捉え,専門家を活用していただければと思います。

 費用をかけずに,お試しで弁護士に相談してみたいという事業者の方は,弁護士会の「ひまわりほっとダイヤル」という,初回の30分間無料(一部地域を除きます)で法律相談ができる制度もあります。(https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/index.html

 私は,全ての取引で詳細な記録を作れとか,必ず顧問弁護士を雇って法的リスクを検討してもらえと言うつもりは全くありません。取引の内容や金額の大きさなどでも,トラブルが起こる確率や,被害の大きさは変わってきますし,事業の規模によって対応できる範囲に限界もあるでしょう。
 小規模な事業所さんでも,重点を絞って,やれることから取り組んでいただければと思います。自社にとって大きな取引を受注したとか,相手方から示された契約内容に不安を感じたとか,そのような時はきちんとした契約書を作ったり,弁護士等の専門家に相談したりといった対応が考えられます

まとめ

 最後に,この記事でお伝えしたいことをまとめますと,

・訴訟になると費用も時間も労力もかかる
・やれる範囲でトラブル予防の対策(予防法務)に取り組む


ということになります。

 どんなに対策をしても予期せぬトラブルが起こることもあります。
 しかし,事前に対策をしておくことで,高い確率で防げるトラブルもあります。
 トラブルが起きてから,「こうしておけばよかった。」と後悔しないためにも,この機会に,少しでも事前の対策について意識していただければと思います。
 この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。

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