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Math-concertに至るまで

2018年12月10日、2019年3月9日とMath-concertなる企画を数学者の細野元気氏と開催しています。

滅多に見ない企画ということで、多くの方に興味をもって頂けています。そもそもなぜMath-concertなどというものが実現できたのか、そんなお話をしてみたいと思います。

まず、発案以前の段階からのお話です。

私がパリ国立高等音楽院の鍵盤即興科に入ったとき、初めての授業でさせられたこと、それが無声映画への伴奏付けでした。直後に映画館で無声映画に実際に本番として伴奏付けをすることになります。

それ以来授業中には、連弾や、他の楽器や、詩の朗読や、手品師の演技に至るまで、いろいろなもので即興してきました。そこで、舞台演出家の小原花氏に誘われて、即興での演劇の伴奏付けというものに出会っていきます。

小原花氏との共同活動は私に多くのインスピレーションと、自信をもたらしました。ただ単純に物語の朗読にピアノでBGMをつける、ということから、言葉の羅列、随筆、自動翻訳、等さまざまな言葉に音楽をつけてきました。

そこで一回だけ自分で文章を書いたことがあるのですが、それが「巨大数」でした。

3回目の演奏の記録が残っておりますので、是非ご覧になってください。

巨大数についての出会いから書くと、これはまた一つの記事が出来上がってしまうほどの分量になってしまうと思いますので、ここでは割愛します。とにかく自分の尖った趣味として大好きな分野が、自分の専門と結びついた瞬間でもありました。

何にせよ、これらの活動が、時間を共有できるものであればなんにでも音楽をつけていくことができるのだ、という確信につながっていきます。

さて、もう一方のお話です。高校生の頃、学友、それこそ細野元気氏なのですが、彼とは現実味の無いようなふざけた話や、変に大規模な夢を披露してみたり、そんないかにも男子高校生っぽい話で盛り上がっておりました。その中の一つに、未解決問題(例えばリーマン予想)の証明を学会でするときに、オペラにしてしまおう、などというのがありました。まあ、突拍子もないお話です。

そんな彼が数学の道に決めたあとも、私は彼から多く数学のことについて学んできました。といっても無理を言って教えてもらった、といったほうが正しいかもしれません。

そうこうしているうちに、僕はパリに住むことになり、距離的にはだいぶ離れてしまいましたが、現代の技術はすごくて、パリ―東京はリアルタイムでいくらでもやり取りができます。そして、たまに数学を教えてもらったり、音楽の話をしているうちに、彼からの発案で、伴奏つきの数学の講義をやってみたい、という話になったわけです。もちろん彼は「巨大数」を実際に見ていますから、それも大きなインスピレーションになったはずです。

そして、2018年12月10日、Math-concert No.1の開催になりました。

いくつかのこだわりがありました。

絶対に第二回を開催する、という意志をこめて、タイトルにNo.1という文言を入れること。

そして、高校生であれば理解できる内容を中心にしながらも、プロっぽい議論を入れること。

もちろん、数学的な正しさには検証に検証を重ねること。

なぜプロっぽい議論が必要か、わかりやすいことだけではいけないのか、ということなのですが、まさにこれこそMath-concertの強みだからです。音無しの講義では、もちろん「理解」が最も大事な要素となります。理解できない講義は何の意味もありません。しかし、Math-concertとなると「面白いこと」がもっとも重要になってきます。さらに、音楽と数学のメリハリも必要です。数学がわからなければ音楽を聞いて楽しい、というのが大事なのです。また「わからないこと」というのは一種の笑いと興味を生み出します。突然意味不明な記号の羅列をはじめたぞ、というのは面白おかしいことですし、ああ、数学者は普段こんな議論をしているんだ、というのは興味につながります。ですから「わからないこと」をMath-concertに入れるのはとても重要なのです。

しかし、この第一回は少々難しい試みとなりました。まず時間帯が月曜日の夕方という、一般の方には来づらい時間帯だったこと。そして、大学の音楽室を使ったということで、規制が厳しく、赤字が必須だったことです。

それでも、中学生や高校生も来てくださって、10人程度の小規模ではありますが、第一回としては希望が見える結果ともなっていました。

そして、すぐに第二回を企画し、実行します。

題材選びは非常に大切です。みんなに興味を持ってもらえるような題材にしつつ、プロっぽい議論ができる幅を持たせること、これが絶対的な条件だったわけです。そこで、古典的な話題ですが、0.999...=1という等式の説明にしました。

今回の「わからないこと」は、実数のCauchy列による定義です。みなさんの感想を頂いて面白かったのは、数学に対して専門的な知識を持っている方からは「Cauchy列は難しすぎる」という意見が多かったのに対して、そうでない方からは「わかりやすかった」という意見が多かったことです。

もちろんほとんどの方がこの講義を聞いたあとに、「ああ、Cauchy列に関して理解したよ。実数の定義は~~だね」と言えるようになりはしないでしょう。というより、ほとんどのことに関して「わかった!明日からは私も人に説明できるようになったよ!」となった方はいないでしょう。

しかし、それでいいと思っています。

Math-concertでは、数学で楽しむ、ということが何より大事なのであって、その論理の流れは例え追えなかったとしても、論理の変化をピアノの音で楽しむことができる、ということが大事なのです。

こうなると、一つの希望が見えてきます。

理解できない話も、ピアノの音が付けば楽しいのではないか。

理解できないこと自身を、ピアノの音の助けで楽しむことができるのではないか。

という考えです。

様々な「難しいこと」にも即興で伴奏をつけていきたいと思っています。

なお、Math-concertの続編のためにも、協賛者を募集しています。以下の[サポートをする]ボタンからも簡単に協賛できますので、是非よろしくお願い致します。


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