就職氷河期の再来 新型コロナ後の雇用の行方

米労働省が26日発表した21日まで1週間の失業保険の新規申請件数は前週比11.6倍の328.3万件、リーマンショック後のざっと5倍近くで過去最高の水準となった。日本でも新卒の雇い止めや採用活動の中止が起こりはじめ、このままではバブル崩壊やリーマンショック後を超える就職氷河期が再来する可能性が出てきている。

日本で経済危機になると就職難が起こり、その世代の若者が割を食うのは、米国と比べて雇用が強く保護されているため、主として定年退職と新卒採用数を調整弁として人件費の最適化を行ってきたからだ。

日本では大学卒業後に空白を置かず就職することが一般的で、就職浪人などの空白を入れると不利になるため、たまたま卒業した年度によって就職に大きな有利不利が生じる。いちど就職に失敗すると必要な経験を積むことができず、長きにわたって労働市場で不利な立場に置かれてしまう。こうした不公平を防ごうとすると米英や中国のように、解雇の要件をもっと緩めていく必要があると論じられてきた。

今回の新型コロナで改めて浮き彫りになったのは、米国のように流動性の高い社会は、技術革新や社会の変革に応じて人々を役割を組み替え、競争力を発揮する上で強みがあるけれども、危機が起こったときには突然、個々人が路頭に放り出されるということだ。いざ危機となれば、マスクやトイレットペーパーだけでなく、弾薬の買い占めが起こる。危機が社会不安に直結するからこそ、トランプ政権は機動的に2兆ドルを超える経済対策を打ち出す必要があったのだろう。

日本企業は正社員の雇用を維持しつつ、重層的な下請け構造や、派遣労働の解禁や非正規雇用の増加を通じて、バブル崩壊以降の経済の成熟による社会の変化に適応してきた。その結果として経路依存的に経験を奪われてきた層がロスジェネ=就職氷河期世代と呼ばれるように、キャリアを積む機会を奪われた。ようやく政治において就職氷河期世代の支援が決まった矢先に再び大きな経済危機が起こりつつあるのは皮肉なことだ。

政府による就職氷河期世代の支援が決まったとき、40代に入った同世代としては遅きに失したと感じた。新しいスキルを身につける分には、学習の習慣さえついていれば50代、60代に入ってからでも遅くないが、組織の中で課題を発見し、周囲と調整しながら自律的に仕事を回していくコンピテンシーは、社会に出て最初の数年でないと身につきづらいからだ。仮に社会に出た途端に躓く新就職氷河期世代が出てきたならば、できれば30歳になる前に、自律的な働き方を学ぶ再挑戦の機会を与えられないだろうか。

東京で外出が難しくなる可能性が生じて、企業においてはリモートワークが広がりつつある中で、正社員はリモートワークで自律的に働くことはできるけれども、派遣や契約社員、協力会社までリモートワークができている組織は限られている。リモートワークでは職場での管理監督が難しく、もともと裁量を与えられて自律的に働ける職種でない限り様々な支障が生じやすい。端末の支給や社内ネットワークの権限管理などを、組織を超えて適切に実施することは本当に難しい。

これまで固定費を削減するために、正社員を非正規雇用に切り替える流れが続いてきた。新型コロナへの対応を経て、こうした非正規化への流れがリモートワークにも耐えうる自律的な組織運営に適しているのか、熟練によって生産性を高めていく上で適切であるかが改めて問われることになる。一方で諸外国の混乱によっては、それが経済構造の変化に適応しやすいからといって、米英型の雇用流動化が目指すべき道なのかについても疑義が生じるのではないか。

人口減少で労働人口が減り続ける日本にとって、人材は極めて重要な資産だ。社会として人的資本蓄積を積み重ねて生産性を高めていくとともに、今回のようにリモートワークを強いられる災害時にも、自律的に活動を続けられるしなやかな組織をつくっていくために、正社員と非正規とに関わらず、働き方をどう変えていくべきかが問われることになるのではないか。

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