速報!令和5年度税制改正大綱をキーワードで理解する

昨日、2022/12/16に令和5年度の与党税制改正大綱が発表されました。本文は以下をご覧ください。

https://drive.google.com/file/d/17k1cevZ7C8eKlfye8kJyGnI_SgvCGV1N/view?usp=sharing

税と聞くと『税理士にお願いするもの』『自分では理解できないもの』というように敬遠されがちですが、実は税制には現在の政権の思いが込められています。つまり一連の税制改正には『キーワード』があるのです。この『キーワード』及び『趣旨』を理解した上で今回の税制改正大綱を読むと、頭に入りやすいかと思います。
一連のストーリーにはなっているかと思いますので、今回速報として記載させて頂きました。目的は税制改正の全体像を『キーワード』と『趣旨』をもって理解することですので、制度の詳細は税理士法人や税理士に聞いて頂ければと思います。『趣旨』はあくまで私の私見であることをお断りしておきます。網羅性はありません。私の理解が誤っている可能性もありますが、速報性を重視しましたので、ご了承頂ければ幸いです。 

<キーワード.1『投資』>

今回の税制改正で大きな柱となっている一つが『貯蓄から投資へ』です。岸田首相が就任から常に言い続けていた話です。昨年は岸田首相が9月の総裁選で首相になってすぐに衆院選があり、税制のところまで口を出す時間的余裕はありませんでした。今年一年は様々なことを込める時間があったのだと思います。岸田政権は『人への投資』を主要政策の柱と位置づけています 『Invest in Kishida』にも見られる通り、キーワードの1つ目は『投資』です。

<1.1 個人の『投資』=NISAの拡充>

(趣旨)
まずは個人の投資を増やしたいという想いがあります。日本は金融資産が2000兆円以上ありますが、投資に回っている金額は10%もありません。投資の税制優遇としてはNISAやIDeCoがありますが、やはり『NISA』の使い勝手をよくするのが一つの方針かと思います。

(改正内容)
2024年よりNISAは『成長投資枠』と『つみたて投資枠』の2つになり、両方使えます。成長投資枠は年240万円、つみたて投資枠は120万円、合わせて年360万円まで使えます。生涯を通じて投資すべきという観点から期限はなくなりました。 

<1.2 子育て世代に対する『投資』=相続時精算課税と暦年課税の折衷>

(趣旨)
大和総研の試算によると、世帯主が80歳以上の世帯が保有する預貯金比率は、2019年の15%から2030年に21.1%に拡大する見込みです。一方、子育て世代の30代は5.3%から4.6%、40代も12.3%から9.4%に減ると見込んでいます。要は消費が一番期待できる子育て世代にお金が無く、消費が出来ないのです。一方で欲しいものが少ない超高齢者世帯にお金が集まっているのが現状です。
理由の一つに贈与税の方が相続税よりも税率が高いことがあり、生前贈与がしづらい状況でした。そこで資産を渡す時期に左右されない中立的な制度を目指し、必要な子育て世代に対してお金が回りやすい環境を作ります。 

(改正内容)
相続時にまとめて税を徴収する相続時精算課税について、暦年贈与と同様110万円までは申告不要とします。
贈与税は現行、死亡前の3年間に贈与した財産を相続財産として扱っていますが、これを7年間に延長します。4〜7年前に贈与した財産も100万円を除き、相続したものとみなされます。 
 
 <1.3 企業に対する『投資』=スタートアップ支援>

(趣旨)
経済を活性化し、独創的なアイデアで新しい価値を生むためには、シリコンバレーのようにスタートアップがどんどん立ち上がって来る必要があります。日本は米中と比べると企業の回転率、起業率が低いと言われており、スタートアップ企業をどんどん生み出していく環境が必要と考えられています。そこで独創的なアイデアを持った人が起業しやすいように、起業時の資金調達をしやすい形にしました。 

(改正内容)
個人投資家がスタートアップ企業に出資した際に優遇するエンジェル税制を見直し、新たな非課税措置を設けました。また上場株などを売却しスタートアップに再投資する場合は、売却益を20億円まで非課税とします。研究開発型スタートアップ企業の範囲を広げ、未上場で設立15年未満、売上高に占める研究開発費比率が10%以上などの要件を満たすようにします。 

<1.4 企業の従業員に対する『投資』=デジタル・高度人材育成>

(趣旨)
日本経済が発展し、30年続いた賃金のフラット化を是正するためにも、人が成長しなければならないと考えています。特に期待しているのが『DX』です。国として『DX人材』を増やしていきたいという考えが根底にあります。今後は生涯を通じたリスキリングが必須です。また博士号を取得した高度人材が有効活用されていないという現実を踏まえ、活用されるように配慮しました。 

(改正内容)
DXを担う人材育成をした企業は、一定の要件を満たせば法人税を控除します。5年間で1兆円のリスキリングの指針を2023年6月までに作成します。博士号を取得した人を内部で活用した場合や、研究人材を外部から雇用した場合はその人件費の20%を控除できるようにします。 

<1.5 環境に対する『投資』=エコカー減税>

(趣旨)
地球温暖化対策のためCOPが開かれていますが、日本も2050年にCO2ネットゼロを達成するために、日々積み上げが必要となります。CO2を減らす一つの手段として車のEV化がありますが、こちらは欧米中に比べると進捗が遅れている状況です。そこでEVを普及させるために減税を行うと共に、ガソリン車は実質増税とし、車のEV化を促進します。

(改正内容)
車検の度に払う自動車重量税を燃費基準の達成度合いに応じて減免します。環境性能割は軽減対象の最低ラインを段階的に上げていきます。さらに3年後には走行距離に応じて負担を求めます。 

<キーワード.2『公平性』>

一方で税制は国の制度であり国民の公平性を担保するものでなければなりません。富裕層を優遇するような税制であってはならないのです。投資を促したい一方で『公平性』もキープする規定が必要となります。キーワードの2つ目は『公平性』となります。

<2.1 個人における『公平性』=NISAの生涯投資枠の設定>

NISAの拡充で投資を促したい一方、投資のそもそもの性質から富裕層に有利な形となります。投資は投資額が大きければ大きいほどリターン額が大きくなるためです。そこですべての国民の生涯投資枠を1800万と定め、1800万までは非課税という形にしました。

<2.2 個人における『公平性』=超富裕層への課税強化>

(趣旨)
年収が1億円を超えると一人当たりの税負担率が低下する『1億円の壁』という現象があります。原因は課税所得の違いにあります。1億円以下の年収の人はサラリーマンであることが多いため、給与所得がメインとなります。給与所得は累進性で最高税率は55%です。一方1億円超の収入を得ている人の多くは、金融所得や不動産所得がメインとなります。こちらは一律20%です。この結果1億円以下の税負担率は27%ですが、50億円超だと17%に下がります。課税所得による不公平をなくすため、ミニマム課税を導入します。

(改正内容)
(合計所得金額ー3.3億円)✖️22.5%をミニマム課税とし、税金がこの金額以下の場合、追徴します。 
 
<2.3 大企業における『公平性』=外形標準課税の基準追加>

(趣旨)
現在資本金1億円超の会社だけに課せられる外形標準課税があります。外形標準課税は課税所得の有無に関わらず発生するため、このコロナ禍で所得がなくなった大企業が相次いで資本金を1億円以下に減資し、この外形標準課税から外れた結果、対象企業はピーク時の2/3の2万社以下となっています。そこで、実質的な大企業が公平に該当するようにします。 

(改正内容)
総務省が2023年に具体案を検討します。資本金1億円超の基準は残し、1億円以下でも実質的に大企業であれば対象に加えるようにします。資本金と資本剰余金の合計額で判定する方法などが候補となる見通しです。 

税制改正に関して網羅的な内容ではないですが、『投資』と『公平性』という二つのキーワードに絞ると大部分の税制改正が説明できます。税金は自社及び家計のコストを直撃します。是非当事者意識をもって今回の税制改正で何がコスト増になり、どうやったらコスト減できるのかを考えてみてはいかがでしょうか? 
2023年1月及び2月には令和5年度税制改正セミナーを予定しておりますので、ご興味のある方は是非ご参加頂ければ幸いです。


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