見出し画像

吾輩は犬の原種ポカラである

吾輩は犬の原種ポカラである

ーーカトマンズでの新生活ーー
2024.8.24            記             石河正夫

1 カトマンズの公邸
 
「あら!カワイイ!」
と玄関から出てきた中年のご婦人が吾輩を見るや叫んだ。
「ラサアプソの元気な小犬がやっと見つかりました。」
とJICAの森田さん。

 

リビングルームの入り口



 
 
(まだゼロ歳のラサアプソの写真)
「今回は本当にお世話になりました。素晴らしい子犬を選んでいただいて有難うございました。生後何日ぐらいですか?」
「45日ぐらいですがとてもスバシコイですよ。ほら見てください!」
と森田さんはポケットから干し肉を取り出して腕を水平に突き出し、
「ホラ 餌だよ」と吾輩にけしかけた。
吾輩は腹も減っていたが、満身の力を込めてジャンプして餌をもぎ取ることに成功した。
「まあ怖い ! 凄いジャンプ力ですね。」と女主人。
 
「犬の戦闘能力はジャンプ力と敵の喉を嚙み切る力によって決まるといわれています。このゼロ歳の小犬ですら、コヨーテでも狼に対してでも喉にかみつく能力を備えているのです。」
と森田さん。
女主人はいつもニコニコして優しそうである。
吾輩が気に入ったようである。
サロンの隣に食堂があり、その隣に調理室があり、日本人とネパール人二人のコックが働いているようだった。


サロンの一部で餌をぶら下げる女主人

 
 
しばらくして、その調理室のあたりから鶏肉を焼く匂いがプーンとしてきた。
カッコよい器に鳥のささ身が盛り付けられていた。
 
「はい! ポカラちゃん どうぞ!」と女主人が言って器をサロンの片隅に置いた。
 
吾輩はそれを口の中に入れると素晴らししくおいしくて、すぐ平らげてしまった。
森田さんがソファーに腰を下ろして紅茶を飲みながら
「珍しくらしく早食い!よほど気に入ったようです。ささみは大好物ですからね」と言う。
女主人は骨付きの肉を持ってきて目の前でぶら下げてきた。くわえようとするとサッと餌を上に挙げて吾輩の敏捷さを試したりした。
 
 
女主人は何度も「ポカラ」という言葉を口にしだした。吾輩の生まれた「ポカラ」という町のはなしがはずんでいるのかなと思っていたが、吾輩に向かって「ポカラ」と呼びかけていることを確認して、吾輩は「ポカラ」という名前を付けられたのだと悟った次第。
 
しばらくの間、森田さんは女主人と何やら雑談していたが腕時計に目をやって、「もうこんな時刻ですか。事務所に帰らなければなりません。ポカラ、元気でね!」
と挨拶のジェスチャーをして自分の車に乗って去っていった。
 
 


サロンの片隅

サロンの片隅

裏庭でも結構広く、女主人とかけっこしたりして楽しんだ。
夕方になり、トヨタの車が静かに構内に入って玄関前に留まった様子。
誰かわからないので、ワンワンと吠えてみると、使用人の一人が慌てたように小走りで迎えに出た。
 
「ただいま!」と大声でパイロット向きの黒鞄を抱え、背広姿の紳士が玄関口から入ってきた。
ご主人だとすぐ分かった。
50代に見えるが、声はなんだか青年のようだ。
女主人が駆け寄ってきて、吾輩の報告をしているようだった。
「ポカラ」とか「ゼロ歳」、「すごいジャンプ力」、「飛行機」、「JICA」とかの言葉が耳に入る。
 
「いい犬が見つかってよかったね。ポカラ。ナマステ!」
と言って主人は吾輩の頭を撫で2階へ駆けあがっていった。
 
2階には寝室や書斎があるようだ。
主人は忙しそうな風情である。
サロンには誰もいなくなった。
絨毯の上でごろごろしていると眠たくなった。
この屋敷には日本人の家族として主人と女主人計二人が住んでいるようだ。
使用人として、運転手、コック、雑用係など数名いたが、みんなが
「ポカラ」「ポカラ」と言って可愛がってくれたので新生活にすぐ慣れた。
(了)(続く)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?