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リスクを取らないことが最大のリスク

<日生の予定利率の引き下げ>

日本生命(日生)は4/5、企業から預かる年金保険の予定利率を2023年4月に1.25%から0.5%へ引き下げると発表しました。日生の契約企業は約5200社で、運用額は5.6兆円です。利率の引き下げは21年ぶりで、企業年金は掛け金の積み増しや運用実績に応じた仕組みへの変更を迫られます。背景には超低金利の長期化があります。

第一生命は2021年10月に、予定利率を1.25%から0.25%へ引き下げています。明治安田生命は2023年まで1.25%の予定利率を守り、住友生命も当分の間は同水準の利率を維持するとしているが、追随は避けられないとの見方があります。

企業年金連合会によると、企業が年金受給者に約束している予定利回りは平均2.1%、厚労省の調べでは、一定の利回りを保証する生保の年金商品が運用資産に占める割合は20%程度に登ります。

日生の企業年金保険の予定利率引き下げを受け、企業からは年金制度への影響を懸念する声が相次いでおります。掛け金の追加拠出や株式運用強化など給付が減らないための措置を検討するほか、確定拠出企業年金(DC)拡大も睨みます。

<日本の年金制度>

日本の年金制度は3階建ての構造になっています。一階部分は20歳から59歳が加入する国民年金(基礎年金)で、2階部分は加入した期間や給与に応じて上乗せ給付される厚生年金です。3階部分は任意で設けられる企業年金で、将来の支払額を保証する確定給付型(DB)と運用実績で受取額が変わる確定拠出型(DC)に分かれます。今回の見直し対象は前者の確定給付型(DB)です。

確定給付企業年金を採用している企業数は約12000社で、その運用額は67.5兆円に登ります。このうち日生は4割を超える5000社以上と契約があり、金額ベースでみると全体のおよそ10%を運用している計算になります。今回は既存の契約条件を変更する踏み込んだ対応となります。

私は会計士なので、ここで退職金の話をしたいと思います。企業のB/Sを見ると、「退職給付債務」又は「退職給付引当金」という勘定が固定負債の部に計上されている企業が多くあります。これは皆様の退職金を将来支払わなければならないという債務なのです。

<退職給付引当金の計算方法>

この退職給付債務の計算は複雑なので詳細は省略しますが、簡単にいうと以下の通りです。

退職給付引当金=退職金で支払う金額(退職債務)ー内部、外部で貯めている退職金用資産(年金資産)

要は退職金をどれだけ補填できているかという話で、不足している額が退職給付引当金というわけです。

今回の日生の発表は、「上記の年金資産が目減りします」ということです。すると計算式上引当金である負債が増えます。今後企業が自分で準備しなければならないお金が増えるということです。

<退職給付引当金はDBで発生する>

退職金制度でもう一つ知っておかなければならないことが、確定給付年金(DB)と確定拠出年金(DC)です。DBは文字の通り、給付額=退職金が確定している制度です。一方、DCは拠出額が確定している制度です。

なぜこれが重要かというと、リスクを誰が取るかが異なります。DBは退職金が確定しておりますので、運用に失敗した、又は今回の日生の発表のように年金の利回りが下がった場合、その埋め合わせは企業がしなければなりません。一方、DCの場合、運用に失敗した場合は個人がリスクを負うことになります。この点で大きく個人への負担が異なるためです。

設例を使って説明した方が分かりやすいので、簡単な設例を作りました。

設例 5年後に退職する。

拠出額は年間当たり20、5年累計で100

運用損が5年間で10発生


DBの場合

年間の拠出額20×5年=100

運用損       △10

足りない部分    +10←ここは企業が補填


退職金       100←ここが確定しているのがDB。

今後払う必要があるため、B/Sに引当金として負債計上されます。


DCの場合

年間の拠出額20×5年=100←ここが確定しているのがDC。

運用損       △10←これは個人が負担

退職金        90

DCは払ったら終わりなので、B/Sには計上されません。


<リスクを取らないことが最大のリスク>

上記企業年金1つとってもそうですが、今までは資産運用は企業が勝手にやってくれていました。企業は退職金を賄うために年金資産を運用しているのですが、以前の企業は体力があったため、福利厚生の一環としてDBが主流でした。要は企業がリスクをとっても、その分終身雇用として会社に滅私奉公が求められておりました。

現在は終身雇用はなくなり、企業も体力に余裕がなくなりました。リスクは個人に移管しないと年金制度自体が立ち行かなくなりました。これがDC、IDeCoが最近もてはやされている理由なのです。IDeCoもDCの一つです。

個人が運用するとなると、金融資産の知識、経験が必要となります。YCS No73「GPIFから学ぶ資産運用方法」でも記載しましたが、今は自分が理解して投資をする必要があるのです。他人が勝手にやってくれる幸せな時代は終わったのです。

リカレント教育が叫ばれているのも同じ理由です。YCS NO72「一生学び続ける覚悟を持とう」でも記載しましたが、終身雇用でぼーっとしていても定年まで企業が食わせてくれる時代は終わり、自分でスキルを磨いて食べていく時代となっています。一生食べる必要があるのであれば、一生学び続ける必要があるのです。

このような時代においては、リスクを取らずに現状維持でいることが最大のリスクとなります。誰も守ってくれません。外部環境が1990年代とは大きく変わったのだ、ということをまずは意識しましょう。その上で、100年人生どうやったら生き抜けるかを自分なりに考えることが大切です。時にはリスクをとって行動することが結果としてよい未来に繋がると思います。

投資も大切です。YCS No99「副業のススメ!」、YCS NO104「無形資産構築は計画的に」で生産性資産、活力資産、変身資産等無形資産投資への重要性を記載しましたが、投資することにより将来にリターンが返ってきます。現状ステイすると将来のリターンがなくなるため、ジリ貧になります。投資はリスクがつきものです。「リスクはあって当たり前」という感覚が大切だと個人的には思います。

私は去年と同じことはやらないようにしています。常にチャレンジする日々が何かを産み出すと思って活動しております。ぜひ「リスクを取らないことが最大のリスク」だと思って、日々チャレンジしましょう!



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