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地銀のフロッピーディスク取り扱い終了を機に振り返る、記録媒体の栄枯盛衰

地銀がフロッピーディスクの取り扱いを終えるという。記事を読むと驚いたことに、山形銀行だけで市町村や中小企業など約1,000もの取引先が、銀行にフロッピーディスクを持ち込んでいたらしい。フロッピーディスクには様々な種類があって、1990年代には2.88MB(フォーマット前4MB)の容量を持つ2EDというのもあったが、世間的には1.25MB(フォーマット前2MB、IBM互換機では1.44MB)の2HDというのが主流だった。よく新聞朝刊とか文庫本1冊の文字情報がフロッピーディスク1枚分といわれた。

実際のところ新聞には写真も含まれるし、日経電子版のダウンロードが朝刊で約30MBということだから、実際には朝刊ひとつ格納するためにフロッピーディスクは20枚以上も必要ということになる。Windows 95まではCD-ROMに加えてフロッピーディスク版があって、何十枚ものフロッピーディスクを抜き差ししてインストールしたものだ。

もちろん1990年代にはフロッピーディスクに代わる大容量メディアは色々と出てきた。光磁気ディスク (MO) やリムーバブルハードディスク、Zip、PDなど、それぞれ百花繚乱となってポスト・フロッピーディスクの座を争ったが、なかなかフロッピーディスク並に普及するものが現れず、20世紀末までフロッピーディスクが広く使われていたように記憶している。

何十倍もの容量のメディアが次々と出てきても、そうそうフロッピーディスクの座を脅かさなかった背景としては、ドライブやメディアが高価だったことや、1990年代がノートPCの普及期とも重なっていたことから、フロッピーディスクよりも物理的に大きな記録媒体が受け入れられ難かったこともある。その中にあって大容量という点でフロッピーディスクに取って代わる程度に普及したのはCD-ROMである。音楽CDと同様にプレスで大量生産できることから、パッケージソフトウェアの配布手段として非常に優れていた。

しかしながらCD-ROMは3.5インチフロッピーディスクと比べて大きく、当初は書き込みできるドライブの価格が高価だったこと、ノートPCに内蔵することが難しかったことなどから、1990年代後半まではフロッピーディスクとCD-ROMの併存が続いた。CD-RやCD-RWといった書込可能なメディアも後から登場したが、フロッピーディスクのようには簡単に扱うことができず、失敗せずにCD-Rを焼くための専門サイトが現れるほどだった。

直接フロッピーディスクを駆逐したのは、何といってもUSBの普及と、USBメモリの登場だろう。USBメモリはフロッピーディスクと比べても小型で、ノートPCにも簡単に刺すことができる。CD-ROMと違って書き込みのために専用ソフトを要さず、誰もが手軽に扱うことができた。USBはOSとしては1996年末頃に登場したWindows 95 OSR2からサポートされていたが、普及の契機は何といっても1998年夏のiMacの登場だ。iMacが旧来の目的別インターフェースを全て廃止してUSBを全面採用して大ヒットしたことが、USB周辺機器の普及と低価格化を促すことになった。

USBメモリがいつ頃から普及したのか、もはや空気のように当たり前過ぎて思い出すこともできないのだが、どうやらiMacよりは遅く、2000年の早い時期に売られ始め、Wikipediaによると2004年頃から急激に普及したらしい。2000年の時点で16MBから128MBの容量だったようで、最小の16MBでもフロッピーディスクを置き換えるには十分な容量といえる。

これまで金融機関が持ち込み媒体として受け取ってきたのは磁気テープ、フロッピーディスク、光磁気ディスク (MO)、DVDで、広く使われているUSBメモリは含まれていない。USBメモリが普及した2000年代前半はネットバンキングが普及した時期でもあったこと、使い捨てるにはDVDなどの光ディスクと比べて高価であること、様々な接続モードがあってセキュリティ管理が難しいことが影響しているのだろうか。

最近になってフロッピーディスクの取り扱いを止めたのは金融機関だけではない。2019年には米軍が戦略核ミサイルの運用に使われるシステムで8インチフロッピーディスクの使用を止めたと報じられている。一方で旅客機ボーイング747では、今でも3.5インチフロッピーディスクが使われていることが話題になった。一般の情報システムと比べてライフサイクルの長い航空機や防衛装備のように、そう簡単に媒体を切り替えることが難しいシステムもあるのだろう。とはいえ媒体の入手から難しくなる中で、腰の重いシステムでもフロッピーディスクの運用を見直さざるを得ない状況にあるようだ。

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