オミクロン株の登場で、投資家が間違えてはいけないこと

転載です。

新型コロナウイルスの新たな変異株、オミクロン株の登場で、市場にも動揺が広がっている。この「オミクロン株ショック」に、投資家はどう立ち向かうべきなのか。投資家が絶対に間違えてはいけないことについて解説しよう。(経済コラムニスト 大江英樹)

株価が下がるパターンは 大きく分けて3つある
 南アフリカで発見されたオミクロン変異株の登場で米国をはじめとする市場が激震に見舞われた。いわゆる典型的な「リスクオフ」の状態と言っていいだろう。これについてはまだ詳しい内容が判明していないことも多いようだし、筆者自身も医療に関する知識は全くないので、今後どうなるかについてはコメントすることはできない。

 ただ、新型コロナウイルスに関することに限らず、今までもこういう類いの突発的なニュースは多くあったし、これからもきっと出てくるだろう。

そんな場合に個人投資家が取るべき基本的なスタンスとして正しいのは、投資している先の企業に関する個別の悪材料が出たのでなければ、あまり極端に反応しないことだと思う。

 過去の事例を振り返ってみても、こうした一時的な“○○ショック”というのは、不安感から大きく株価が下落することはあっても、その後はそれほど時間を経ずに回復していることがほとんどである。ところが、株式投資というのは先の見えないものにお金を投じるわけであるから、市場が最も嫌うのは「不安感」だ。最近の例で言えば、世界的に新型コロナウイルスが拡大を始めた2020年の2月から3月にかけて市場は短期間のうちに30%以上下落したが、その後数カ月で回復し、今では当時から倍近くに上昇している。

 株価が下がるときの理由は、大きく分けて3つある。一つ目は業績悪化や成長鈍化といった個別企業のマイナス要因。そして二つ目が、金利上昇や景気全体の悪化といったマーケット全体の悪材料だ。そして三つ目が、経済とは直接関係のない社会不安や事件が起こった場合だ。もちろんこうした社会不安が昂じることで経済にも影響を与えることはあり得るが、多くの場合は比較的短い時間でこの不安は払拭(ふっしょく)されることが多い。

 では、個人投資家として、こうした3つの下落パターンの場合、どんな行動を取るべきなのだろうか。

 これについては絶対正しいという答えは存在しない。同じ原因で下落してもその後の回復パターンが異なることはおおいにあり得るし、そこからさらに変化が起きることもあるため、市場の動きを読むことは不可能だからだ。ただ、いくつか知っておくべき原理原則はある。

短期投資か、長期投資かで 投資行動の「正解」が変わる
 短期投資というのはその日のうちに決済してしまうデイトレードをはじめ、数日~数週間で決済するスイングトレード、さらにせいぜい長くても数カ月単位での売買のことを指す。

 筆者が考えるに、もし短期投資で考えているのであれば、上記の一つ目から三つ目までのいずれの理由であってもいったん売った方が良いだろうと思う。最も短期的な下落が予測される三つめの場合でも、ケースによっては数日で戻ることもあれば数カ月かかることもある。短期投資で重要なのは資金効率とリスク管理であるから、できる限り機敏に動いた方がいいからだ。

したがって、自分の投資スタンスが短期ならば、どのような内容にせよ、悪材料が出たときにはいったん見切って早く損切りした方が被害は少なくて済むことが多い。多くの人が心の中に持っている「現状維持バイアス」(変えるのが良いと客観的にはわかっていてもなかなか変えることができない心理のこと)によって、ここで損切りできないと、そのままずるずると引きずった結果、いわゆる塩漬けになってしまうからだ。

 これは短期投資を指向する個人投資家だけではなく、機関投資家でも同じことがいえる。公的年金のような超長期資金を運用するGPIFのような存在であればいざ知らず、通常の企業年金であれば1年ごとの決算があり、期間収益が求められるし、投資信託であれば、日々の基準価額が下落することで投資家が離れていくことも起こり得るからだ。

 ところが同じ株式投資でも長期投資のスタンスで臨むと、行動は全く変わってくる。これはどちらが良いとか悪いとかではなく、その人の投資に対するスタンスの問題だ。一般的に普通の個人投資家は仕事を持ちながら投資をするわけだから、ずっとマーケットを見ているわけにはいかない。それに機関投資家と違って期間収益を出さなければならないという必要もないので、必然的には短期投資ではなく長期投資のスタンスとなるのが一般的だろう。

長期投資ならケースによって 下すべき判断は異なる
 短期投資の場合は、いずれのケースでもいったん見切った方が良い、いわゆるリスクオフの状態にする方が良い場合が多いが、長期投資で臨む場合、全く方針は異なってくる。

 端的に言えば、前述の三つ目の「社会問題や事件」のケース、すなわち今回のような下落の場合は何もしない方がいい。焦って売ってしまうと次になかなか買い直すことができなくなる。昨年3月のコロナ禍による下落でも慌てて売ってしまった投資家がその後、市場に戻れなかった人は多かった。次に二つ目のケース、つまり金利上昇や景気の悪化といった経済全体のファンダメンタルズが悪くなることで相場全体が下がる場合である。

 例えば、現状の米国のようにインフレ懸念から金利上昇が予測される場合である。これもよほど極端な場合でなければ、慌てて売る必要はないだろう。自分が投資している企業が今後も利益成長を続けていくのであれば、持ち続けても問題はない。どんな弱気相場にあってもその企業の利益成長が続く限りは株価の上昇を止めることはできないからだ。

 問題は前述の一つ目のケース、自分が投資している企業の業績が悪化したり、悪材料が出たりした場合だ。基本的には長期投資であったとしてもこの場合は売った方が良いケースもある。それは、その悪材料が明らかにその企業の稼ぎの中心をなすビジネスに大きな影響を与え、しかもそれが続くと予測される場合だ。結果論ではあるが、これはその企業の先行きに対して誤った判断をしてしまったわけだから、長期間にわたって低迷が続くよりも売ってしまった方が良いということもあり得る。

 しかしながら、企業が成長していく過程では悪材料が出てくることはしばしば起こり得ることであり、その度に売ってしまっていては長期的な株価上昇の恩恵を受けることは不可能である。したがって、目先的な悪材料が出たとしても下落した場面で売るのではなく、長期保有を続けるのが原則と考えた方がいいだろう。なぜなら、そうすることで5倍、10倍に成長する恩恵を受けることができるからだ。

 長期投資というのは10年、20年という単位で考えるべきである。GAFAにしても日本のファーストリテイリングやエムスリー等にしてもそうやって長期に企業の成長を取りにいくというのは、「待つこと」、そして「我慢すること」という対価を払って最も大きな成果を得られることであると言って良いだろう。

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